CPEA Newsletter -- Vol. 3

November 2002



研 究 班 01

研究項目A01 赤道大気レーダー長期連続観測による赤道大気波動の解明
研究代表者: 山本衛 (京都大学宙空電波科学研究センター・助教授)


目的

 本研究は、特定領域研究(B)「赤道大気上下結合」の中心をなす赤道大気レーダー(EAR; Equatorial Atmosphere Radar)の長期連続観測によって、数メートル×数秒と微細な空間・時間スケールを持つ大気乱流から、地球規模の空間スケールと数年間の時間スケールを持つ赤道大気振動までの諸現象の因果関係と成因を明らかにすることを目的とする。赤道は太陽放射エネルギーを最も強く受ける地域であり、地球大気の各種現象の駆動源であって地球環境変動研究上の最重要地点である。特にインドネシア付近では、太陽光による島嶼(とうしょ)の加熱と周辺の海洋からの水蒸気供給によって、地球上で最も活発な対流現象が発生している。EARは平成12年度末にインドネシア共和国のスマトラ島中西部の赤道直下に完成し、平成13年7月には京都大学宙空電波科学研究センターとインドネシア航空宇宙庁(LAPAN)の協同による本格運用が開始されている。本研究によって赤道大気力学の理解が飛躍的に進むとの期待が大きい。


平成13年度の研究成果

1. 赤道大気レーダーによる赤道大気の長期連続観測

EARは平成13年6月26日に現地において開催された開所式の直後から本格的な運用を開始した。主たる観測モードとして、対流圏から成層圏をカバーする5ビーム観測モードを選び、時間分解能約1分間のデータを継続的に取得しつつある。現在までに取得されたデータの総量は180ギガバイトに及び、それらは現地において磁気テープに記録されるとともに京都大学宙空電波科学研究センターにおいてデータアーカイブ装置に収録されている。

2. 赤道大気レーダーによる大気観測研究

2.1 赤道対流圏界面の研究

EARの長期連続観測の結果をもとに、赤道大気の波動・構造について研究を進めている。平成13年8月と11月には地球観測フロンティア(神戸大・山中教授)との共同で、赤道大気レーダーとラジオゾンデ観測との協同観測キャンペーンを実施した。現在のところ、特に対流圏界面の構造に関する研究を進めており、対流圏界面の構造が赤道大気波動によって変調を受ける様子を明らかにした。


図1 赤道大気レーダーで観測された2001年7〜12月の東西風速成分の時間高度分布。ケルビン波の影響によって8月、10月、11月に風速の大きな変動が現れている(赤丸部分)が、これは圏界面の高度変動と一致している。




2.2. 周波数領域干渉計(FDI)観測法の研究

EARの機能を活かした新しい観測方法の開発にも力を入れており、平成13年度には最大で4つの周波数を使った周波数領域干渉計観測(FDI; Frequency Domain Interferometry)のテスト運用と実証実験を進め、良好な結果結果を得た。今後はFDI観測とラジオゾンデ観測などの併用により、大気乱流層の構造の解明がより進むものと期待される。

2.3. 低緯度電離圏イレギュラリティの研究

EARの位置は、磁気緯度では南緯10度に相当する。レーダービームを磁力線
に直交させることで電離圏E領域およびF領域で観測されるイレギュラリティ・エコーの試験観測を平成13年8月、11月、平成14年3月に実施し、(磁気的)南半球の低緯度イレギュラリティの振る舞いに関するはじめての観測結果を得た。



図2 赤道大気レーダーで観測された電離圏E領域及びF領域の電離圏沿磁力線
イレギュラリティ(FAI)・エコーの時間高度分布(2001年11月2日の観測例)。観測方向は地理的南方向で天頂角24度。エコーはいずれも日没後に発生している。




3. 衛星データネットワークの構築

観測データを日本に準リアルタイムに伝送する目的で、EARと京都大学宙空電波科学研究センター間の衛星通信回線を構築した。必要な衛星通信地上局の機器を購入・設置を進めるとともに衛星通信業者を選定し、平成14年3月下旬に開通した。128kbpsの専用回線を用いて、データ通信のみならず、電話及びFAXが使用可能となった。


