研究内容

植物微生物相互作用に関与する輸送体

 植物の根の周りには細菌類・菌類・卵菌類や線虫など様々な生物が棲んでいます。これらの生物の中には、根粒菌や菌根菌、PGPR(作物の生長を促す根圏細菌)のように植物の生育を助ける微生物の他、植物に感染し、最悪の場合枯死させる病原菌も存在します。植物がこれらの生物とどのように共存し、土壌生物の機能を活用して生長しているかを理解することは人類の持続的生存にとって重要な課題です。当研 究室では、土壌中の多様な植物と微生物の相互作用の中で、マメ科植物と根粒菌の共生に着目して研究を進めています。

 多くのマメ科植物は根粒菌と共生することにより、大気中の窒素を還元し利用することができるため、窒素の少ない土壌でも生育することができます。そのためレンゲなどのマメ科植物は古くから緑肥として利用されてきました。窒素は植物の必須元素の中でも最も要求量が大きく作物生産を規定する要因になりやすい元素の一つであるため、この生物学的窒素固定は持続可能な農業を考える上で重要な植物と微生物の相 互作用の一つです。

 マメ科植物と根粒菌の共生は、マメ科植物の根からフラボノイドなどのシグナル分子が分泌されることにより始まります(参考文献1)。シグナル分子を受容した根粒菌はマメ科植物の根の近傍へ誘因され、Nodファクターと呼ばれるシグナル物質を分泌します。Nodファクターは根毛のカーリングや皮層細胞の細胞分裂を誘導し、根粒菌は感染糸を形成して根の中に侵入します。根粒菌は根の細胞内に取り込まれシンビオソームという細胞小器官様の構造を形成します。シンビオソームの中で大気中の窒素をアンモニアに還元する反応が行われ、アンモニアが植物細胞側へ供給されます。一方で植物は炭素源として有機酸やその他の栄養素を根粒菌(バクテロイド)に供給しています。

 ゲノム解析の進展と変異体を用いた分子遺伝学的解析により、上記の根粒形成や共生窒素固定に関わる遺伝子が近年多数報告されてきました(参考文献2)。しかし、根粒形成や共生窒素固定に関与する、オーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモン、フラボノイドなどの二次代謝産物、糖や有機酸等の低分子化合物が、植物の根や根粒でどのように代謝され輸送されているのかについてはあまりよく分かっていません。本研究では、「低分子化合物の代謝と輸送」という観点からマメ科植物と根粒菌の共生を明らかにしていきたいと考えています。

参考文献
(1)Sugiyama, A., Shitan, N. and Yazaki, K.Involvement of a soybean ATP-binding cassette-type transporterin the secretion of genistein, a signal flavonoid inlegume-Rhizobium symbiosis. Plant Physiology, 144: 2000-2008.(2007)
(2)川口正代司編集「ミヤコグサで解き明かす菌根・根粒共生系の分子基盤」蛋白質核酸酵素2006年8月号