地球をとりまく巨大電流〜リングカレント〜

リングカレント

リングカレントは地球をぐるりと囲むように宇宙空間を流れる巨大電流です(図1)。 アンペールの法則によってリングカレントが作る磁場は強力です。 地表に設置している磁力計のデータを観察すると,地球の全磁場が数日間にわたって弱まったようにみえることがあります(図2)。 これを伝統的に磁気嵐と呼んでいます。 磁気嵐はリングカレントが数日間にわたって激しく強まった結果であり,太陽の擾乱にその原因があると考えられています。

リングカレントの実体はエネルギーの高いイオンで,リングカレントを理解することは磁気嵐を理解することにつながります。 リングカレントは巨大な電流源ですので,宇宙空間の磁力線の構造を大きく変形させるばかりではなく, 宇宙空間で閉じることのできない大電流を地球上層にある電離圏に流しこみます。 リングカレントが二次的に変形する磁場や電場はリングカレントを担うイオンの運動を決定づけるので, リングカレントのダイナミクスは非線形性の強いことが近年指摘されています。 そのようなリングカレントの発達と減衰そして他の領域との結合過程を,運動論的な立場と粒子と場の自己無撞着性の立場から シミュレーションと人工衛星データを解析することによって調べています。

 

ring current

図1:計算機シミュレーションが描くリングカレントの3次元構造。 白い球で示された地球を取り囲むように,赤い西向きの電流と青い東向きの電流が流れています。 [Ebihara and Ejiri, 2003]

ring current

磁気嵐が発生すると数日間にわたり地磁気が汎地球規模で異常に減少します。 地球の近くを流れる巨大な電流=リングカレント=が発達するためです。

シミュレーション結果

2003年11月20日に大磁気嵐が発生しました。このときの内部磁気圏の状態(リングカレント)をシミュレーションによって再現した結果を図3に示します。 プラズマ圧力を赤道面で示しています。 極めてプラズマ圧の高い領域が赤道上空3000kmまで迫っており, 地球への影響がいかに大きかったことがわかります。 事実,リングカレントが作る地球磁場の減少としては観測史上2番目を記録しました。 リングカレントが地球の直近まで近づいたというシミュレーションの結果は人工衛星観測によって確かめられました。

なぜリングカレントが強まったのでしょうか。一つの大きな原因として、南向き成分を持つ惑星間磁場が到来することによって、磁気圏に印加される電場が強まったことが考えられます。極軌道衛星による観測で、磁気圏の電位差は数百 kVに達したことを確かめました。 ところが、シミュレーションによると、それだけでは観測を説明することができませんでした。静止軌道衛星が観測したプラズマの密度と温度をシミュレーションの境界条件としたところ、観測結果と合うようになります。つまり、電場の増強だけではなく、濃いプラズマが地球方向へ流入することによって、一層リングカレントが増強されたと考えることができます。もし、プラズマの密度が上がらなければ、リングカレントは観測史上2番目の強さにまで発達しなかったことでしょう。

 

図3: 2003年11月20日に発生した観測史上2番目に強い磁気嵐におけるリングカレントのシミュレーションの結果。 高エネルギーイオンが作るプラズマ圧力を赤道面上に示したもので,中央の円は地球。 地球の直近まで高プラズマ圧の領域が迫っていることがわかります。 [Ebihara et al., 2005より] (再生されない場合)

参考文献

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