『生存圏研究-Sustainable Humanosphere』 ISSN 2758-4259 第21号,2025(令和7)年11月12日発行
ISSN 2758-4259 No.21 PDF
目次・巻頭言
目次
巻頭言 生存圏研究所 広報委員長 高橋 けんし
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論文
1. 国際共同利用・共同研究拠点制度導入からの示唆
桑島 修一郎,上田 義勝
P3-P9 PDF
概要(クリックで表示)
日本における国際的な研究水準低下が顕在化してきたことを受け、第3 期中期目標・中期計画期間(2016-2021)に、共同利用・共同研究拠点制度において「国際共同利用・共同研究拠点」が導入された。多くの研究分野が参画する際の多様性の保持と国際的な研究水準向上の両立は難しい課題であり、第3 期拠点期末評価では国際拠点は別枠とする評価体系が採用されたが、直近の第4 期中間評価では国際拠点を同じ枠組みに含めた評価体系に変更され、拠点制度全体で国際的な研究水準向上を目指す方向性にシフトしたことが示唆された。しかしながら、この経緯については不明であり、したがって本稿では、国際拠点導入が検討された文科省研究環境基盤部会第8 期及び第9 期の会議資料にまで遡り、導入の経緯とそれにより生じる本質的な課題を再確認することにより、同制度の評価の在り方について考察を試みた。(クリックで格納)
総説
2. 森林圏ー大気圏のガス交換フラックス計測のための分光技術
高橋 けんし
P10-P20 PDF
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森林圏を含む陸上生態系と大気圏との間の運動量,エネルギーおよび物質の交換速度(フラックス)に関する研究は、グローバルな炭素循環に陸域生態系が果たすの役割と機能を解明するという観点から非常に重要であり、世界的に推進されている。ガスフラックス計測のためには、研究対象とするガスの濃度を高精度かつ迅速に計測できる分析装置が必要となる。本稿では、分光技術を用いた大気微量成分の高感度検出法の基礎原理を紹介する。特に、近年に発展してきた、共振器(光学キャビティー)を利用する新しい分光法のいくつかを取り上げる。また、筆者らが分光計測技術を応用して行っている、温室効果気体や大気汚染物質のフラックス計測の実例についても紹介する。(クリックで格納)
3. リグニンの創薬資源化
岡部 由美
P21-P26 PDF
概要(クリックで表示)
我々の生活を支えている燃料、プラスチック、化成品、医薬品等には、芳香環を持つ化合物が数多く存在する。そのため、物質生産における天然の芳香環骨格の供給源として、植物細胞壁成分の1つであるリグニンが注目されている。その利用法の研究開発は目覚ましい進歩を遂げている一方で、医薬品のような化合物構造と作用機序の解明が重要となる利用法に向けた研究は、未だ拡大・発展の余地が多く残されている。将来的な医薬品用途利用を目指し、リグニン・リグノセルロース由来の生理活性物質の創出および探索を目指したこれまでの研究は主に、二つに大別できると考えられる:①分解したバイオマスから有機合成のパーツとなる小規模分子であるビルディングブロックや、合成の出発物質となるリグニン由来プラットフォームケミカルを単離し、より大きく複雑な化合物へと合成・修飾していくアプローチ、②バイオマス中のリグニンを処理・分解して得た混合物(画分)としてのリグニンを評価するアプローチ、の二つである。本稿では、著者が進めてきた木質バイオマスからの生理活性物質創出を目指したこれまでの研究成果を含む、世界で行われているリグニン由来の生理活性物質創出・創薬に向けた研究を紹介し、リグニンの創薬資源化についての現状の整理を試みる。(クリックで格納)
4. タンザニアのミオンボ林における住民参加型森林管理の展開と課題
仲井 一志
P27-P33 PDF
概要(クリックで表示)
