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ミッション4「循環材料・環境共生システム」
令和3年度の活動

更新日: 2022/06/01

 

課題1 木質材料をもちいた建築物の設計に資する部材・構造の挙動解明

研究代表者 五十田博(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 中川貴文(京都大学 生存圏研究所)、森 拓郎(広島大学大学院 工学研究科)、北守顕久(大阪産業大学 工学部)、荒木康弘(国土交通省 国土技術政策総合研究所)、中島昌一(国立研究開発法人 建築研究所)

本年度は科研費(基盤A)、林野庁補助事業プロジェクトに協力し、3層のCLT連層壁にポストテンションとダンパーを組み込んだ耐震システム(図1-1)の振動台実験を実施した。現在のCLTパネル工法の構造設計法では床勝ち工法を想定しているため、本システムのような連層耐震壁による壁勝ち工法に関しては構造性能に関する知見が不十分である。今回の実験では、ダンパーや壁脚部接合部が破壊するまで加振を行い、本システムのロッキング機構の耐震性能を確認した。また数値解析モデルに(図1-2)より、振動台実験の条件検討のための事前解析、メカニズム把握のための事後解析を実施した。

成果発表

  1. 高橋竜大、山形海斗、井上 涼、森 拓郎、辻 健斗、松田昌洋、堀江優一、辻 拓也、中島昌一、荒木康弘、中川貴文、五十田博「プレストレスを導入した CLT 連層壁を有する 3 階建ての振動台実験」、日本建築学会中国支部研究発表会, 2022年3月

 

課題2 経年木材のDNA分析による素性分析

研究代表者 今井友也(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 田鶴寿弥子(京都大学 生存圏研究所)

建立から100年以上経過した建築物の部材(図1)をモデル試料として選択した。なお、解剖学的な識別作業の結果,これらの木材はアスナロ属と判断された。この木材ブロックを低温下で機械的破砕し、粉体試料から市販のキットを使ってDNAを抽出した。このDNAをテンプレートとしてPCR増幅を行った。PCRに用いたプライマーは,BOLDシステム(The Barcode of Life Data Systems、 http://boldsystems.org/)より取得したChamecyparis obtusa(ヒノキ)とThujopsis dolabrata(アスナロ)由来のrbcLおよびmatK遺伝子の塩基配列を参考にし,上記二樹種の判別が可能な領域を増幅するプライマーを設計した。増幅されたPCR産物は,アガロースゲル電気泳動に供し(図2),想定される位置に出現したバンドを切り出して抽出を行った。このゲル精製DNAを,サンガー法によるDNAシーケンス解析に外注依頼し,解析結果とデータベースに登録されている塩基配列と比較解析を行った。

PCR条件の最適化を行った結果、DNAシークエンスデータの改善を得ることができた。一方で,DNAシークエンスデータの質は樹種判別に支障が出かねないレベルであった。詳細は3月に開催の第72回日本木材学会年次大会で発表の予定である。

成果発表

  1. 今井友也、田鶴寿弥子 「DNAバーコード解析による木材試料の樹種判別へ向けて」 第72回日本木材学会年次大会(オンライン) 2022年3月15日

 

課題3 樹木内部応力の理解とその利用

研究代表者 松尾美幸(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 梅村研二(京都大学 生存圏研究所) ,山本浩之(名古屋大学大学院生命農学研究科),吉田正人(名古屋大学大学院生命農学研究科)

樹木はその成長過程において、樹幹内に内部応力を発生させることで姿勢制御や外力からの樹体保護をおこなっている。この内部応力は残留応力と呼ばれ、樹木の生存戦略として重要である一方、製材時に木材の変形を引き起こして生産効率を下げることから、木材の有効利用を妨げる要因でもある。

本年度は、特に製材変形が問題となる大径材(丸太直径30 cm以上の材)について、残留応力分布を把握するための大規模測定をおこなった。スギおよびケヤキの大径材を試料として、それぞれの残留応力の特徴を明らかにした。スギの残留応力は、これまでの多くの報告と同様の典型的な山型分布(樹皮側で引張応力,髄側で圧縮応力)であった。残留応力の大きさには個体間でばらつきがあり、従って製材による反りも個体によってばらつくことが予想された。残留応力の大きさを予測する簡易指標として、丸太のヤング係数、密度、直径、樹齢等を検討したが、いずれも有効ではなかった。一方のケヤキでは、放射方向に沿って局所的に上下する特異なジグザグパターンとなり、また個体差も大きかった。このような分布は他の樹種では報告例がなく、ケヤキに関してわずかに測定例があるが特異な分布についての言及はない。この特異なジグザグパターンと、ケヤキ特有のあて材形成パターンに関係があると考えられるが、詳細は不明である。

今後は、スギの残留応力分布を予測するための簡易指標を検討する。また、ケヤキの残留応力分布については、顕微鏡観察等によってあて材分布の把握を行い、残留応力の特異性との関係を調べる予定である。

図1.残留応力解放ひずみの放射方向分布の例(左:スギ,右:ケヤキ,縦軸の上下限が異なることに注意)

 

成果発表

  1. 山下、加藤、松尾、山本、柾目板を用いたスギ大径材の残留応力の測定、木材工業、76 (11)、462-467、2021
  2. Matsuo-Ueda M, Tsunezumi T, Jiang Z, Yoshida M, Yamashita K, Matsuda Y, Matsumura Y, Ikami Y, Yamamoto H, Comprehensive study of distributions of residual stress and Young’s modulus in large-diameter sugi (Cryptomeria japonica) log, Wood Science and Technology, 56(2), 573-588, 2022

