なぜオーロラ爆発が起こるのか? 解説:オーロラ・サブストーム(オーロラ嵐)

文責: 海老原祐輔 
(京都大学生存圏研究所)


2016年5月1日(初版)
2024年11月(改訂)

オーロラ嵐とオーロラ爆発

 カーテン状のオーロラは実に印象的である。時にはためき、極地の夜空を自由に動き回っているように見える。一見無秩序のように見えるオーロラの動きであるが、オーロラがある狭いところから急に光り始め、明るくなったオーロラが急速に極方向や西方向に広がるという一定の秩序があることをアラスカ大学の赤祖父俊一博士が見いだした。この一連の発達過程をオーロラ嵐と呼ぶ。今から半世紀近く前のことである。 (オーロラ研究の業界ではオーロラ嵐の事をサブストームと呼んでいるが、なぜ「サブ」なのかは説明するのに若干の紙面を要するので、ここではオーロラ嵐と呼ぶことにする。)オーロラ爆発は珍しい現象ではない。太陽風の条件が良ければ、一日に5〜6回起きることもある。しかし、オーロラ爆発は真夜中付近でおこる現象なので、地上にいる人がオーロラ爆発に巡りあう機会はそう多くはない。


 宇宙空間から地球に向かって降り込む電子が超高層大気と衝突し、大気が発光する現象がオーロラだ。オーロラの明るさは降り込む電子の量にほぼ比例する。したがって、オーロラ爆発の時にはバケツをひっくり返したように大量の電子が地球に降り込んでいるのである。電子が地球向きに流れるということは、電流は地球から外向きに流れていることを意味する。この磁力線に沿って流れる電流を沿磁力線電流と呼び、沿磁力線電流がなぜ急に強まるかという問題は宇宙空間物理学において大きな謎となっている。明るいオーロラが光っているところでは地磁気が大きく乱れる。これは、明るいオーロラの中を強いジェット電流が流れているからだ。上出洋介博士(旧名古屋大学太陽地球環境研究所元所長)はこのオーロラ・ジェット電流が沿磁力線電流と接続して電流の連続性を満たしていることを実証した。("Auroral breakup"をオーロラ爆発と和訳したのも上出洋介博士と思われる。)


 地球に接続する沿磁力線電流はどこからやってくるのだろうか。宇宙空間を流れる電流を計測することはとても難しい。ましてや、広大な磁気圏を縦横に流れる電流線を描くことは殆ど不可能である。1970年代初頭、大量の観測データを詳細に解析することで、McPherronたちは楔(くさび)型の電流系を提唱した(図1左)。磁気圏尾部で常に西方向に流れている電流が何らかの原因で分断され、余った電流が行き場を失い沿磁力線電流として地球に接続するという考え方である。楔型電流系モデルは観測を説明しやすいので広く支持されている。一方、磁気圏尾部で地球の磁力線が繋ぎ変わる磁気再結合とオーロラ爆発との相関が良いことも良く知られている。そのほか、オーロラ爆発のときには様々な変動が随所で観測されており、それらを合理的に矛盾なく説明する努力が払われている。いわば複雑なジグソーパズルを完成させるような作業で、多くの研究者が完成に向けて日々挑戦している。



図1: (左)オーロラ爆発を説明するために考えられた楔(くさび)型電流系.(右)本研究で提案した電流系.

私達が考えるオーロラ嵐の発達メカニズム

 田中高史博士(九州大学名誉教授)はグローバル電磁流体シミュレーションの開発を1990年代から始め、最近ではオーロラ嵐中に現れる特徴的なオーロラ構造や様々な関連擾乱を再現できるようになった(Tanaka, 2015)。シミュレーションの結果は仮定した物理仮定の範囲内で矛盾がない。つまり、電磁流体近似におけるジグソーパズルの完成版を提示してくれるのである。電磁流体シミュレーションの結果を解析すると、以下のようにしてシミュレーションの中でオーロラ嵐が発達していることが分かった。

  1. 成長相:
     成長相では東西に伸びた静穏アークがゆっくりと低緯度に移動する一方、東西又は南北方向に伸びたオーロラ・アークが高緯度域に現れる。高緯度オーロラは静穏時アークに向かってゆっくりと移動する。移動するうち、南北方向から東西方向に向きが変わることもある。シミュレーションではそのようなオーロラを再現することができる。惑星間空間磁場が北向きのとき、磁気圏と電離圏が結合することでレイリー・テイラー型不安定性が成長し、開いた磁力線上で微細なプラズマ圧力構造が発達する。これに対応するように、太陽方向に伸びたオーロラが発達する。惑星間空間磁場が南を向くと対流が強まり、微細なプラズマ圧力構造が低緯度側に移動する。同時に細長いオーロラも低緯度側に移動する。成長相の高緯度オーロラは、こうした微細な圧力構造が作り出す微細な沿磁力線電流を反映していると思われる (Ebihara and Tanaka, 2016)。