2000年代初頭以降に加速したタンザニアの経済成長は都市部の発展を促進し、それに伴って森林資源としての木材需要も急速に拡大した。需要の増大は森林への産業的伐採圧を高め、同国内の森林資源は減少している。持続可能な森林経営の手法として、熱帯の開発途上国を中心に住民参加型森林管理(Participatory Forest Management: PFM)が導入される中、タンザニアでも1990年代後半からPFMの制度整備と実装が進められてきた。しかし、経済成長に伴う人口増加と農業の拡大により、特に農村部では森林保全と生活の両立が困難になる事例も多い。本稿では、タンザニアの森林事情とPFMの制度構造、さらに換金作物を中心とする農業の拡大が森林に及ぼす影響を整理し、PFMを実効的なスキームとして機能させるための条件を考察する。特に、森林認証制度を基盤とした地域参加型森林経営の先進事例の取り組みを紹介し、地域社会・市場・制度が連携した森林保全モデルの可能性と限界を検討する。(クリックで格納)
5. 人工知能時代の電離圏研究
劉 鵬、 横山 竜宏
P34-P39 PDF
概要(クリックで表示)
地球電離圏は太陽光によって高層大気の一部が電子とイオンに電離した生存圏の一つの領域であり、太陽地球系結合の影響により様々な宇宙天気現象を生じる。これらの電離圏時空間異常変化が生存圏の電磁気環境に影響し、通信信号の途絶や衛星測位の劣化などの要因となるため、近年益々研究者の注目を引いている。しかし、全世界で数十年間の膨大な観測データを統括的に解析し、さらに予測できる自動システムの開発は現在まで十分とは言えない。一方で2010 年代初頭からの機械学習技術の発展は目覚ましく、幅広い研究分野に適用され人間社会に大きな影響を与えており、まさに人工知能(AI)時代を迎えていると言える。最新のAI 技術を用いて前述の電離圏分野の問題も解決できることが期待される。本総説を通じて、まず電離圏のリモートセンシング手法と機械学習などAI モデルの特徴の二つの視点から概説し、現状のまとめと将来の展望の両面から機械学習技術に基づいた電離圏変動の検出と予測および既存の電離圏モデルの性能向上への応用について紹介する。(クリックで格納)
6. 侵略的外来植物由来の二次代謝産物が駆動する植物-根圏微生物間相互作用
中村 直人
P40-P44 PDF
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外来植物は、根から滲出する特化二次代謝産物(plant specialized metabolites:PSMs)を介して根圏微生物群集を改変し、特定微生物の集積や排除を行うことで、自身の侵略に有利な植物-土壌フィードバックを形成している可能性がある。農作物やモデル植物では二次代謝産物 が根圏群集の構造と機能を方向づけることが多くの研究で示されてきたが、侵略生態学における根圏二次代謝産物の役割に着目した研究は少ない。本総説では、外来植物であるマンリョウ(Ardisia crenata)の事例を中心に、外来植物由来の二次代謝産物が根圏微生物組成を変化させるメカニズムやその生態学的影響波及効果について概説する。(クリックで格納)
解説
7. ファインバブルを巡る国際標準化
上田 義勝, 仲上 祐斗, 桑島 修一郎
P45-P51 PDF
概要(クリックで表示)
小さな泡(ファインバブル等)に関する研究について、昨年度に生存圏研究所オンライン公開講座として開催した。このセミナーでは一般的な内容紹介とともに、小さな泡の効果に懐疑的な見方がある点も紹介した。現在、ファインバブルとして定義した正確な情報公開のため、ISO(国際標準化機構)の技術委員会TC281 において国際標準化の議論が進められている。この委員会ではファインバブルの正確な生成方法や計測手法の規格化が検討されており、世界中の研究者・技術者が連携して科学的エビデンスに基づく標準を設定することで、その信頼性を高めている。本稿では、小さな泡が正しく用いられるための指標としての標準化について、わかりやすく紹介・解説する。(クリックで格納)