研究内容

根圏での植物二次代謝産物

 植物は根からタンパク質や糖、アミノ酸、有機酸、フラボノイドなどの化合物を分泌しています。これらの化合物は根分泌物 (Rootexudate)と総称され、植物が光合成で獲得した炭素の10%以上を占めます。植物が光合成産物を根から分泌するという現象は一見すると無駄に見えますが、根分泌物は植物と土壌微生物の相互作用において最も重要な根の機能の一つです。

根分泌物は微生物の栄養源となる他、根粒菌や菌根菌との共生に必要なシグナル分子であるフラボノイドやストリゴラクトン、アルミニウム耐性に寄与するリン ゴ酸等の有機酸、Feのキレーターであるムギネ酸、ファイトアレキシンであるベスティトールなど特有の機能が明らかになっている代謝物もあり、植物の生育に重要な役割を担っています。また根分泌物は、根の周りに棲息する微生物のコミュニティー(根圏微生物叢)の形成にも大きな影響を与えることが明らかになっています。

根分泌物は根から受動的に放出されると考えられてきましたが、近年の研究により輸送体の関与する能動輸送によっても多くの根分泌物が土壌中へ分泌されることが明らかになってきました。しかし、根分泌物の輸送体として報告があるのは、有機酸の輸送体など数例であり、フラボノイドなどの二次代謝産物や糖、アミノ酸などを分泌する輸送体は未同定です。本研究では、未知の根分泌物輸送体を同定し、根分泌物の代謝・輸送系を統合的に解析することで、植物が根分泌物を介して根圏土壌の生物的・非生物的環境をどのように制御しているのかを明らかにしたいと考えています。固着生活を営む植物は外部環境のストレスに耐えるメカニズムを発達させてきましたが、一方で根分泌物を介して外部環境(根圏土壌)に積極的に働きかけて、生育に適した環境を作り出しているのではないでしょうか。

参考文献
(1)SR Pinton, Z Varanini, P Nannipieri. eds. Therhizosphere: biochemistry and organic substances at thesoil?plant interface. 2nd edn. CRC press Sugiyama, A. and Yazaki, K. Root exudates oflegume plants and their involvement in interactions with soilmicrobes. In: Vivanco, J. and Baluska, F. (eds.) Secretions and Exudates in Biological Systems. Springer