 

課題4 生活様式の変化に伴い新たに生じる木材の生物劣化への対策

研究代表者 畑俊充(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 藤本いずみ(京都大学 生存圏研究所),小野和子(京都大学 生存圏研究所)

 

①木材食害性昆虫の大量飼育法の検討

木材流通のグローバル化・高速化は我々に安価な製材品を供給し、豊かな住環境を 提供してきた。その一方で、海外製品・家具等に付着した昆虫類がノーチェックで国内に持ち込まれ定着するという「外来種問題」も引き起こしてきた。新たに侵入した木材食害性昆虫の防除法を検討するには、大量飼育し供試できることが必要不可欠である。

生存圏研究所では、イエシロアリ及びアメリカカンザイシロアリの他、ヒラタキクイムシ及びアフリカヒラタキクイムシ(外来種)を飼育・維持している。近年これらの種に加え、ケヤキヒラタキクイムシ、アラゲヒラタキクイムシ、ホソナガシンクイ(外来種)、チビタケナガシンクイ、ケブカシバンムシ、クシヒゲシバンムシの継代飼育に着手してきた。これらは、ヒラタキクイムシ用の人工飼料を用いて全て飼育可能であることが判明している。しかしながら、ヒラタキクイムシ用の人工飼料の主原料であるラワンが入手できなくなり、代替品の検討が喫急の課題となっている。過去の研究ではミズナラ・コナラで飼育可能とされていることから、ミズナラを原料として人工飼料を作成、飼育可否の検討に着手した。ミズナラはタンニンが多く含まれるため、粉砕機の鉄分と反応し黒化することから、生育への影響が懸念された。アフリカヒラタキクイムシについては2世代は問題なく生育可能であったが、ヒラタキクイムシ、ホソナガシンクイ、チビタケナガシンクイ、クシヒゲシバンムシ、ケブカシバンムシは産卵&幼虫の生育は順調であったが、ラワン製と同じ作成方法による人工飼料では生育途中で崩壊してしまい羽化には至っていない。現在、粉砕サイズや採卵方法を変更して検討中である。尚、現行飼育条件では、ケヤキヒラタキクイムシは年1回であり、アラゲヒラタキクイムシは羽化時期が揃わない為、未着手である。

図1.供試虫(左から;ヒラタキクイムシ、アフリカヒラタキクイムシ、ケヤキヒラタキクイムシ、アラゲヒラタキクイムシ、ケブカシバンムシ、クシヒゲシバンムシ、ホソナガシンクイ、チビタケナガシンクイ)

 

②ツノマタタケの腐朽特性の調査

ウッドデッキや木製ベンチ、テーブルなど、エクステリアの木材でよくみられるツノマタタケは、実験室の腐朽試験ではあまり木材を腐朽させないことが知られている。しかし、普遍的にみられる腐朽菌であり、その被害は無視できない。

 木材の抽出成分が雨水等で流出することで、野外ではツノマタタケが侵入しやすくなると考え、屋外にさらされた木材を再現した試験体を用意した。ツノマタタケの腐朽特性を探るべく、それらを使用し腐朽試験を行っている。

 

成果発表

  1. 藤本いずみ 公益社団法人日本しろあり対策協会編「蟻害・腐朽検査のための現場調査補助写真集」24-31, 2021

 

課題5 セルロースナノファイバーの製造と利用

研究代表者 矢野浩之(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 阿部賢太郎,田中聡一(京都大学 生存圏研究所)

実験にはASA変性CNFを10wt%添加したPP樹脂を使用した。射出成型により60 mm×60 mm×2 mmの板を作成した。これをテフロンシートに挟み、120℃に設定したホットプレスにより荷重926 kNで厚さ方向に圧縮し、圧延加工を行った。圧延率((圧延前厚さ―圧延後厚さ)/圧延前厚さ))は約50%となった。圧延加工により試料は楕円形に広がった。未圧延試料および圧延試料の中央部からダンベル形状の試料を作成し、引張試験に供した。結果を図5-1に示す。

 CNF強化PPの弾性率は圧延加工により2.69GPaから3.79GPaまで1.4倍に増大した。同様に圧延処理したニートPPにおける弾性率は未圧延試料の2.35GPaから2.81GPaまでの1.2倍であり、CNF強化PPの方が圧延による弾性率変化は大きいといえた。特筆すべきことは、CNF強化PPの破断ひずみが圧延率50%までの圧延加工により、4%弱から34%まで10倍近く増大し、引張強度や破壊までの仕事量が飛躍的に増大したことである。仕事量の増大は、CNF補強PP材料の耐衝撃性が向上することを示唆している。

成果発表

  1. バイオマテリアルシンポジウム2021公演要旨,12.17 オンライン公開
  2. Semba T, Ito A, Kitagawa K, Kataoka H, Nakatsubo F, Kuboki T, Yano H. Polyamide 6 composites reinforced with nanofibrillated cellulose formed during compounding: Effect of acetyl group degree of substitution. Composites Part A: Applied Science and Manufacturing 145, 106385, 2021
  3. Sato A, Toshimura T, Kabusaki D, Okumura H, Homma Y, Sano H, Nakatsubo F, Kuboki T, Tano H. Influences of dispersion media for chemically modified cellulose nanofibers on rheological and mechanical properties of cellulose nanofiber reinforced high-density polyethylene. Cellulose 28 (8), 4719-4728, 2021

 

 

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