平成14年度の研究計画

本研究では、EARによる赤道大気波動の長期連続観測を実施することによって、赤道大気力学の総合的理解を一気に深める。本研究で取得・蓄積される観測データは、赤道大気力学に関する、他の手段によっては決して得ることのできない貴重なデータベースである。平成14年度の研究実施計画は以下のとおりである。

1. 赤道大気レーダーの長期連続観測

平成13年度中に開発されたEARによる赤道大気の標準観測手法を用いてEAR長期連続観測を実施する。送受信装置制御モジュールや電子部品等の消耗品を必要に応じて備蓄して、長期連続運転によるレーダー部品の損耗・故障等への対処を進める。

2. 赤道大気波動の観測的研究

EAR観測データの解析を続け、赤道大気波動の解明を進める。研究を効率よく進めるため、研究推進支援員を2名雇用する(雇用済み)。本特定領域の各研究課題と連携してEARを含む各種の観測を実施する。平成14年11月には、地球観測フロンティアと共同で、EARとラジオゾンデ観測の同時観測が予定されている。平成15年度に予定されている第一回観測キャンペーンの実施に向けて、準備作業を進める。

3. 衛星データネットワークの維持管理

観測データを日本に準リアルタイムに伝送する目的で平成13年度に構築されたEAR観測所と京都大学宙空電波科学研究センター間の衛星通信ネットワークを維持管理する。

4. その他

平成14年度には本特定領域研究の国内シンポジウムが開催される。EAR長期連続観測に基づく赤道大気波動研究に関する議論を深めるため、国内外の著名研究者を数名招聘する予定である。


A02
赤道大気レーダー高度利用技術と環境計測の研究

1.平成13年度のまとめ

1.1 目的

本研究班の主要課題は、赤道レーダーに数十基のディジタル受信機で構成される受信専用アレーを付加することによって、単独レーダーによる観測の限界を超えた高度な利用技術を開発することである。開発にあたっては、レーダーのハードウェア自体に大きな変更を加えることなく、大気レーダーの機能拡張を行う方法を検討する。この方法が確立されれば、赤道レーダーにとどまらず世界各地の既存の大気レーダーの性能向上にもつながり、応用範囲は幅広い。


1.2 大気の3次元構造の観測

開発の主な用途の一つは、大気の3次元構造の観測である。従来方式のマルチスタティックレーダーでは不可能であった任意の送信ビーム走査に追随する受信アレイのDBF走査方式について検討する。図1のように、大気レーダーがx方向へビームを向けた時、受信専用アレーから見た方位角は高度によって異なる。よって、高度ごとにアンテナパターンを制御する必要が生じ、大気レーダーとしては世界初のDBFアレーを採用することを検討している。制御アルゴリズムとしては、アダプティブアンテナの技術を利用し、高度ごとに重み決定をすることを検討中である。


1.3 クラッタの抑圧

もう一つの目的はアダプティブなクラッタの抑圧である。大気レーダーの観測対象となる大気乱流からの散乱は極めて微弱であるため、通常の手法ではいかにアンテナを構成してもサイドローブによる山などの反射波(クラッタ)が強い妨害となる。そこでこれを適応的信号処理技術により除去することを考える。サイドローブキャンセラアルゴリズムとして、方向拘束付出力電力最小化法(DCMP)を基盤とし、赤道大気レーダーで使用する場合の問題点を解消する重み拘束付DCMP(DCMP-CN)を開発した。DCMPでは、制御重みに関する制限がないので、レーダーのメインローブをサブアレーの出力で打ち消してしまう危険性がある(図2)。そこで、サイドローブレベルに対してのみ制御を行うよう、制御重みを制限する拘束条件を付け加え、DCMP-CNとした。その結果を図3に示す。また、強い妨害波が到来した場合においては、妨害波方向に深いヌルを作り、入力SIR=-40dBに対し、制御後はSIR=60dB程度になることを確認した。これらの成果は、IEEE IGARSS2002、電子情報通信学会研究会、総合大会などで発表すると共に、電子情報通信学会論文誌に投稿中である。既発表の原稿は研究班のホームページ
(http://www-lab26.kuee.kyoto-u.ac.jp/~tsato/CPEA-A02/A02.html)
で公開している。

