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生存圏フォーラム 第8回連載コラム

明治時代、裏千家11代家元・玄々斎精中宗室は「立礼(りゅうれい)式」と呼ばれる新たな点前を考案した。従来、お茶は畳に座って頂くものだが、立礼式はいわゆるテーブルや椅子でお茶を頂く作法である。立礼式が考案された大きな背景として、1872年(明治5年)開催の第一回京都博覧会がある。博覧会には海外から多くの方々が来られたそうだが、海外の人にとって畳の上に座る(まして正座)というのは不慣れである。そこで玄々斎は「海外からのお客でもお茶を楽しんで頂けるように」という心遣いで、立礼式を考案されたそうだ。当時は批判もあったらしいが、お客を第一に考え思いを寄せることで伝統を守りつつ抜本的な変革を行ったのである。これまでの学術分野には敬意を表しつつも未来のための変革を厭わないことが生存圏科学に携わるものの矜持ではなかろうかと、研究室で一服の茶を頂きながらふと考えを巡らせる。
(生存圏フォーラム会員 京都大学准教授 三谷 友彦)