研究内容

プレニル化フェノール類とプレニル化酵素

 大豆イソフラボンや茶カテキンなど植物のポリフェノール成分は、ヒトの健康によい天然物質として広く認識され、皆さんもいたるところで耳にすると思います。中でも機能性や生理活性が顕著に高いポリフェノール成分として、プレニル基と呼ばれる「ひげ」のような化学修飾を持つ「プレニル化ポリフェノール類」が多くの薬用植物や作物から見つかっています(図1)。プレニル基は、これら化合物の示す生理活性に大きな役割を果たしているため、我々は植物ポリフェノールの高機能化を担うプレニル化酵素(prenyltransferase:PT)の解明を進めています。

1-1 プロポリスの活性成分生産

 プロポリスは、ミツバチが木の芽や樹液など植物の樹脂成分の多い組織を集めて自らの唾液とともに噛み砕きニカワ状にした粘着性物質のことで、ミツバチはこのプロポリスを巣の補強や修繕に用いているだけでなく、その抗菌活性を利用し、細菌の繁殖しやすい環境である巣の中を清潔に保っていると言われています。 我々ヒトはその有用性を2,000年上も前から経験的に見出し、現在では抗菌、抗炎症、抗酸化、抗腫瘍、免疫刺激活性など実に多岐にわたる生理活性が報告されています。世界各地にプロポリスは存在しますが、ミツバチがプロポリスを作るために選ぶ植物種が産地によって大きく異なるため、プロポリスに含まれる成分や生理活性もその産地によって千差万別となります。我々は、その中でもプレニル化フェノール類が活性本体となる沖縄産プロポリス(トウダイグサ科オオバギ由来)と、ブラジル産プロポリス(キク科バッカリス由来)に注目し、その生合成を担うPT遺伝子の研究を進めています。

1-2 フラノクマリン類生合成

 フラノクマリン類は植物ポリフェノールの1グループ、クマリン類に属し、昆虫や病原菌といった外敵からの防御を行う天然化合物です(図3A)。その防御メカニズムは、紫外線照射下でフラノクマリンがゲノムDNAと反応する遺伝子毒性(光感作性)、またP450酵素の阻害活性というユニークな性質に起因しますが、これらの性質は我々ヒトにも例外なく作用してしまいます。例えば、フラノクマリン類は柑橘類やイチジク、またパセリなど身近な食物に蓄積しているため、野外での農作業中に光感作性によって皮膚がやけどしたといった被害例もこれまでに報告されています(図3B)。またP450阻害に関しては、グレープフルーツジュースなどに含まれるフラノクマリン類が、ヒトの腸管などで薬物の分解を行うP450酵素を不活性化するために、同時に経口投与された薬物が長時間体内にとどまり、副作用が生じやすくなるという薬物動態かく乱が報告されています。 このような話を聞くと、フラノクマリン類は我々人間にとって悪い成分と思われがちですが、上手にコントロールすることで有益になるケースもあります。特にその光感作性は、実際にアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の治療に用いられています。このように益・不益の両面を有するフラノクマリン類を上手に利用するには、植物がどのようにして、またどこでフラノクマリン類を生産しているのかを詳細に理解する必要があります。
フラノクマリン類の生合成経路においては、特にプレニル化酵素が重要な役割を担っていることが分かっています。この酵素は、クマリンをスタートとして生合成経路の初発段階を担い、最終のフラノクマリンがリニア型になるのか、またアンギュラー型になるのかを決定します(図3Ca)。またこの経路の下流にもプレニル化酵素が存在し、こちらの酵素はフラノクマリン類の生理活性をさらに高めてくれます(図3Cb)。そこで我々は、フラノクマリン生合成のカギを握るこれらのプレニル化酵素の遺伝子を探索し、これまでに初発反応を担うプレニル化酵素遺伝子の実態を世界に先駆けて明らかにしました(Karamat F., et al., 2014, Plant J; Munakata R., et al., 2016, New Phytol)。現在は、残るフラノクマリン類の生理活性を向上させるプレニル化酵素の発見に向けて日々研究を進めています。

1-3 その他の研究テーマ

PTに関しては上記以外にも様々な作物・薬用植物を用いて研究に取り組んでいます。詳しくは(こちら)をご参照ください。