図1. バイスタティックレーダーの概略図
図2. 従来法(DCMP)の結果(所望波方向0°、妨害波方向80°、入力SIR=1の場合)
図3. 開発した手法(DCMP-CN)の結果(条件は図2と同じ)


2. 平成14年度の計画

2.1 アルゴリズム開発

13年度に引き続き、マルチスタティックレーダ機能およびアダプティブクラッタ抑圧に関して理論的検討と計算機シミュレーションのよる性能検証を進める。マルチスタティック機能に関しては、ディジタルビームフォーミング方式に適した受信アンテナの配置法とそれにより得られる3次元風速場の推定精度の検討を行う。従来の技術を用いたマルチスタティックレーダーでは、送受信ビームの交差領域を大きく取るために受信アンテナはファンビームとすることが多い。本研究でも基本的構成としてはファンビームを想定し、図1にも示したように受信アレイは直線状に配列することを考えている。しかし、ディジタルビームフォーミング方式を用いる場合、受信ビーム形状を観測高度毎に変えることが可能であるので、このような制約は不要である。その場合、同一数の素子を集中的に配置することが許されれば、工事や維持の点で負担が軽減される。このことを考慮して、最適な受信アンテナ配置法を計算機シミュレーションにより求める。また、その場合に得られる風速場の精度についても定量的に評価する。アダプティブクラッタ抑圧アルゴリズムについては、MUレーダーを用いた試験データなどに基づき、最適な受信素子数や必要な演算量を見積もり、アルゴリズムを最適化する。


2.2 ハードウェアの検討

16年度の受信専用アレー設置を目指して、ディジタル受信機に用いる信号処理ボードなどのハードウェアの検討を進める。今年度は、候補となる信号処理ボードを選定し、実際に1組を購入する。これを用いて実時間演算能力を検証すると共に基本的ソフトウェアの開発を進める。その結果に基づき、実時間処理アルゴリズムに許される演算量の上限を与え、これに従ってアルゴリズムを修正する。さらにインドネシアの設置環境を考慮し、長時間の連続運転に耐えられるシステム構築に必要な環境を検討する。


2.3 データ処理アルゴリズムの検討

赤道レーダーにより蓄積されつつある大気エコーパワースペクトルデータを統計的に検証し、降雨エコーの分離と降雨粒径分布の実時間処理アルゴリズムについて検討を進める。


A03
赤道域における対流雲発生機構と降水システムの研究:現状報告と計画

1.研究目的と概要

本研究課題では,EARを中心にして熱帯積雲対流活動を総合的に観測し,積雲スケール(数km)からグローバルスケールに至る積雲対流活動の階層性と組織化ならびに大気上部へ影響を及ぼすと考えられる対流圏起源の大気波動の振る舞いを明らかにすることを目的としています.この目的を達成するため,風ベクトルの鉛直プロファイルを観測するEARと同時に気温,水蒸気密度,降雨の鉛直プロファイルや,3次元対流活動,更にそれらのリモートセンシング観測を支援する様々な地上測器から構成される総合的な対流活動観測システムを整備し,連続観測を実施します.その観測結果を中心に,周辺の高層気象データ,衛星データなどを合せた解析をとおして,上記の科学目的の達成を目指しています.図1に全体の研究フローを示します.


2.研究実施者・機関

現在,以下に示すメンバーが科研費特定領域研究の枠組みで本プロジェクトに参加しております.

