京都大学生存圏研究所
京都大学生存圏研究所

木質資源の自律的・持続的利用についての基本的な考え方

川井秀一(複合材料分野)(複合材料分野)

1.はじめに

  21世紀を迎え、地球の温暖化、化石資源の枯渇、廃棄物の大量発生の問題はその深刻度を増している。これらの問題を克服して人類の生存基盤を確立するには、森林・食糧資源などの生物資源の理想的な物質循環システムの構築が必要不可欠になっている。
 とりわけ、森林(木質)資源は再生産可能な生物資源の中で生産量が最も多く、21世紀において化石資源に代替する植物材料、バイオマスエネルギー資源として最も期待されている資源であり、地域の環境保全と資源の持続的利用に深く関わっている。
 ここでは、環境共生・資源循環型社会の実現のために、自然共生地域圏を自律閉鎖圏モデルに設定し、木質資源を例に資源循環のためのシナリオ策定を行う。すなわち、自然共生地域圏における森林の在り方を考え、木質資源の生産と消費を同調させた理想的な循環システムを提案する。
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2.基本的な考え方
2.1 自然共生都市地域圏と森林の機能区分

 人間活動の場である都市圏(人間圏)が長寿命であるあるためには、建物・道路などのハードウェアーの物理的・化学的劣化が小さく、機能の劣化がないことが必要であるが、その他にも、文化的に陳腐化しないことや社会変化・自然インパクトに対応できること等の機能が求められる。さらに、資源自律的であり、自然圏と時空的に繋がってその生存基盤の持続性が保証されていることも重要である。1,2)

   このような長寿命都市の持続性を保証するために、岡本は自然圏、人間圏ならびにその中間に位置して自然・人間が共生し、相互に利用しあう共生圏、いわゆるバッファー圏から構成される自然共生都市圏の概念を提唱している。1,2)

   このように地域空間を主たる役割に応じて機能区分し、これを管理するZoning Managementの手法は、近年の森林管理にも適用されている。たとえば、タイ国南部の熱帯湿地林に関する持続的な森林管理(Sustainable forest management)では、天然林(一次林)を残し、生物多様性を確保するための環境保存林(Preservation forests)、二次林による環境保全林(Conservation forests)、および資源利用のための資源開発林(Development forests)の3つの機能に区分している。

   資源開発林の地域では、場合によっては、潅漑を施してパラゴムノキやアブラヤシなどのプランテーション植物の栽培やイネ、その他の農産物の栽培が行われ、環境保全林における二次林の持続的利用に関する検討もなされている。3)

 わが国でも、2001年に森林・林業基本法が新たに制定され、森林の機能区分別管理が導入された。これによると、総森林面積2510万haは、水土環境保全林(Conservation forests)、人間との共生をはかる里山共生林(Symbiotic forests)、および資源循環利用林(Production forests)に区分けされ、それぞれ1300、550および660万haが充当されている。

   このような森林の機能区分に上述の自然共生都市圏の概念を重ね合わせることにより、地域の自然圏と木質資源の持続性が共に確保される基盤が整うことになる。表1は、このような自然共生都市地域圏と森林の機能区分との対応関係を示したものである。

2.2 資源自律型地域圏

 表2は、それぞれの地域圏における森林の機能別の森林面積、木材蓄積量ならびに成長量を示している。

 地域における木質資源の自律性と持続性を確保するには、その生産と消費を同調させた循環システムを構築することが必要不可欠である。すなわち、木材の消費を森林の純生長量以内に抑えることが必要になるが、ここで重要なことは資源循環利用林から見込まれる木質の純生長量を主たる対象とすべき点である。  もちろん、環境保全林や里山共生林から間伐等の施業による部分的な木材供給が見込めるが、立地や製品の質・量の観点から、経済林としての安定供給を期待できないので、これらを余力とみなし、二酸化炭素排出削減問題に絡んで、森林の二酸化炭素吸収分(基準年1990年の最大3.9%相当、すなわち、1300万炭素トン、原木換算で約5200万m3)に充当したり、文化財建築のための長大材の供給あるいは広葉樹資源を中心に家具材料に充てるべきであろう。

