なぜオーロラ爆発が起こるのか? 解説:オーロラ・サブストーム(オーロラ嵐)

文責: 海老原祐輔 
(京都大学生存圏研究所)


公開日:2016年5月1日(初版)

オーロラ嵐とオーロラ爆発

 カーテン状のオーロラは実に印象的である。時にはためき、極地の夜空を自由に動き回っているように見える。一見無秩序のように見えるオーロラの動きであるが、オーロラがある狭いところから急に光り始め、明るくなったオーロラが急速に極方向や西方向に広がるという一定の秩序があることをアラスカ大学の赤祖父俊一博士が見いだした。この一連の発達過程をオーロラ嵐と呼ぶ。今から半世紀近く前のことである。 (オーロラ研究の業界ではオーロラ嵐の事をサブストームと呼んでいるが、なぜ「サブ」なのかは説明するのに若干の紙面を要するので、ここではオーロラ嵐と呼ぶことにする。)オーロラ爆発は珍しい現象ではない。太陽風の条件が良ければ、一日に5〜6回起きることもある。しかし、オーロラ爆発は真夜中付近でおこる現象なので、地上にいる人がオーロラ爆発に巡りあう機会はそう多くはない。


 宇宙空間から地球に向かって降り込む電子が超高層大気と衝突し、大気が発光する現象がオーロラだ。オーロラの明るさは降り込む電子の量にほぼ比例する。したがって、オーロラ爆発の時にはバケツをひっくり返したように大量の電子が地球に降り込んでいるのである。電子が地球向きに流れるということは、電流は地球から外向きに流れていることを意味する。この磁力線に沿って流れる電流を沿磁力線電流と呼び、沿磁力線電流がなぜ急に強まるかという問題は宇宙空間物理学において大きな謎となっている。明るいオーロラが光っているところでは地磁気が大きく乱れる。これは、明るいオーロラの中を強いジェット電流が流れているからだ。上出洋介博士(旧名古屋大学太陽地球環境研究所元所長)はこのオーロラ・ジェット電流が沿磁力線電流と接続して電流の連続性を満たしていることを実証した。("Auroral breakup"をオーロラ爆発と和訳したのも上出洋介博士と思われる。)


 地球に接続する沿磁力線電流はどこからやってくるのだろうか。宇宙空間を流れる電流を計測することはとても難しい。ましてや、広大な磁気圏を縦横に流れる電流線を描くことは殆ど不可能である。1970年代初頭、大量の観測データを詳細に解析することで、McPherronたちは楔(くさび)型の電流系を提唱した(図1左)。磁気圏尾部で常に西方向に流れている電流が何らかの原因で分断され、余った電流が行き場を失い沿磁力線電流として地球に接続するという考え方である。楔型電流系モデルは観測を説明しやすいので広く支持されている。一方、磁気圏尾部で地球の磁力線が繋ぎ変わる磁気再結合とオーロラ爆発との相関が良いことも良く知られている。そのほか、オーロラ爆発のときには様々な変動が随所で観測されており、それらを合理的に矛盾なく説明する努力が払われている。いわば複雑なジグソーパズルを完成させるような作業で、多くの研究者が完成に向けて日々挑戦している。



図1: (左)オーロラ爆発を説明するために考えられた楔(くさび)型電流系.(右)本研究で提案した電流系.

私達が考えるオーロラ嵐の発達メカニズム

 田中高史博士(九州大学名誉教授)はグローバル電磁流体シミュレーションの開発を1990年代から始め、最近ではオーロラ嵐中に現れる特徴的なオーロラ構造や様々な関連擾乱を再現できるようになった(Tanaka, 2015)。満足すべき物理過程をシミュレーションに与えるので、シミュレーションの結果は(少なくとも仮定した物理過程の範囲では)矛盾がない。ジグソーパズルの完成版を提示してくれるのである。シミュレーション結果に基づき、私達は以下のようなオーロラ嵐の発達モデルを提案している。

  1. オーロラ嵐の成長相で現れるオーロラの特徴の一つは、東西又は南北方向に伸びたオーロラ・アークが低緯度に移動することにある。磁気圏と電離圏が結合することでレイリー・テイラー型不安定性が成長し、開いた磁力線上で微細なプラズマ圧力構造が発達する。成長相のオーロラは主にこの圧力構造が作り出す微細な沿磁力線電流を反映していると思われる (Ebihara and Tanaka, 2016)。
  2. 一方、磁気圏尾部では磁力線が引き延ばされ、やがて磁力線が繋ぎ変わる磁気再結合がおこる。 磁力線には自ら縮もうとする性質があり、付近のプラズマとともに地球方向へ押し寄せる。すると地球近くのプラズマの圧力が高まる。赤道面から離れた比較的高緯度にある高プラズマ圧領域はダイナモの役割を果たし、強い沿磁力線電流を作る。これが電離層に接続すると電子が急に降り込みはじめ、オーロラが急に明るく光りだすと考えている。オーロラ爆発の始まりだ。シミュレーションで得られた電流系を図1右に示す。従来支持されていた楔型電流系(図1左)とは大きく異なるが、静止軌道付近で観測される磁場変動も合理的に説明できる。 (Ebihara and Tanaka, 2015a)
  3. 明るいオーロラ中では電気が流れやすくなる。すなわち、電流の流れやすさが変わるため、明るいオーロラの周囲では電荷が溜まるようになる。溜まった電荷は周囲に電場を作り、磁気圏のプラズマを回転させようとする。すると沿磁力線電流が一層強まり、オーロラがより明るく光るようになる。これを繰り返すことで極方向及び西方向に広がるオーロラ・サージが発達すると思われる(図2)。 (Ebihara and Tanaka, 2015b)

 シミュレーションの答えを出しただけでは、現象を理解したことにならない。シミュレーションの結果を詳細に解析して、何が起きているかを人間が分かる言葉で分かり易く説明しなければならないのである。仮説を立てシミュレーションの結果を検証するという作業を繰り返したが、この作業は(私にとって)想像以上に難しいものであった。当初、定説とされていたメカニズムを検証したが、ことごとく失敗した。電流の保存則や力学の法則と矛盾するのである。ある時、定説と決別すると矛盾の無い説明にたどり着けることがわかった。更に突き詰めたものが上記の説明である。 3次元的な構造を考えることが重要であり、これまでのように、磁気赤道面という2次元で物事を考えていたのでは答えに辿り着かないのかもしれない。


図2: シミュレーションで再現したオーロラ爆発.

(PSTEP Newsletter No.1に掲載した記事を改編しました。)

電磁流体シミュレーションで再現したオーロラ爆発(音量注意)
電磁流体シミュレーションが示唆するオーロラ爆発のしくみ(音量注意)

参考文献

Ebihara, Y., and T. Tanaka, Substorm simulation: Insight into the mechanisms of initial brightening, Journal of Geophysical Research-Space Physics, 120, doi:10.1002/2015JA021516, 2015a.


Ebihara, Y., and T. Tanaka, Substorm simulation: Formation of westward traveling surge, Journal of Geophysical Research-Space Physics, 120, doi:10.1002/2015JA021697, 2015b.


Ebihara, Y., and T. Tanaka, Substorm simulation: Quiet and N-S arcs preceding auroral breakup, Journal of Geophysical Research-Space Physics, 121, doi:10.1002/2015JA021831, 2016.


Tanaka, T. (2015), Substorm auroral dynamics reproduced by the advanced global M-I coupling simulation, in Auroral Dynamics and Space Weather, Geophys. Monogr. Ser., vol. 215, edited by Y. Zhang and L. J. Paxton, 177 pp., AGU, Washington, D. C.