研究代表者:島根大・総合理工・教授 古津年章

研究分担者:弘前大・理工・助教授 児玉 安正,東大・気候システム研究センター・助教授・高薮 縁,
        島根大・総合理工・助手・下舞豊志


研究協力者:北大・低温科研・教授・藤吉康志,名大・地球水循環研究センター・教授・上田博,
        福島大・教育学部・教授・渡辺明,大阪電通大・講師・柴垣佳明

その他: 京大・RASC 津田敏隆教授,橋口浩之助教授,堀之内武助手,古本淳一研究員,
      北大 低温科研 川島正行助手,大井正行研究員,神戸大 山中大学教授,
      地球観測フロンティア研究システム森修一研究員などの方々,並びにインドネシアLAPANや関係機関の
      研究者 の協力を受けています.また島根大学の他,北大低温科学研究所,地球観測フロンティア研究
      システムから観測機器が提供されています.


3.機器整備の現状と計画

平成13年度は,EARと同時に観測を行う観測システム,具体的にはラジオメータ(水蒸気密度鉛直プロファイル),光学式雨量計(高時間分解能・高精度の雨量計),微気圧計3台,マイクロレインレーダ,および電波・音波探査装置(RASS)の一部(スピーカ2台)の整備・調整を実施しました.これらの観測機器の設置状況を図2に示します.RASSの整備は平成14年度も継続して行う予定です.平成14年度に設置予定の機器は,Xバンド小型降雨レーダ(北大から島根大学に管理替手続き済)およびビデオディスドロメータです.平成14年度中には,強化観測用の機器を除いて,設置・試験を完了し,連続運用に入る予定です.このような赤道直下における総合的かつ連続観測を狙ったシステムは初めてのものであり,長期間安定な観測可能なシステムを目指して機器の耐雷,防水,各種メンテナンスなどに注意を払って整備を進めています.観測データは,順次Web上での公開準備をすすめております.

平成15年度および17年度に予定されている強化観測期間には,北大および地球観測フロンティアからバイスタティックドップラレーダ(親局:北大,子局:フロンティア)の提供を受け,EAR周辺の3次元降水および風の分布を測定する予定であり,平成14年度にはその設置準備も開始する予定です.

4.科学研究:現状と計画

2001年度には,本プロジェクトの科学目標を達成するため,関連研究を行っている研究者(上述)の間で「実質的な」研究グループを緩やかな形で組織し,メールや会合などを通して,今後の研究の進め方について意見を交換し,コトタバンに拘らず広い範囲における熱帯対流活動の予備的な調査研究から開始してきました.

4.1 主な研究内容と成果

雲・降水物理に関連した研究: シンガポール,南インドなどの熱帯降水における雨滴粒径分布特性解析,降水の鉛直構造の解析をすすめました.この研究は,熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載降雨レーダによる降雨強度推定手法の改善やデータ検証とも密接に関係するものです.その結果,地域やモンスーンの特性によって雨滴粒径分布が大きく異なることがわかりました.これは降水の雲物理過程に大きな違いがあることを示唆しており,コトタバンのような熱帯でかつ山岳地域における降水特性を明らかにすることは,熱帯対流活動の地域特性の解明に重要です.

2002年3月8日から観測を開始した光雨量計とTRMMから推定された1ヶ月降水量(宇宙開発事業団提供)を2002年4〜6月について比較した結果を図3に示します.全体的にTRMMからの推定はコトタバン雨量計とよい一致を示しており,降水量の季節・地域依存性を概略把握するには衛星データが有効であることを示唆する結果となっています.しかしコトタバン特有の降雨特性が影響している可能性も十分考えられます.今後,降雨特性については更に長期間のデータ解析を行い,また雨滴粒径分布特性についてもEARやディスドロメータを用いた解析をすすめる予定です.また図4に,光学式雨量計から求めた降雨の日周変化を月毎に示します.3月から6月にかけて,降水のピーク時間帯が次第に遅れてきていることがわかります.今後,下に述べるような降雨タイプに分類した日周変化なども合わせて解析を進める予定です.

