

磁気嵐時のオーロラ (2000年11月スウェーデン北部にて, 海老原撮影)


計算機シミュレーションによるオーロラ・ブレイクアップの研究


オーロラ爆発を支える沿磁力線電流の発生メカニズム(2023年発表)


オーロラ爆発の前に現れる南北オーロラと対応する磁気圏構造


南極点基地でオーロラ観測を実施中
プロフィール
氏名 | 海老原祐輔 |
所属 | 京都大学生存圏研究所 教授 |
〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄 [アクセスマップ] | |
居室 | 京都大学宇治キャンパス 本館 S-244H [キャンパスマップ] |
電子メール | ebihara@rish.kyoto-u.ac.jp |
Google Scholar | Yusuke Ebihara |
ORCID | 0000-0002-2293-1557 |
Scopus Author ID | 7101775978 |
Web of Science | D-1638-2013 |
2024年度担当授業 | プラズマ工学(工学部電気電子工学科専門科目)、電気電子数学I(工学部電気電子工学科専門科目)、電磁界シミュレーション(大学院工学研究科電気工学専攻専門科目)、宇宙総合学(全学共通科目) |
最近の成果・動き
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オーロラ爆発を駆動する沿磁力線電流の新しい発生モデル 【オーロラ・主著論文】 (2023年2月) アルベン波の波束を追跡するという新しい手法を用い、オーロラ爆発を駆動する沿磁力線電流は磁気圏近尾部の赤道面付近で作られることを示しました。磁気再結合によって発生した地球方向の高速プラズマ流が東西に分岐し、磁力線を引っ張ることで沿磁力線電流を作るというものです。これまで電流Jと電場Eの内積が負である領域でアルベン波(沿磁力線電流)が作られ、その領域は赤道面から離れたところにあると考えていました。ところが磁気圏は複雑で、磁気圧勾配力の影響が無視できません。磁気圧勾配力の影響を排除するため、電流と電場の内積の代わりに、プラズマ速度Vと磁気張力Ftの内積(これが負ならプラズマが磁力線を引っ張ることを意味する)でアルベン波(沿磁力線電流)の発生を評価しました。 [論文] [JGR Space Phys.誌の表紙] |
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領域1型沿磁力線電流の新しい発生モデル 【オーロラ・主著論文】 (2022年2月) 地球電離圏と宇宙の間を流れる代表的な沿磁力線電流のひとつが領域1型沿磁力線電流です。大規模な沿磁力線電流は電磁流体波の一種であるアルベン波に付随して流れていることに着目し、アルベン波の波束を追跡してその起源を探索するという新しい手法を提案しました。惑星間空間磁場が南を向いているとき、磁気圏の低緯度境界付近において、太陽風プラズマが惑星間空間磁場と再結合した地球の磁力線を引っ張り、アルベン波を励起します(G1領域)。そのアルベン波が内側に伝わり、磁気圏起源のプラズマを加速します。加速されたプラズマはやがて地球の磁力線を引っ張るようになり、アルベン波を励起します(G2領域)。G1領域とG2領域のどちらか、あるいは両方が領域1型沿磁力線電流の生成に関わっているようです。 [論文] |
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もし1859年9月に発生した超巨大磁気嵐が再来したら? 【磁気嵐・主著論文】 (2021年9月) 1859年9月にインドで記録された地磁気データを用い、日本の送電網を流れる地磁気誘導電流の波形を予測しました。少なくとも私たちが測定している3箇所の変電所については、アメリカが定める基準以下であることが分かりました。ほかの変電所や発電所についても調査を続けます。 [論文] |
コーラス波動は広い領域で非線形的に成長可能 【磁気嵐・主著論文】 (2020年1月) 内部磁気圏に捕捉された電子のエネルギー分布及び空間分布を求め、コーラス波動が非線形的に成長可能な領域を示しました。 [論文] |
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電離圏経由でも内部磁気圏にエネルギーが供給されている 【磁気嵐・主著論文】 (2019年11月) 磁気嵐の原因は地球近くに集積する熱いプラズマで、その輸送を担うのが内部磁気圏対流です。 内部磁気圏対流を駆動するエネルギー源を調べ、太陽風から内部磁気圏に直接届いたものと、電離圏経由で届いたものの二つがあることを明確化しました。 [論文] J. Geophys. Res. Space Phys. 2020年2月号の表紙 |
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「京大先生シアター」 【広報】 (2019年3月) 「京大先生シアター」で紹介されました。 |
