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地球の21世紀に生きる
植物の研究
炭素の理想循環
森を取り戻すために
林隆久 略歴
taka@rish.kyoto-u.ac.jp
炭素の理想循環
炭素の理想循環
森林から得られる木質資源は、パルプ、繊維、木質構造物等の材料として、紙、衣類、木材等さまざまな用途の他、エネルギーとしても利用されています。この物質は最終的には、分解(燃焼あるいは代謝)され、CO2と水に戻り、再び植物によって固定されて木質資源に再生されます。この資源は、地球上で循環しうる唯一のバイオマテリアルです。

森林は、地球上のCO2の持続的かつ生物的シンクとして最大のものですが、既に成熟期に達しており、光合成によるCO2固定の収支はプラスマイナスゼロとなっています。そこで、化石燃料がこのまま利用されるならば、大気中のCO2濃度はますます高くなり、100年後には人類破局のシナリオも予測されています。加えて、人間による森林破壊は深刻な問題です。例えば、文明は陶磁器を発明し、そのために大量の木材・炭が燃やされてしまいました。おかげで、世界の文明の発祥地はみんな砂漠のようになっています。かつて豊富な森林に覆われていたイスラエルでは人間活動が森林を絶やし、その結果雨も降らなくなり、国土の大半が砂漠と化して生物の多様性は既に失われてしまいました。地球規模で計画的に森林の再生と保全を行うとともに、CO2を木質資源にリサイクルして材料やエネルギーに変換する方策が求められています。

資源の乏しいわが国は、エネルギーにおいては、原子力発電を積極的に導入し、機器やシステムの改良を行って省エネ技術の開発に努めてきました。今日、再生エネルギー資源の導入を推進して行かなければならない時にあります。バイオマスの開発・利用研究は、年々技術が向上しています。しかしながら、一旦その利用が軌道に乗ると、利用可能なバイオマス資源は限られているところに問題があります。世界の森林面積は毎年減少しており、このままでは、化石燃料と同じで木質資源もいずれは枯渇する運命にあります。

東南アジアの人工林では早生樹が植林されていますが、安価な紙パルプ原料にしか利用できず、炭素固定のターンオーバーが短いものとなっています。加えて樹木の葉はCO2吸収速度が低いことが知られています。なぜ樹木の炭素吸収速度が低いのか解明されていません。炭素の固定には、ソース機能とシンク機能の共同作用が必要ですが、私は樹木のシンク機能とくにセルロース合成能が低いためと考えています。海外では、ジベレリンの生合成酵素遺伝子を発現させたポプラ(スウェーデン農科大学)や、セルロース結合ドメインを発現させたユーカリ(イスラエルヘブライ大学)が作出され、早生樹の成長をさらに高めてシンク機能を活性化させる研究が盛んです。林木においては地球温暖化問題に対する社会正義からCO2吸収源を拡大する組換え林木の実用化も急速に展開していくことが予測されます。
炭素の理想循環図
炭素の理想循環図
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