要旨
大気中を浮遊する多種多様な微粒子(エアロゾル)は、健康影響や地球環境変動といった喫緊の問題に対して密接に関係している。深刻な中国の大気汚染が報じられ、気流に乗って物質が日本へたどりつく「越境汚染」が注目された際には、喘息疾患や発ガンのリスクなど、微小粒子状物質(PM2.5)による健康被害についての議論が関心を集めた。一方で、エアロゾルはヒトの健康のみならず、気候変動、酸性雨、成層圏オゾン破壊などの多岐にわたる現象の成因に、直接的または間接的に関与することが知られている。安全で安心な大気環境を確立・維持するためにも、現在のエアロゾルの動態を詳細に把握し、将来的な変動を正しく予測することが求められている。
エアロゾルは、工場や自動車などの人間活動がもとになって排出された『人為起源』のものと、森林や土壌、海水など自然界から放出された『自然起源』のものとに大別される。また、粒子として大気に直接放出されたものを『一次粒子』、ガスとして放出されるが、さまざまな要因で凝縮して粒子化したものを『二次粒子』という。エアロゾルが環境や健康のどの要素に影響するかは、これらの発生源や生成・変質過程の違いを反映した粒子の大きさ、形状、化学性状などに依存する。そのため、エアロゾルの動態について理解するためには、物理・化学両面から粒子特性を明らかにするアプローチが必要となる。
発表では、微粒子の大気環境影響の概念と理解の現状についてとりあげ、著者がレーザーや太陽光を光源として用いた計測から捉えたエアロゾルの動態と合わせて紹介する。
エアロゾルの発生源および生成・成長過程と粒径分布の関係