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磁気嵐のシミュレーションに関するレビュー論文 【磁気嵐・主著論文】 (2019年2月) 磁気嵐のシミュレーションについてのレビュー論文(Simulation study of near-Earth space disturbances: 1. Magnetic storms)を出版しました。 [日本語版の要旨][本文] |
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オーロラ爆発の大きさは予測できるかもしれない 【オーロラ・主著論文】 (2019年1月) オーロラ爆発は地震と同じように一種のエネルギー解放過程であり、その大きさを予測することは難しいと考えられていました。太陽風の条件を様々に変えたシミュレーションを行い、オーロラ爆発の大きさ(ジェット電流の強さ)は太陽風から磁気圏に流入するエネルギーにほぼ比例することが分かりました。磁気圏に流入するエネルギーの3割から9割は太陽風が持つ運動エネルギーが起源であることもわかり、惑星間空間磁場が主なエネルギー源だろうという従来の考え方を改めるきっかけになるかもしれません。 [論文] |
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「サイエンスリポート」 【広報】 (2018年12月) 情報・システム研究機構の「サイエンスリポート」で紹介されました。 [記事] |
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サブストームと磁気嵐はなぜおこるのか? 【解説記事】 (2018年5月) 解説記事を出版しました。「地球の磁場が支配する宇宙空間を地球磁気圏と呼ぶ.地球磁気圏のダイナミクスを理解する上でサブストームと磁気嵐という擾乱現象は重要である.大規模シミュレーションによって,宇宙空間を構成する様々な要素が複雑に絡み合いながらサブストームや磁気嵐が発達していく様子が手に取るようにわかるようになってきた.複雑なものを複雑なまま捉えることで見えてきたサブストームと磁気嵐,そして地球磁気圏のダイナミクスを紹介したい.」 [記事] (Japan Geoscience Letters, Vol. 14, No. 2, 21-23) |
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南極点基地でオーロラ観測を開始 【南極】 (2018年4月) 南極点は半年に及ぶ冬の期間(夜の期間)に入りました。4月14日にオーロラ観測を開始し、交換したカメラが正常に動作していることを確認しました。観測データは毎日自動的に京都に送られます。観測は8月31日まで連続して行います。 [プロジェクトページ] |
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エネルギーは宇宙から螺旋状にやってくる 【オーロラ・主著論文】 (2017年12月) オーロラ爆発(オーロラブレイクアップ)が起こると極域の電離圏で数百万アンペアものジェット電流が流れ、数千億ワットものエネルギーが消費されます。このエネルギーはどこからってくるのでしょうか?シミュレーションの結果を解析し、磁気圏の高緯度地方にある発電機によって太陽風のエネルギーが電磁エネルギーに変換され、地球に到達するまでの道筋を示しました。地球近傍で電磁エネルギーが内部エネルギーに一旦変換されることで、極域の狭い領域に電磁エネルギーを集中的に流し込むことが可能となるようです。 [論文] |
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オーロラ・サージはなぜ西に進む? 【オーロラ・主著論文】 (2017年12月) とても明るいオーロラが西向きに移動していくことがあります。オーロラ・サージと呼ばれ、オーロラ爆発(オーロラブレイクアップ)を象徴する現象です。なぜサージは西に移動するのでしょうか?シミュレーションの結果を解析することで、明るいオーロラの周囲では電気が余り、余った電気が磁気圏のプラズマを動かし、明るいオーロラの西側で更にオーロラを強める事を示しました。真夜中付近を境に西側では上向き電流に対応した明るいオーロラが現れますが、東側では下向きに電流に対応して明るいオーロラは光りません。この非対称性が明るいオーロラが西向きに広がることの原因のようです。[論文] |
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11回目の南極点基地出張 【南極】 (2017年11月) 南極点基地に設置しているオーロラ観測装置のカメラを交換するため、南極点基地に出張しました。悪天候の為、途中のマクマード基地で12日間足止めされるというトラブルはありましたが、予定通りカメラを交換し、観測プログラム(ebicam)の書き換えを完了することができました。来シーズンから観測を開始します。[プロジェクトページ] |
