要旨
高度 90–400 km 程度の熱圏・電離圏と呼ばれる高度は、太陽紫外線の影響により大気の一部が電離した状態で存在しています。電離圏は下層大気と宇宙空間を繋ぐ遷移領域であ ると同時に、衛星電波が遅延等の影響を受ける伝搬経路でもあり、特に、局所的なプラズマ密度の不規則構造を伴う電離圏擾乱が発生した場合には、電波の振 幅、位相の急激な変動(シンチレーション)が生じるため、GPS 等による電子航法に深刻な障害を及ぼすことが知られています。科学・実用の両面において非常に重要な領域であるにもかかわらず、地上から観測するには高度 が高すぎ、人工衛星にとっては高度が低すぎるため、直接観測する手段は非常に限られています。精度良く直接観測ができる唯一の手段が観測ロケットです。ロ ケットに搭載した種々の測定装置により、電子密度、電子温度、電場、磁場等の物理量を直接測定することが出来ます。また、ロケットから発光物質を放出し、 その軌跡を地上から追跡することにより、大気の風速を観測することも可能です。本セミナーでは、近年の日米における観測ロケット実験の結果と今後の計画に ついて紹介します。
図: 頭胴部組立時 (宇宙科学研究所)
図: 発射場 (内之浦宇宙空間観測所)