  いま日本全体を資源自律閉鎖圏と考えると、木材供給の対象となる資源循環利用林は林野庁によると660万haである。このうち天然林と人工林の比は340/320であって、現状では天然林の割合が高いが、将来的には人工林が主体となることが予測されている。  樹木の生長は気象や土壌など様々な生育因子に影響されることはもちろんであるが、林野庁統計に基づき全国的な年平均生長量を求めると、天然林と人工林についてそれぞれ0.62m3/haおよび7.0m3/haと算出される。主として住宅材料として使われる比較的成長の早いスギ・ヒノキ等の針葉樹が植林された人工林地域が木質生産の中心である。  資源循環利用林をわが国において持続的に利用しうる主たる木材原木の供給源と考えると、その年間供給量は2500万m3程度と見込まれる。この値は、後述のように、わが国の現在における年間木材消費量のおよそ1/4に相当する。

 したがって、木質の生産と消費の循環プロセスを構築するには、現在の消費を大幅に抑制することが必要になる。木質の生産→加工→利用→廃棄に至る一連のプロセスにおいて一層の有効利用を図ると共に、長期耐用と再利用・再生利用のための技術開発が不可欠である。換言すれば、木質住宅の長寿命化とリサイクル利用技術の開発が緊要である。
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3.現状解析
3.1 木材の物質フロー

 統計資料をもとにわが国の木質資源の物質フロー(2000年)をまとめると、図1の通りである。

  わが国の年間木材需給はおよそ1億m3である。このうち、約40%が紙・パルプに、残りは建設・土木用である。したがって、木材需要の過半は住宅を主体にした建材に使われている。最近30年間の木材需給の顕著な変化は、国産材率が70%から20%まで大きく低下したことと、輸入材では製品群の急増が特筆される。

  製品としては、製材(集成材を含む)、合板、およびボード類/紙・パルプの3つに大別される。製材・集成材および合板の加工歩留まりは約65%であるが、各々の木材産業で排出される木質廃棄物はチップとしてカスケード的に再利用されている。すなわち、50%は紙パルプや木質ボード原料に、残りの50%はエネルギー変換され、全体として95%以上のリサイクル率に達し、有効利用が進んでいる。

 一方、解体材は今後恒常的に年間1200万m3(600万トン)、その他、新築時に排出される木質廃材、梱包材、パレット等の廃材として500万m3程度が見込まれている。そのうち約1/3がリサイクルチップあるいは燃料として利用されているに過ぎず、残りは産業廃棄物として焼却/埋め立て処分されている。しかし、建設リサイクル法など一連の廃棄物処理法の施行により、解体材の利用が加速されつつある。  平成12年における木質ボード用原料への変換は約70万トンであり、ボード工業の年間使用原料のおよそ50%に達している。とくに、パーティクルボードのリサイクルチップ利用率は2/3にまで及んでいる。一方、紙パルプのリサイクル率は58%と向上している。

3.2 住宅の需給

 わが国の人口は1億2700万人(2000年)であり、今後緩やかに減少傾向を示すことが予測されている。世帯数は4483万世帯(平成10年住宅・土地統計調査)、住宅ストック数5022万戸(同上)を数え、すでに量的には飽和状態に達していると言える。

 現状における住宅の平均寿命は26年(25-30年)であり、着工数は約110万戸/年で、このうち木造率は45%、すなわち、軸組:ツーバイフォー:木造プレファブ:S/R非木造=36.3:6.4:2.5:54.8である。1戸建て住宅の平均床面積は135m2/戸、1戸当たり(床面積当り)木材使用量は木造および非木造についてそれぞれ0.2m3/m2および0.04m3/m2と算出されている。4)
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4.自律閉鎖系地域圏の木質資源の持続的利用のためのシナリオ

 木質資源の持続的利用のためのシナリオの策定には、まず自律閉鎖系・自然共生都市地域圏を設定し、人口、資源、経済・社会条件、技術水準等の基本条件を検討することが必要である。地域圏の設定は、例えば、「日本」など一定の資源・経済規模をもち、閉鎖系として捉えやすい地域が望ましい。

 資源循環のシナリオが成立するためには、生産と消費の同調が必要条件となる。木質資源として持続的に利用しうる木材の年間供給量に再生・再利用木材を加えて供給可能量を設定し、他方、住宅による木材消費量、住宅のストック、着工量、平均床面積、床面積当り木材消費量等を設定すれば、要求される住宅の寿命を予測することができる。図2は自律閉鎖系地域圏の木質資源の持続的利用のためのシナリオの概念を示したものである。5)

