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第190回定例オープンセミナー資料

開催日時 2014/12/24(水曜日)
題目 自由落下の普遍性検証技術の地球物理学へ応用
Applications of experimental techniques used in testing the universality of free-fall to geophysical studies
関連ミッション ミッション 1 (環境計測・地球再生)

発表者

潮見幸江 (京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)

要旨

「自由落下の普遍性」は物質の化学組成に因らず物体の落下加速度は等しいという原理で、ニュートン力学やアインシュタインの相対性理論の基盤となっている。この原理を実験的に確認するためにガリレオがピサの斜塔から重さの異なる球を同時に落下させ、落下加速度が等しいことを確認したという話は広く知られている。この自由落下の普遍性は物理学の基盤となる概念であるため、可能な限り精密に実験的な検証を行うことが求められ、今日でもより高精度の検証を目指した実験開発が行われている。

本講演では、ガリレオの落下実験の現代版である地球周回衛星を用いた自由落下実験計画(図 1)や地球を使った検証実験(図 2)を紹介し、その応用技術として現在生存圏研究所で開発を行っている重力勾配計(図 3)を紹介する。重力勾配計は地下の物質密度の変動を検出する装置であり、海外では商業用資源探査等に利用されているものもある。本研究で開発している重力勾配計[4]はこれまで実用化がなされていない干渉計型検出原理を利用した装置で、可搬化が可能で耐震性の高い構造であることが特徴である。測地学に於ける野外観測や土壌水分量観測に利用することで、これまで観測が困難であった局地的な地下の物質分布の変動を捉えることができる可能性がある。

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図 1: 自由落下の普遍性検証実験の概念図 (参考文献[1]より引用)
ガリレオのピサの斜塔実験(左)と地球周回衛星を用いた自由落下実験(右)

化学組成の異なる二つの落下体(図の緑と赤)を同時に落下させ、落下加速度の差を測定する。ガリレオの実験では落下体は一瞬で落下するが、左図のように落下体を地球周回軌道に載せると、落下体は地球に向かって落下し続けるため測定時間を長くとることができる。また周回軌道上で重力以外の加速度ノイズを削減するドラッグフリー制御を駆使することで、これまでになく高感度の測定が可能となる。

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図 2: 地球を使った自由落下の普遍性の検証実験の概念図

地球の内部構造は、密度の大きい内核、液体外殻、マントルの三層に大別できる(左図)。地球は太陽を周回しているため、自由落下の普遍性が成り立たない場合は、内核の位置が太陽方向に相対的に変化する(右図)。内核の位置の変化は地表重力を変えるため、地表での重力測定を行うことで自由落下の普遍性を検証することができる[2]。

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図 3: 自由落下の普遍性検証実験[3]の原理を応用した重力勾配計の概念図(左)と写真

本研究で開発している重力勾配計[4]では二つの落下体を真空槽内で同時に自由落下させ、落下加速度の差をマイケルソン干渉計で測定する。小型化し野外観測や土壌水分量観測に利用することを目指す。

参考文献

[1] http://einstein.stanford.edu/STEP/
[2] S. Shiomi, Geophysical test of the universality of free-fall, Physical Review D 74, 027101 (2006).
[3] K. Kuroda and N. Mio, Test of a Composition-Dependent Force by a Free-Fall Interferometer, Physical Review Letters 62 (1989).
[4] 潮見幸江,黒田和明,寺田聡一,坪川恒也,西村純,レーザー干渉計型重力鉛直勾配計の開発,測地学会誌,第58巻,第4号 131–139 (2012).

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