  2. 拡大相オンセット:
     オーロラ帯の低緯度側のある狭い領域でオーロラが急に明るく光り、西向き、北向き、ときには東向きに拡大する。シミュレーションでは、以下のようにして拡大相オンセットが発生していた。
    1. 成長相で引き伸ばされた地球の磁力線が磁気圏尾部で繋ぎかわる(リコネクション)。
    2. 高温のプラズマが地球方向に押し寄せる。
    3. 地球に向かう高速のプラズマ流(バースティー・バルク・フロー)は(プラズマの圧力や地球の磁場の圧力によって)行く手を阻まれ、東西方向に分流する。東西方向に進むプラズマは地球の磁力線を引っ張り、アルベン波と強い沿磁力線電流を作る(図2)。
      地球近くのプラズマの圧力が高まる。赤道面から離れた比較的高緯度にある高プラズマ圧領域はダイナモの役割を果たし、強い沿磁力線電流を作る。(Ebihara and Tanaka, 2015a)
    4. 西向きに進むプラズマは強い上向き沿磁力線電流を作り、これに対応するように電子が地球方向に動く。
    5. これが電離層に接続すると電子が急に降り込みはじめ、オーロラが急に明るく光りだす
  3. オーロラ爆発を特徴づける沿磁力線電流とそれに付随するアルベン波を電磁流体近似で十分説明することができる(Ebihara and Tanaka, 2023)。ミクロなプラズマ不安定性や、非磁化電子による分極など非電磁流体過程が関与している可能性はある。運動論を考慮した詳細な検討が必要である。
    図2: オーロラ爆発を駆動する沿磁力線電流の発生メカニズム (Ebihara and Tanaka, 2023).
    参考までに、シミュレーションで得られた電流線を図1右に示す。従来支持されていた楔型電流系(図1左)とは大きく異なり、オンセット地点に繋がる電流線は、尾部電流と接続していないようである。高速プラズマ流が地球に押し寄せると圧縮によりプラズマ圧力は上昇し、反磁性電流は上昇せざるを得ない。反磁性電流は赤道面でとくに強く、沿磁力線電流が尾部電流と接続するのを妨げている。

  4. 拡大相:
    オンセットの後、明るいオーロラが西方向、極方向、そして東方向に拡大する。とくに拡大する明るいオーロラの先端部はサージと呼ばれている。電子が超高層大気に降り注ぎ、明るいオーロラが現れることは、大気の電離が進み、電流が流れやすくなることを意味する。明るいオーロラの周囲と比べると電流量が上がるため、明るいオーロラの方では行き場を失った電流のため、正の電荷が溜まるようになる。溜まった電荷は周囲に電場を作り、磁気圏のプラズマを回転させようとする。すると上向きの沿磁力線電流が一層強まり、オーロラがより明るく光るようになる。その反対側では負の電荷が溜まり、上向きの沿磁力線電流が減少し、オーロラは消える。上向き沿磁力線電流の増加と減少を繰り返すことで極方向及び西方向に広がるオーロラ・サージが発達すると思われる(図3)。 (Ebihara and Tanaka, 2015b)

 シミュレーションの答えを出しただけでは、現象を理解したことにならない。シミュレーションの結果を詳細に解析して、何が起きているかを人間が分かる言葉で分かり易く説明しなければならないのである。仮説を立てシミュレーションの結果を検証するという作業を繰り返したが、この作業は(私にとって)想像以上に難しいものであった。当初、定説とされていたメカニズムを検証したが、ことごとく失敗した。電流の保存則や力学の法則と矛盾するのである。ある時、定説と決別すると矛盾の無い説明にたどり着けることがわかった。更に突き詰めたものが上記の説明である。 3次元的な構造を考えることが重要であり、これまでのように、磁気赤道面という2次元で物事を考えていたのでは答えに辿り着かないのかもしれない。


図3: シミュレーションで再現したオーロラ爆発.

(PSTEP Newsletter No.1に掲載した記事を改編しました。)

電磁流体シミュレーションで再現したオーロラ爆発(音量注意)
電磁流体シミュレーションが示唆するオーロラ爆発のしくみ(音量注意)

参考文献


Ebihara, Y., and T. Tanaka, Substorm simulation: Formation of westward traveling surge, Journal of Geophysical Research-Space Physics, 120, doi:10.1002/2015JA021697, 2015.


Ebihara, Y., and T. Tanaka, Substorm simulation: Quiet and N-S arcs preceding auroral breakup, Journal of Geophysical Research-Space Physics, 121, doi:10.1002/2015JA021831, 2016.


Ebihara, Y., and T. Tanaka, Generation of field-aligned currents during substorm expansion: An update, Journal of Geophysical Research-Space Physics, 128, e2022JA031011, doi:10.1029/2022JA031011, 2022.


Tanaka, T. (2015), Substorm auroral dynamics reproduced by the advanced global M-I coupling simulation, in Auroral Dynamics and Space Weather, Geophys. Monogr. Ser., vol. 215, edited by Y. Zhang and L. J. Paxton, 177 pp., AGU, Washington, D. C.