海洋大陸域を中心とした降雨の日周変化・雷活動度の調査: 熱帯域の対流活動の特徴を捉えるために,衛星データから得られる熱帯対降雨の日周変化とその地域依存性,雷活動,雨滴粒径分布特性など調査しました.その結果,赤道域降水の平均的日変化は,陸上では対流性降雨には夕立のピークが顕著ですが,層状性降雨は夜間により強く,その時間差は大きいことがわかりました.

一方海上では,対流性降雨も層状性降雨も早朝にピークを示し,ほぼ同期して日変化することがわかりました.しかしインドネシアのような海洋大陸域では,陸上の層状性降雨の夕立との時間差が平均より短くなっています.また衛星データを用いて雷活動の調査を行い,陸上では夏半球,海上では冬半球の中緯度で多く雷が発生すること,また日変化は,陸上では現地時間の15時ころに最大となることなどが明らかになりました.

4.2 今後の科学研究推進方針

熱帯対流活動の研究は雲物理から地球規模まで様々な空間的・時間的スケールに着目した研究が必要です.そのため,各メンバーはそれぞれ担当分野で研究をすすめつつ,随時研究会などを開催し,情報・意見交換を行いながら,総合的に熱帯対流活動の振舞いとそのスケール間相互作用,上層大気への影響の解明を目指したいと考えています.また,本領域の他のグループとの連携やインドネシアとの研究協力もすすめていきたいと考えています.

5.平成14年度の計画

機器の整備を中心に行い,インドネシア側の運用体制の整備や衛星回線利用の遠隔監視などを含め,連続観測を軌道に乗せる予定です.平行して取得データの妥当性確認を行い,データの定常的提供やブラウズの整備を通して,円滑な科学研究推進を図ります.また,上記のデータ,関連地上データ(インドネシア,タイ,インドなど),衛星データ,シンガポールの長期気象データなどを用いて,海洋大陸を中心とした対流活動特性を調べ,本課題で取得するデータ解析へ繋げていく予定にしています.

我々の研究に対して今後ともご指導,ご協力をお願いするとともに,インドネシア赤道直下に整備されつつある,これまでにない大規模な熱帯対流観測システムを利用した科学研究に,多くの科学者や気象リモートセンシング研究者が参加されることを希望しております.


A04
赤道域の大気波動の4次元構造とエネルギー輸送の研究

平成13年度の研究実績


1. DAWEX (Darwin Area Wave Experiment)キャンペーン

赤道域での積雲対流による大気波動の励起、伝搬特性を解明するために、2001年10-12月に北オーストラリアの中心都市である Darwin 周辺で豪・米と共同で国際共同観測を実施した。この地域ではpre-monsoonからmonsoon-onsetの時季に巨大孤立型積乱雲(Hector)が起こることが知られており、興味深い大気現象が観測された。なおDarwin域にはオーストラリア気象庁を中心に、既に種々の観測装置が整備されており、インドネシアにおける今後の集中観測のモデルとなる。


2. Kototabang 流星レーダーの現地調査

EARサイトに流星レーダーを建設するため、現地調査を行い、システムを設計するとともに、レーダー周波数選定のための電界強度計測(電測=雑音と混信の測定)を約1週間にわたり行った。この結果、EARサイト西方に送信および受信アンテナ域を確保し、周波数は37MHz帯を選定した。


3. 3次元モデリング
 
地表から高度100kmにいたる対流圏・中層大気のシミュレーションに拡張した3次元領域モデルの開発を進めた。過去のキャンペーン観測データを用いてモデリングを行い、対流圏の積雲対流から発生する大気波動が中層大気を上方に伝播して中間圏以高で砕波し乱流が形成される過程が再現され、現在解析・分析中である。


4. Pameungpeuk MFレーダーの現地調査
 
ジャワ島南部のPameungpeukにMF(中波)レーダーを建設するべく、現地調査を開始した。その結果、航空宇宙(LAPAN)の観測所内に適当なレーダー設置場所を見出し、測量などの調査を継続した。


