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−京都大学生存圏研究所バイオマス変換分野の取り組み−

 大気中の二酸化炭素濃度の増加率と石油などの化石資源の消費量はほぼパラレルな関係にあります。従って、今世紀の爆発的人口増加に対応すべく化石資源の消費をつづけていくと、地球温暖化問題は取り返しがつかないほど深刻化すると予想されています。一方で、石油の採掘可能埋蔵量は平均43年程度と見積もられており、地球温暖化問題の深刻化とともに化石資源の枯渇による社会基盤の崩壊が今世紀半ばにも起ると危惧されています。石油などの化石資源は、エネルギーのみでなく、プラスチック、合成繊維、接着剤、農業資材、化学肥料、など現代生活の基盤そのものを支えています。人類は石油を消費・変換する技術を得たことによりこうした様々な利便性を得る一方、二酸化炭素、発ガン性物質、環境ホルモン、いつまでも分解しないプラスチックなど生命にとってありがたくない物質を数多く環境中に放出してきました。私たちが社会の仕組みを変えない限り、これらの問題は人類を含む生物全体の生存を脅すことになるでしょう。

 こうした資源・環境問題を解決するためには、社会の基盤を石油などの化石資源の消費から再生可能な資源の循環利用に転換することが何よりも必要です。再生可能な資源の中で樹木が生産する木質バイオマスは、地球上でもっとも生産量の多い有機資源であるため、その生産と消費のバランスを保った形でのケミカルスやエネルギーへの変換利用は、化石資源の急速な消費に伴う資源枯渇問題や地球温暖化問題解決の切り札となると期待されています。太陽光発電や風力発電はエネルギーは生み出せますが、有機物である化学品などには変換できません。こうした意味からバイオマスを有用物質に変換する研究の意義は今後計り知れないほど大きなものとなっていくでしょう。 木材は二酸化炭素が固定化されてできたものです。木材は森林で朽ち果てると微生物により分解され再び二酸化炭素に戻ります。木材を人間がエネルギーとして利用すると、やはり二酸化炭素が放出されます。一見、両者は同じように見えますが、木材をエネルギーとして利用することによって人間が使う石油の使用量を減らすことができれば、その分大気中への二酸化炭素の放出は抑えられます。木材の成分利用は、地球温暖化問題の解決に直結する重要な課題です。

 木を切って利用すると森林破壊になるという人がいます。天然林を保存すべき意義は理解できます。しかし、放置し荒れ果てた人口林からは何も生まれません。放置した森林の年間の二酸化炭素固定量は手入れをした森林の数分の1以下しかありません。切らないことにより森を守るのではなく、木材を最大限利用して得た利益を森林の育成に還元し、これによってさらなる森の恵みを引き出す。こうした営みによって地球が活力ある森で覆われることを願っています。

 京都大学生存圏研究所バイオマス変換分野では、再生可能な有機質資源である木材からエネルギー物質やケミカルスを生産するための基礎研究に取り組んでいます。木材は、7〜8割が多糖で占められており、残りの2〜3割をリグニンが構成しています。リグニンは、不規則な芳香族ポリマーであり、木材を固める役割を担っています。木材を微生物発酵により有用物質に変換するためには、このリグニンを効率良く、しかも選択的に分解することが大きな鍵となります。自然界では白色腐朽菌と呼ばれるキノコの仲間がこのリグニンを分解します。当研究室では、遺伝子工学、生化学、有機化学的手法を用いて白色腐朽菌のリグニン分解機構を解明し、それを化学的に模倣したり、遺伝子工学的に能力を増強した白色腐朽菌を作出して、木材の成分変換や環境汚染物質の分解に巧みに利用する研究に取り組んでいます。資源・環境問題の解決に直結する研究に取り組んでいるのが京都大学生存圏研究所バイオマス変換分野です。