■ 磁気圏対流とリングカレント
太陽風と地球磁気圏の相互作用により,電離圏とそれにつながる磁気圏は大規模なプラズマの循環がおこっています。 これを対流と呼びます(図1)。 惑星間空間磁場が南を向いたり太陽風が強まったときには対流が一層つよまります。 リングカレントを担うイオンは対流が作る電場によって地球の近くに運ばれ加速された結果といえます。 リングカレントは地球の周りを流れる巨大な電流です。宇宙空間で閉じることのできない余った電流は 磁力線に沿って上空の電離圏に流れ込むことになります。そこで生じる2次的な電場は対流電場を 打ち消そうとします。 磁気嵐のようにリングカレントが良く発達していると 2次的な電場も強くなります。そして対流電場さえも打ち消してしまうほど強くなることもあり, これを過遮蔽と呼んでいます。 北海道-陸別短波レーダーは過遮蔽を2次元ではじめて捉えることに成功しました。

図1:Weimer2001型モデルによる対流電場ポテンシャルパターン。北極上空から地球を眺めたもので,上が太陽,左が午後,右が午前,下が真夜中に対応する。 午前側では時計まわりに,午後側では反時計まわりにプラズマ流が流れている。
■ 北海道-陸別短波レーダー
北海道-陸別短波レーダーは北海道陸別町に設置された大規模な短波レーダーです。 図2に北海道-陸別短波レーダーの視野を示します。 現在は視野が拡張され,アラスカの上空を観測できるようになっています。
■ プラズマ流の大逆流
2006年12月14-15日に発生した大磁気嵐のときに北海道-陸別短波レーダーが観測したデータを図3に示します。 上から南北方向の惑星間空間磁場,エコー強度,ドップラー速度,スペクトル幅です。 重要なのはドップラー速度で,惑星間空間磁場が北を向くとオレンジ色で示されたようなレーダーから遠ざかる方向のプラズマ流が観測されています。 右の図は地磁気座標に書いたドップラー速度の2次元分布です。オレンジ色で示されたレーダーから遠ざかる方向のプラズマ流が広く分布していることがわかります。
■ シミュレーション結果
リングカレントと電離圏が結合したシミュレーションを行います。 図4はその結果です。 下の段の黒い線は計算した電場ポテンシャルで,赤い矢印はプラズマの進行方向になります。色で電離圏に流出入する電流量をしめしています。 惑星間空間磁場が南を向いている時,プラズマ流は太陽方向に流れています。これが通常の状態。 ところが,惑星間空間磁場が急に北を向くと,昼側のプラズマ流は渦を描くようになります。 扇型はレーダーの視野で,レーダーはレーダーから遠ざかる方向のプラズマ流を観測したことがわかります。 再び惑星間空間磁場が南を向くと太陽方向のプラズマ流に戻ります。
北海道-陸別短波レーダーのあるビームに沿ってのプラズマ流を観測結果と比較したのが図5です。 惑星間空間磁場が北を向くのにあわせて,オレンジ色で示されたレーダーから遠ざかる方向のプラズマ流がよく現れていることがわかります。