研究領域A06:赤道大気エネルギーによる熱圏変動の研究
研究組織(研究代表者と研究分担者)
研究代表者:
小川 忠彦 (名古屋大学・太陽地球環境研究所・教授)
研究分担者:
塩川 和夫 (名古屋大学・太陽地球環境研究所・准教授)
研究分担者:
大塚 雄一 (名古屋大学・太陽地球環境研究所・助教)
研究分担者:
齊藤 昭則 (京都大学・理学研究科・助教) (平成16年度から)
おしらせ
2004年10月28日
A06班成果、日本-オーストラリアにおけるMSTIDの対称性の観測結果が、CAWSESニュースレターの最新号(Vol.1, No.2)紹介されました。
詳しくは、http://www.bu.edu/cawsesをご覧下さい。
現在の状況と成果(A06班のオリジナルHP (名古屋大)へ)
研究の概要
1.研究の背景
高度90 km以上の熱圏大気の特徴は、そこが部分的に電離したプラズマの状態(電離圏)になっているため、
諸物理過程が電場・磁場などの電磁気要因と大規模中性風などの大気力学的要因で支配されていることである。
これまでの研究により、両要因の力関係は高度、緯度、太陽活動などに依存することが分かっている。
他の要因として近年注目され始めたのが、対流圏内や極域のオーロラ帯で発生し、
熱圏高度に伝搬してくる熱圏大気波動(周期は10分から数時間、波長は数10 kmから数100 km)である。
対流圏内での大気活動によって発生した大気波動のエネルギーと運動量は、上層の成層圏、中間圏へ輸送され、
最終的には熱圏で消滅する。その結果、熱圏の大気密度・温度に変動が現れるとともに、
この変動はプラズマとも相互作用して電離圏に様々な特異現象をもたらすと考えられている(付図参照)。
しかし、このような大気波動を介した一連の大気上下結合の研究は世界的にも緒についたばかりであり、赤道域では未だ行われていない。
平成13年4月に運用が開始された赤道大気レーダー(EAR)は赤道インドネシア域の対流圏内の諸現象が観測できる。
一方、最近注目を集めている熱圏・電離圏の観測手段として電離圏レーダー、夜間大気光のイメージング、
汎地球測位システム(GPS)衛星があり、本研究課題申請グループはこれらを用いた研究を数年前に国内で開始した。
このような観測手段をインドネシア域にも導入してEARと組み合わせることにより、赤道域における
対流圏・熱圏大気上下結合の研究が可能な状況になっている。
2.研究目的
本研究の目的は、インドネシア域の高度90-500 kmの熱圏・電離圏を探査する独自の装置
(電離圏サウンダー、VHFレーダー、光・電波受信装置、磁力計;付図参照)をEARサイトに
設置して観測を実施し、EAR及び周辺観測装置からなるリージョナルネットワークで捉えられた
赤道域対流圏起源の大気波動のエネルギーや運動量が熱圏高度に輸送されて散逸する過程、
及び散逸エネルギーが誘起する熱圏大気の変動と電離圏プラズマの応答過程を研究し、
インドネシア域特有の赤道大気上下結合を解明することである。
3.学術的な特色・独創性及び予想される結果と意義
地球磁場ベクトルが水平となる赤道付近の電離圏のみに生起するユニークな現象として、
200-400 km高度に顕在する大規模な「プラズマバブル」(電子密度の極端な減少域)と
110 km高度付近のジェット電流層を挙げることができる。前者を誘発するものとして
大気力学的要因(大気重力波)が有力視されているが、その詳細は不明である。
また、ジェット電流層に付随した電子密度の不規則構造が大気波動でコントロールされている
証拠が日本で初めて発見されたが、同様のことが赤道付近でも起こりうるのかは未解明である。
従来、プラズマバブルやジェット電流層そのものの観測・研究は南米や太平洋域で行われてきたが、
これらと大気波動との因果関係の解明という新しい視点に立った研究は行われていない。
このような視点に加えて、下層の大気活動が世界的に最も活発であり、他の領域には存在しないような、
大気波動を介した強い大気上下結合が期待されることと、上下結合のグロバールな差異を明らかにする意味でも、
赤道インドネシア域における研究は重要である。
本研究項目では、EAR上空の熱圏・電離圏の観測データとEAR及びEAR周辺観測装置群で得られる
大気データ(研究項目A01, A03, A04及びA05)とを比較解析する。
これらの研究を通して、赤道域起源の大気波動エネルギーが熱圏高度に輸送されて散逸する過程、
散逸エネルギーが誘起する熱圏・電離圏大気の変動とプラズマの応答過程
(例えば、プラズマバブルの発生過程)が初めて明らかになる。
4.研究計画・方法
4−1.赤道域熱圏における大気波動エネルギーの散逸(平成13-18年度)
下層大気から熱圏に伝搬してくる大気波動を観測し、波動の伝搬、砕波、形態及びこれらの変動を調べて、
大気波動エネルギーの散逸過程を研究する。
このため、平成14、15年度においてEARサイトに夜間大気光観測システムを設置し、
赤道域の下部熱圏及び上部熱圏の大気波動や温度の2次元分布を得る。
このシステムは、熱圏内の異なった高度に存在する酸素分子、酸素原子、水酸分子、
ナトリウム原子が発する微弱な光の強度を2次元面で数分毎にイメージング測定するものであり、
各高度における大気波動の波長、伝搬速度、振幅及び砕波の様子が分かる。
また、中性ガスの温度分布も測定可能である。
得られたデータを長期間蓄積することにより、エネルギー散逸の日変化、季節変化、
年変化などが判明し、EARによる対流圏での同種の研究との対比が可能になる。
なお、研究項目A04で整備される流星レーダーとMFレーダーは80-100 km高度の中性風を測定するが、
本研究課題の大気光観測システムも同様な高度域を高空間分解能で測定する。
したがって、両装置から相補的なデータを得ることができ、この高度域の大気波動の研究に大きく貢献する。
4−2.大気波動による赤道域電離圏プラズマの変動(平成13-18年度)
大気波動による赤道域電離圏プラズマの変動過程などを研究する。
このため、EARサイトにGPS受信装置(平成14年度設置)、電離圏サウンダー、磁力計、
VHFレーダーなど年次計画で逐次整備し、高度90-500 kmの赤道域電離圏プラズマの連続観測を行う。
GPS電波受信と電離圏サウンダー観測からは電離圏の電子密度構造とその変動を、
VHFレーダーからはプラズマの運動を知ることができる。電離圏擾乱は磁力計でモニターする。
また、インドネシアが有する電離層観測用レーダー(アイオノゾンデ)との連携観測も実施する。
EARは電離圏観測用としても利用できるので、VHFレーダーと組み合わせることにより、
異なった空間域の同時観測が可能になる。
これらの装置群と上記1の大気光観測装置とを組み合わせることにより、
大気波動と熱圏プラズマ変動との詳細な関係が研究できる。
また、データを長期間蓄積することにより、太陽活動極大期(2001年)から極小期(2006年)に
至る赤道域電離圏の変動過程を知ることができる。この研究内容では、研究内容1との連携を保ちつつ、
SCOSTEP/EPICの重要研究課題である「プラズマバブルの解明」にも重点を置き、
バブルの発生、成長、消滅の過程を明らかにする。
これにより、東アジア域でのプラズマバブル研究が初めて実施されることになる。
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