4.1 基本条件の設定

・自律閉鎖系・自然共生都市地域圏の設定:日本
・人口、木質資源、住宅等の諸条件:現在(2002)の状態
  人口12000万人、世帯数4500万戸、住宅ストック5000万戸
・現状の技術水準のもとでの木質資源の最適配分を設定する。
・現状の住宅が全て長寿命型住宅と仮定する。
・住宅の寿命:木造および非木造の寿命は同じと仮定

4.2 木質原木の加工区分の設定

注)チップ:紙パルプ、ボード、エネルギー 製品歩留まり:製材・合板ともに40%と仮定、残材はチップに利用(1200万m3)
  各製品の原料投入量と製品生産量から計算した場合、製材・合板いずれも65%程度
  国産材の場合は小径原木が主体となるので50%と計算
  施工時の歩留まり:15%のロス
  最終歩留まり:42.5%→40%
・非住宅用建材としての木材の利用(考慮しない)
・家具としての木材の利用:広葉樹(循環利用林以外の森林から賄う)
・土木建築資材としての木材の利用(考慮しない)

4.3 再利用・再生利用率の設定 4)


4.4 住宅の設定 4)

4.5 年間住宅着工数および住宅の寿命の試算

いま、年間着工数は、以下のように算出される。
年間着工数 = 住宅への年間木材供給量/住宅1戸当たりの平均木材使用量
      = (500+300+200+220)/(135x0.3x0.45+135x0.06x0.55)
       = 538,000戸

したがって、木質資源の持続的利用に必要な住宅の寿命は以下のように算出される。
住宅の寿命 = 住宅のストック数/年間着工数
       = 50,000,000/538,000
       = 93年
以上の試算結果は、わが国において資源自律的な長寿命型木質住宅の開発目標を100年程度に設定すべきことを示唆している。
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5.持続的・循環的な木質資源利用のための物質フローの作成

 図1に対応した木質資源の持続的・循環的利用のための物質フローを描くためには、紙・パルプの物質フローを新たに設定することが必要である。チップあるいはパルプ材については、多くの企業体が海外植林によって調達しているので、国内での資源のみにこれを頼るのは必ずしも合理的ではないかもしれない。自律閉鎖系・自然共生都市地域圏の設定を地球そのものまで敷衍すれば、海外の持続的に管理された森林からの木質資源の輸入・利用に対しても、その是非が問われねばならないであろう。

 今試みに、現状の紙・パルプの需給の20%減、リサイクル率80%を想定して物質フローを描くと図3の通りである。図において、資源循環林からの原木丸太2500万m3は製材、合板、チップにそれぞれ50、30および20%の割り合いで充てられ、前2者の廃材の80%余りはチップとしてリサイクルされると共に残りはエネルギー変換される。解体材・古材は約1000万m3が見込まれるが、これらのうち製材500万3のうちリユースは40%、チップへのリサイクルは40%と割り当てられている。したがって、製材の平均寿命はこれらの循環を考慮すると220年 と計算される。以上のように、持続的・循環的な木質資源利用のための物質フローには、リユースおよびリサイクルが大変重要な要素となっていることがわかる。

 今後このような木質資源の物質フローが実用的な観点から十分な合理性と妥当性を備えているかどうかの検証が必要である。
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参考文献

1)岡本久人:ロングライフ型インフラ整備政策による地球環境問題と経済問題の解決、土木学会第9回地球環境シンポジウム講演論文集、p.63-70、平成13年7月18-19日、北九州市.

2)岡本久人:利用資源の長寿命化政策による環境および経済問題の解決、日本環境共生学会2001年度学術大会発表論文集、p.99-104、平成13年10月9-10日、大阪市.

3)Kawai, S; Okuma, M.; Meshituka, G.; Iiyama, K.: Sustainalbe Utilization of melaleuca in Naratiwat Province in southern Thailand -A proposal for community based level wood industry, Proc. the International Symposium "Can Biological Production Harmonized with Environment?", p.79-82, October 19-20, 1999, Tokyo.

4)宮崎博文:木造住宅解体の現状と課題-手壊し解体工法による古材の有効利用についてー、第9回日本木材学会九州支部大会講演集、p.5-10,2002年8月22〜23日、大分

5)岩本浩、佐藤庸一、馬場崎正博、川井秀一:木質資源を指標にした資源自律型地域圏II.福岡県における事例について、次世代システム研究所報、第1号、p.95-101(2003)