■ サブオーロラ帯
オーロラ帯の低緯度側に広がる領域をサブオーロラ帯と呼ぶ。直接的なオーロラ活動が無いことからオーロラ帯と比べて静かな領域であると考えられるが、音速を超えるような高速のプラズマ流がサブオーロラ帯の電離圏で観測されており、決して静穏な領域ではない。また、サブオーロラ帯は磁力線を介してリングカレントと直結しており、いわばリングカレントの影響を直接的に受けると考えられる。
磁気嵐時にはオーロラ帯が低緯度側に移動し、サブオーロラ帯の高速流もより低緯度に移動する。北海道-陸別短波レーダーは、ある磁気嵐時に西向きの高速流を観測した(図1)。その高速流は明らかに数十分の時間スケールで変動しており、人工衛星では得ることのできない詳細な高速流の時間空間変動がとらえられている。

図1:北海道-陸別短波レーダーが観測した西向きの高速流(青い箇所)。レーダーのビームに沿っての視線方向のドップラー速度を色で示しており、青色はレーダーに近づく方向、すなわち西向きのプラズマ流を表している。
リングカレントのシミュレーションをより現実的なものとするため、境界条件にこだわった。リングカレントの外側に位置する静止軌道には常時複数の衛星がプラズマを観測しており、そのデータはリングカレントのシミュレーションの境界条件として好都合である。幸い、このときは4機の人工衛星が静止軌道上でプラズマを観測していた。リングカレントと電離圏が結合したシミュレーションであるため、電離圏における電場ポテンシャル、つまり電離圏プラズマフローをリングカレントに呼応した形で計算することができる。観測とシミュレーションの結果を比較する方法には二つある。局所的に得られた観測量をグローバルな量に変換して比較する方法、そして、シミュレーションの中にに仮想レーダーや仮想衛星を置き、仮想観測の結果を現実の観測結果と比較する方法である。前者は観測では得られない量を仮定によって補うことから不確定性が増す。後者は、シミュレーションで取り入れた仮定に対する影響を直接的に観測結果と比較できるという利点があり、私は後者を好む。図2は仮想レーダーの結果と実際のレーダー観測の結果を比較したものである。中央の図は観測に基づく境界条件をシミュレーションに与えたもので、観測結果とよく一致することがわかる。下の図は境界条件を一定にした場合のもので、観測で見られたような時間変動がみられない。従って、時間変動する境界条件が観測を説明する上での十分条件であることが示唆される。プラズマの境界条件が時間変動は、リングカレントの微細な空間変動を作ることになる。つまり、西向きのプラズマ流の時間変動は、リングカレントの時間・空間変動に対応しているという結果が導き出せる。

図2:北海道-陸別短波レーダーが観測した電離圏プラズマ流(上)、シミュレーションによって再現したプラズマ流(中)、プラズマに関する境界条件を固定とした場合のプラズマ流(下)。シミュレーション結果は観測結果をよく説明する。つまり、リングカレントの変動がサブオーロラ帯の高速プラズマ流を制御していることが言える。