5. 大気光による重力波の観測
 
ジャワ島西ジャワ州のTanjunsari観測所でOH大気光イメージャ観測の長期連続運転を行い、高度90km付近の赤道域での大気重力波を観測した。データを解析して、赤道域の強い積雲対流の活動の水平分布と上空での重力波の水平方向が相関が強いことを発見し、積雲対流活動と中層大気上部の強い力学的な繋がりが示唆できた。

6. 西ジャワ州Serpongにおいて流星レーダー観測を継続し、中層大気上部の長期変動の解析に必要なデータを取得した。



平成14年度の研究計画


1. Pontianak MFレーダー観測とその拡張
 
雷害のため観測を停止しているPontianakのMF(中波)レーダーの観測を再開するとともに、レーダーシステムを長大十字アレイアンテナを用いた運動量フラックス計測可能なMFレーダーに改良(新Pontianakレーダー)し、観測を開始する。(MFレーダーについてはすでに6月に連続観測を再開した)。


2. Kototabang 流星レーダーの始動
 前年度の調査に基づいてEARサイトに流星レーダーを設置し、連続観測を開始する。周波数37.7MHz 出力12kW、5アンテナによる干渉計機能を有する流星レーダーを導入し、流星飛跡からの散乱エコーを高精度に受信し、中間圏・下部熱圏の風速および温度変動の観測を行う。


3. Pameungpeuk MFレーダー調査

LAPAN観測所内のレーダー設置場所の調査を継続し、本年度はMFレーダーアンテナ等の建設に着手する。本レーダーについては、来年度の観測開始を予定している。


4. 3次元モデリング
 
前年度に引き続き、対流圏の積雲対流から発生する大気波動が中層大気を上方に伝播して中間圏以高で砕波し乱流が形成される過程についてモデル内の現象を観測データと比較しつつ詳細に検討する。また、モデルの改良や同化データの拡大を行い、種々のケースについてシミュレーションを行う。


5. 中間圏・下部熱圏の協同観測
 
インドネシア内で稼動した流星レーダー、MFレーダーを加えて、本年度後半にTIMED衛星観測、日本国内のMLT地上観測などと協同観測を実施し、小規模からグローバルな規模の種々の大気現象の観測を行う。

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図1

DAWEXキャンペーンの3つの気球観測点

実験状況
Kataherine周辺に起こった積雲

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図2
Kototabang 流星レーダー建設準備状況 左が11月、右が3月でアンテナ設置場所の整地を始めた。奥はEAR。右にみえるのは、送受信機を設置するLAPANの建物。


A05
大型高機能ライダーの開発と赤道大気鉛直構造の観測

平成13年度活動報告

  1. 中間圏界面の金属原子共鳴散乱ライダーによる気温分布観測手法の検討を行ない、必要なライダーの仕様を決定した。
  2. 2001年10月30 日から11月6日まで、ライダー設置候補地であるインドネシアBandung とKoto Tabangの現地調査を行った。
  3. 2002年2月28 日から3月8日まで、Koto Tabangへ小型ミーライダーを持ち込み、予備観測実験を試みた。

図1 小型ミーライダーによるKoto Tabangでの観測例

 

図2 ミーライダーによる雨雲からの降雨の観測

 

図3 持ち込んだ小型ミーライダー

 

図4 EARサイトにおけるライダー観測時の空模様(2002/3)
雨季でも晴れ間は見られた

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研究課題
課題1:高性能波長可変レーザーの開発
中間圏界面付近の金属原子およびイオン層やその領域の温度を観測するライダーの中心となる高性能レーザーを開発する。 Nd:YAGレーザー励起波長可変レーザーの波長を、Na、K、Fe、Ca、Caイオン等の金属原子・イオンの共鳴線に同調・維持できるよう、インジェクションシーディング技術を用いた波長安定化手法の開発を行う。
 
課題2:ライダー遠隔制御システムの開発
赤道域の遠隔地に設置するライダーシステムのメンテナンスを容易にするために、複数の小型望遠鏡を光ファイバーを用いて集約し実効受光面積を増やす技術、並びにインターネット、衛星回線等を通して、遠隔地からライダーの調整並びにデータ取得を可能とする遠隔制御システムのハードウェア・ソフトウェアの開発を行う。

