1.プロジェクトの目標
伝統構法が受け継いできた「土」や「木材」といった自然素材の使い方をもう一度再認識し、その良さを損なわない範囲で、現代構法の利点も取り入れたハイブリッド型の真壁仕様の木造軸組み架構を開発する。究極的には、現在危機的状況に陥っている国産針葉樹林業に活力を与え、国産針葉樹造林木を軸とした理想循環系を始動させることにある。
平成14年度の目標は、プレファブ土壁を入た5種類の軸組み架構の水平加力実験を行って、雑壁の数、位置が軸組み壁体の水平せん断性能に及ぼす影響に検討を加える。合わせて、プレファブ土壁の施工性、解体容易性についても検討を加え、エコ住宅の基礎をなす軸組み壁体構造の技術的な可能性を検証する。
2. 実験
2.1 プレファブ土壁とは
我国の伝統的木造建築物の壁仕様の一つである土塗り壁は、軸組みが粗方建ち上がった後、建物に左官職人が入り、現場で壁を造り上げてゆく現場施工の形態であった。荒壁土の乾燥を待って逐次次の工程(村直し、中塗り、仕上げ塗り)へと作業を進める関係で、壁が完成するまでに相当長い期間を要するという点が、一つの問題であった。
そこで、コンクリート構造物の現場施工性を向上させるために一部で導入されているプレキャスト部材を用いた方法と同じ考え方に立って、比較的小さな単位の土壁を予め完成させておき(プレファブ化)、それを軸組みの必要な箇所に接合具で接合し、雑壁入りの軸組みを完成させるという方法を考えた。
図1、写真1に今回試作したプレファブ土壁(基本ユニット)の概要を示す。
2.2 軸組みの概要とプレファブ土壁の固定
一例として、図2に小壁と腰壁を有する軸組み壁体の組立順序とプレファブ土壁の固定経過を示す。軸組み部材としては、150mm x 150mmのスギ正角材を柱・土台に、40mmx 240mmのスギ厚板2枚を鋏梁に使用した。土壁を固定するための枠組材には、断面49mm x 100mmのスギ材を使用した。すべての材料は葉枯らし乾燥(前処理)をし、その後2ヶ月近く天然乾燥されたものである。
プレファブ土壁と軸組み材とは、図3に示すように直径12mm、長さ90mmのスギ圧縮木材のダボを斜めに打ち込んで固定した。ダボを打ち込む際には、圧縮木材が膨潤して引抜き抵抗を発揮するよう、熱湯にダボを漬けてから素早く打ち込んだ。
ダボの打ち込み間隔は、プレファブ土壁の縦枠に3本、横枠に2本とし、それぞれ両面から打ち込んだ。
2.3 試験体の仕様
表1に供試した5種類の試験体の部材性能、並びに、土壁のない状態で微少変形を与えた時に測定された軸組みだけの状態の初期剛性値地を示す。
図4〜図8に各試験体の軸組み詳細と、プレファブ土壁が付いた最終形態の図を示す。
2.4 静的正負繰り返し加力実験の方法
図9に静的正負加力実験の方法を示す。壁長1820mm、高さ2330mmの日本式せん断試験法を採用した。柱脚にはホールダウン金物は設置せずに実験した。
繰り返しスケジュールは、図9に示す#1変位計の見かけの変形角を基準に、以下に示す6サイクル各1回の繰り返しとし、最終回はジャッキの最大ストローク300mm分を押しで加力した。
第1サイクル: 0 → +1/300rad. → 0 →-1/300rad. → 0
第2サイクル: 0 → +1/150rad. → 0 →-1/150rad. → 0
第3サイクル: 0 → +1/ 80rad. → 0 →-1/ 80rad. → 0
第4サイクル: 0 → +1/ 60rad. → 0 →-1/ 60rad. → 0
第5サイクル: 0 → +1/ 30rad. → 0 →-1/ 30rad. → 0
第6サイクル: 0 → +1/ 15rad. → 0 →-1/ 15rad. → 0
最終回はジャッキを一杯に縮めた後、押し → 300mm→P = 0
変形角や相対変位は以下のように定義した。
3. 結果及び考察
3.1 各試験体における荷重(P)−せん断変形角(g)関係
図10〜図14に水平加力実験で得られた荷重(P)−せん断変形(γ)の関係を示す。
3.2 包絡線の完全弾塑性近似
各試験体の包絡線データを完全弾塑性近似したものを図15〜図19に示す。
各試験体の完全弾塑性近似による評価結果を表2に示す。
耐力壁と同じ評価法で見かけの壁倍率を計算すると、いずれの試験体の場合も、Paは1/120rad.の耐力で決まる。 現行ルールによると、壁倍率は(1)式で計算される。
壁倍率=Pa x (1/1960) x (1/L) ......(1)
Pa:表2の内、Py、P1/120、Pu(0.2Ds)、2/3Pmaxの中の最小値にバラツキ係数を掛けた値
L:耐力壁長さ(m)
結果を表3に示す。
小壁だけの骨組み1は、見かけの倍率が0.3で、剛性も骨組みだけの場合の26%増に過ぎない。
一方、小壁、袖壁、腰壁全てが付いた骨組み5は、見かけの倍率が1.31、剛性の増加は140%近くあり、まずまずの性能と考えられる。
3.3 各試験体の終局状態
いずれの試験体も柱脚接合部の込栓が破壊して終局耐力を迎えた。この破壊を遅らせる方法として、当該プロジェクトで別途研究を進めている「斜め木ダボ打ちによる柱脚接合部補強法」が有効であると考えられる。
柱脚を硬くすると、終局耐力は大きく向上するが、粘りのある終局状態ではなくなることも予想されるため、その導入には色々な面からの慎重な検討が必要である。
3.4 解体状況
いずれの試験体も、プレファブ土壁は圧縮木ダボ斜め打ち(接着剤は使用せず)だけで枠材に固定されているので、解体は非常に容易であった。かけやとバールを使って1体10分程度で、完全に個々の部品に分解できた。分別回収という面での有利性が認められた。
写真7−10に実験室内での解体の様子を示す。
4. まとめ
1) 今回供試したプレファブ土壁は1枚25〜26kgであった。枠材への組込は2人掛かりであり、もう少し軽いほうが扱い易い。枠材、壁厚を若干小さくすることを検討するべきである。
2) 初期剛性の増加はプレファブ土壁の枚数にほぼ比例的のようである。
3) 柱脚を18mm角の込栓1本で固定する場合、大きな終局耐力は期待できない。2Pの壁で見かけの倍率は1以下である。
4) 今回の試験体の場合、終局耐力は柱脚の込栓の耐力で決まった。より大きな耐力が必要な場合は、斜め木ダボ接合法による柱脚補強に関する検討が必要である。
5)解体、分別作業は容易で、供試したプレファブ土壁と圧縮木材によるダボ接合は解体容易な構造であるということが確認できた。