RISH header

2008(平成20)年度萌芽ミッションプロジェクト 12

研究課題

GNU Radio ディジタル・ビーコン受信機と GPS-TEC を用いた中規模電離圏擾乱のトモグラフィ観測

研究組織

代表

衛 (生存圏研究所)

共同研究者

研究概要

わが国には、建設省国土地理院が全国千地点以上に展開するGPS受信機網 GEONET がある。我々はこれを用いて日本上空の全電子数(Total Electron Content; TEC)の水平分布を 30 秒毎に算出するシステムを開発してきた。図 1 に日本上空の TEC 値の分布例を示す。斜めの縞々構造は、夏季の夜間に特徴的に現れる中規模電離圏擾乱(Middle-Scale Traveling Ionospheric Disturbance; MSTID)による GPS-TEC 値の変動であり、南西方向への波の伝搬がよく観測される。一方、最近のディジタル信号処理技術の高度化に伴い、低軌道衛星―地上間の TEC を測定する衛星ビーコン観測用のディジタル受信機を開発してきた。

本研究は、世界最大の地上 GPS 受信機網と新規の衛星ビーコン多地点観測を組合せ、TEC データに基づいたトモグラフィ解析によって、MSTID の空間構造を明らかにすることを目的とする。GPS-TEC 利用の 3 次元トモグラフィ解析が開始されているが、空間分解能には限界がある。本研究は、衛星ビーコン観測からの TEC データを付加することで、その空間分解能を向上しようとする点に特色がある。また我々が開発したディジタル・ビーコン受信機(既製品に比べて価格が 1/10 かつ高性能)を初めて具体的な研究に利用するものである。本研究による MSTID 空間構造の解明は、新しい観測装置が世界の研究者に利用され始める契機となり、更には新しい電離圏モニタリングシステム構築の萌芽となりうる。

観測計画

本研究では衛星ビーコン受信機を下記の 3 地点に設置する。

図 2 に示すように、3 地点は、全体で 300 km の規模を持つ南北 1 直線状の配置となる。一方、GEONET 利用の GPS-TEC 観測は常時実施されている。国土地理院に集積されたデータを京都大学理学研究科の計算機サーバーに転送し、TEC 値の算出を行ってデータベース化し公開するシステムは数年前から稼働中であるため、今回の観測では特段の措置は必要なく充分なデータが得られる。衛星ビーコン観測データの集積をまって、MSTID の空間構造の解明を目指したトモグラフィ解析を実施し、電離圏電子密度の空間構造について研究を進める。

本研究では、7 月 10 日までに 3 地点への受信機設置を終え、同時観測を開始した。ただし福井の観測場所のみ、現在は暫定的に別の場所(中部特機産業(株)福井支店)を利用させていただいている状況である。

ep200812a.jpg

図 1: 国土地理院の GPS 受信機網 GEONET を元にした GPS-TEC 値の水平分布の例。変動成分のみを表示している。北西–南北の波面をもつ中規模電離圏擾乱(MSTID)が現れている。

ep200812b.jpg

図 2: 衛星ビーコン受信機の設置候補の分布図。各点の間隔は約 150 km である。衛星パスが南北に近いため、良好なトモグラフィ観測が期待される。