 

課題3:赤道設置用大気観測ライダーシステムの構築
課題1で開発したレーザー及び課題2で開発した受信系並びに遠隔制御システムをベースに、ライダーシステムを開発しEARの観測所内に設置する。このシステムは、中間圏界面付近の金属原子・イオン密度及び大気温度を観測する共鳴散乱ライダー、成層圏から中間圏の大気温度測定用のレイリーライダーシステム、並びに昼夜間連続観測可能な水蒸気ラマンライダーシステムから成る。

 

課題4:中間圏界面の温度構造・組成構造の解明
課題3で開発したライダーシステムを用い、赤道上空の金属原子、イオン密度、大気温度を観測し、これまで観測が殆ど行われていない金属原子層や中間圏界面温度の赤道域での構造を世界に先駆けて明らかにする。特に金属原子層の構造は、研究項目A06とも協力する。また研究項目A03と協力して、下層大気から伝搬する大気波動が成層圏・中間圏の温度構造中でいかに伝搬し中間圏界面に影響を与えるか解明する。

 

課題5:対流圏の湿潤熱帯大気構造の解明
課題3で開発したライダーシステムで、対流圏内の水蒸気プロファイルを昼夜にわたって観測し、赤道直下での水蒸気量の変動を詳細に調べる。さらに、EAR観測や研究項目A03の観測とも協力し、光・電波による複合観測で赤道湿潤大気中の積雲対流他種々の気象現象のメカニズムを解明し、また大気波動・大気循環の励起源として果たす役割を解明する。

平成14年度活動計画
(1)中間圏界面温度観測用ライダーシステムの製作と調整を行う。

(2)可搬型小型色素レーザの調整を行う。

(3)可搬型小型色素ライダーをインドネシアへ搬入・予備実験を行う。

(4)ライダー遠隔制御の基礎実験を行う。


A06
赤道大気エネルギーによる熱圏変動の研究

研究代表者: 小川 忠彦(名古屋大学・太陽地球環境研究所・教授)

研究分担者: 塩川 和夫(名古屋大学・太陽地球環境研究所・助教授)

研究分担者: 大塚 雄一(名古屋大学・太陽地球環境研究所・助手)

平成13年度の研究実績

1.平成14年度からインドネシアのEARレーダーサイトで観測を開始する2種類の観測装置の製作を終了し、国 内での調整・動作試験を行った。これらの装置は、高度80-300 kmに存在する原子・分子が発する夜間の大気光の輝度と回転温度を高感度で測定するための「空冷型冷却CCDカメラシステムを用いた分光温度計」と、汎世界測位(GPS)衛星からの電波を用いて電離圏の全電子数と電離圏シンチレーションを測定するための「2周波GPS連続観測システム」である。

2.研究代表者と研究分担者2名が総括班会議(平成1312月6日開催)に出席し、当該研究課題を円滑に進めるため、14年度における研究計画の妥当性や他研究課題との整合性について議論した。

3.平成131031日から11月6日の間、研究分担者2名がインドネシアを訪問し、インドネシア航空宇宙庁(LAPAN)の関係者に対して当該研究計画を説明するとともに、共同研究の進め方を議論した。また、EARレーダーサイトを視察し、上記の観測装置の設置場所を選定した。

4.平成14年3月18日−22日に京都で開催された「赤道大気結合(EPIC)国際シンポジウム」において、詳細な当該研究課題計画について研究代表者が口頭発表(招待講演)し、研究分担者2名は当該研究の先駆けとなる研究成果を口頭発表した。また、日本(佐多)とオーストラリア(ダーウィン)に設置した全天カメラで電離圏プラズマバブルの初の同時観測に成功し、論文にまとめた。その様子を図に示す。この成果は、インドネシアでの主要な研究項目の一つである「プラズマバブル発生機構の解明」の先駆けとなるものである。