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1770年に日本で見えたオーロラは何故明るい? 【オーロラ・主著論文】 (2017年10月) 1770年、日本列島各地でとても明るいオーロラが目撃されました。日本で見えるオーロラはとても暗く、肉眼で見えないものがほとんどです。ところが1770年の記録によると、オーロラの光りによって手許の文字が読めたとあり、尋常でない事が起きていたようです。大磁気嵐時に人工衛星が観測した降り込み電子のデータとシミュレーションを組み合わせ、当時のオーロラの再現を試みました。@選択的にエネルギーの低い電子が、A極めて大量に(人工衛星がこれまで中緯度で観測した最大の降り込み量の10倍以上)、B少なくとも不変磁気緯度32度から42度の範囲に降り込んだならば、各地の記録を説明できることがわかりました。 [論文] |
新聞・雑誌・ウェブニュース等
教科書・専門書等
2019年12月 | 「シリーズ宇宙総合学2 人類は宇宙をどう見てきたか」 (京都大学宇宙総合学宇研究ユニット編,第3章オーロラ担当, 朝倉書店) |
2016年11月 | 「Waves, Particles, and Storms in Geospace」 (Balasisほか編,第13章担当, Oxford University Press) |
2016年8月 | 「Space Weather Fundamentals」(Khazanovほか編, 第9章「Ring Current」pp.149-172担当, CRC Press) |
2016年7月 | 「低温環境の科学事典」(1-11章「磁気嵐」担当, 朝倉書店) |
解説
なぜオーロラ爆発が起こるのか? |
なぜ磁気嵐が起こるのか? |
研究テーマ
オーロラ嵐/サブストームの研究
オーロラが急に明るく光り出す現象をオーロラ嵐(サブストーム)と呼びます。
このとき超高層大気や地球近くの宇宙空間では大電流が流れ始め、磁気の乱れや高エネルギー粒子の注入など大変動が見られます。
オーロラ嵐が起こる原因について活発な議論が交わされていますが良く分かっていません。
シミュレーションを使ってオーロラ嵐/サブストームを再現し、シミュレーションの結果を詳しく解析することでオーロラ嵐を理解しようという新しいアプローチを展開しています。
- 静穏オーロラ・アークと南北オーロラ・アーク(quiet arcs and N-S arcs)
- オーロラ爆発現象(initial brightening)
- オーロラ・サージ(westward traveling surge)
- 内部磁気圏への粒子注入現象
- サブストーム後に見られる対流反転現象(過遮蔽現象)
磁気嵐/リングカレントの研究 [解説]
地磁気が数日間乱れる現象を磁気嵐と呼びます。
地磁気の乱れは主に地球を取り囲むように流れるリングカレントが発達するために起こります。
リングカレントは主に数keVから数100 keVのエネルギーを持つイオンが作るため、
磁気嵐を理解するためにはこれらのイオンの動きを理解することが重要です。
磁気嵐の発達過程をイオンの流入、加速、輸送、消失過程ととらえ、シミュレーションと観測データを比較することで磁気嵐の研究を推進しています。
- リングカレント構造の時空間発展
- リングカレントを構成するイオンのエネルギー分散構造
- リングカレントと太陽紫外線の関係
- リングカレントと電離圏の関係
- リングカレントとプラズマシート密度の関係
- リングカレントと放射線帯の関係
- リングカレントとプラズマ圏の関係
- 巨大磁気嵐と内部磁気圏・電離圏構造
- 低エネルギーイオン(80 keV以下)と高エネルギーイオン(120 keV以上)の逆相関関係
- リングカレントの早い消失
- 磁気嵐初相時におけるイオンの加速過程
放射線帯の研究
- サブストーム時における高エネルギー電子の加速・輸送過程
- 惑星間空間衝撃波到来時の高エネルギー電子の応答
- リングカレント発達に伴って現れる高エネルギー粒子のバタフライ型ピッチ角分布
プラズマ圏の研究
- 磁気圏電離圏結合に伴うプラズマ圏境界変動
オーロラの研究
- 数時間にわたって殆ど動かない昼側オーロラ(quasi-stationary auroral patch)
- カーテン状オーロラの下端が赤くなるType Bオーロラ
- 極めて薄い(<1 km)ディフューズ・オーロラ
- 磁気インパルス現象に伴うプロトン・オーロラ
サブオーロラ帯の研究
- 対流逆転(過遮蔽)の2次元構造とその時空間発展
- 西向き高速プラズマ流(SAPS)の微細構造
磁気圏物質循環の研究
- 極域から流出した酸素イオンの行く末
- カスプ・イオンのバースト的(1-2秒間)な降り込み
- 磁気嵐に伴って内部磁気圏で急増する太陽風起源の酸素イオンと電離圏起源の酸素イオン
- サブストーム時の磁気圏近尾部におけるイオンの加速過程
- 内部磁気圏をゆっくりと横断する微細なイオン構造
南極点基地でオーロラ観測
- 国立極地研究所、ニュージャージ工科大学、シエナ大学、全米科学財団と共同で南極点基地にてオーロラ観測を主宰
計算機シミュレーション
- ドリフト移流シミュレーション
- 電磁流体シミュレーション
- 粒子軌道追跡シミュレーション