(左)鹿児島県佐多で観測された630.0nm大気光の全天画像。
(右)ダーウィンで観測された
630.0nm大気光の全天画像を磁力線に沿って北半球に投影したもの。大気光強度がサボテン状に弱くなっている部分がプラズマバブル(高度は磁気赤道上空で約1700 km)であり、両者の構造は非常によく一致している。観測日時は20011112日の夜半過ぎ

5.学会、講演等成果一覧 

(口頭発表)

大塚 雄一, 塩川 和夫, 小川 忠彦, P. Wilkinson, 日本とオーストラリアにおける赤道プラズマバブルの全天大気光イメージング観測, 16回大気圏シンポジウム, 宇宙科学研究所, 2002228-31

Ogawa, T., K. Shiokawa, Y. Otsuka, and M. Yamamoto, Study of the ionosphere and thermosphere over Indonesia using radio and optical methods (Invited), International Symposium on Equatorial Processes Including Coupling (EPIC), Kyoto University, March 18-22, 2002.

Otsuka, Y., K. Shiokawa, T. Ogawa, and P. Wilkinson, Conjugate observations of equatorial plasma bubbles with airglow imagers, 同上.

Shiokawa, K., Y. Otsuka, T. Ogawa, and P. Wilkinson, Gravity wave observation through airglow imaging: Initial results from the DAWEX campaign, 同上.

大塚 雄一, インドネシアでのTEC、シンチレーション観測計画, GPSを利用した電離圏研究と他分野への応用, 京都大学, 2002325

(誌上発表)

Otsuka, Y., K. Shiokawa, T. Ogawa, and P. Wilkinson, Geomagnetic conjugate observations of airglow depletions at midlatitudes, Geophys. Res. Lett., in print, 2002.

平成14年度の研究計画

1.平成13年度に製作した以下のGPS観測装置の国内野外試験観測を継続する。その後、14年度秋までにインド  ネシアに搬送し、本研究課題を遂行するための本格観測をEARサイトにて開始する。

・2周波GPS受信装置(1台)とGPSシンチレーション観測装置(3台)。GPS受信装置からは30秒毎に電離圏全電子数(TEC)が得られる。また、シンチレーション観測装置3台を適当な間隔(約100m)で設置することにより、電離圏の電子密度不規則構造の2次元運動を知ることができる。

2.平成14年度早期に夜間大気光観測用の全天CCDカメラ(一式)を製作し、国内野外試験観測を行う。その後、14年度秋までにEARサイトに移設して本格観測を開始する。観測波長は、557.7nm630.0nm777.4nm及びOHバンドである。この装置とGPS受信装置、EARレーダー等からプラズマバブルの発生・発達課程が解明できる。

3.既存の磁力計(1台)を平成14年度秋までにEARサイトに移設し、観測を開始する。この装置で地球磁場の微少な変化を連続測定し、電離圏プラズマの変動をモニターする。

4.平成13年度に製作した「夜間大気光観測用の空冷型冷却CCDカメラを用いた高感度分光フォトメータ」(1台)については、国内での調整と野外試験観測を進め、14年度中にEARサイトにて本格観測を開始する。この装置では、天頂付近を中心とした観測視野14度内において、発光波長が427.8nm (窒素分子イオン)486.1nm(水素原子β線)557.7nm (酸素原子)、630.0nm (酸素原子)、777.4nm (酸素原子)589.3nm (ナトリウム)及びOHO2の発光強度の他、OHO2の発光を用いて中間圏界面付近の温度も測定できる。

5.研究代表者と研究分担者2名は総括班会議に出席し、当該研究課題を円滑に進めるため、研究計画の妥当性、進捗状況、15年度以降の研究計画等を議論する。

6.研究分担者1名がEARサイトを訪問し、大気光観測装置を設置するための小屋の建設について打ち合わせる(平成14年7月9日〜12日に実施済み)。

7.観測開始後のデータを解析し、国内外の学会等で口頭発表し、誌上論文にまとめる。