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2008(平成20)年度萌芽ミッションプロジェクト 4

研究課題

活動的火口湖からの湖面蒸発量測定の新手法開発 —ライダー技術の「安全・安心」への応用—

研究組織

代表

鍵山恒臣 (理学研究科)

共同研究者

研究概要

最近の噴火予知研究の進歩にも関わらず、人間社会にとって最重要課題である「噴火するのか、しないのか、噴火するならばどのような噴火になるか、という、火山活動の重要な分岐点についての理解は進んでいない。その理由のひとつは、地下でマグマから分離した火山ガス、特にその 90 % 以上を占める水蒸気量を精度よく測定できていない点にある(鍵山、2006)。地下でマグマから水蒸気が分離する過程は、直接観測が不可能な地下のマグマの状態を知るための、火山学上の最先端の研究課題である。既存の手法に囚われず、新しい技術をいち早く取り入れる必要がある。

活発な火山活動で世界的に知られる阿蘇火山では、火口にお湯が溜まっており(写真)、湖底で噴出した火山ガスの大半は湖水にトラップされている。70 ℃前後にも達する高い水温は、湖から膨大な量の水が蒸発していることを暗示する。湖面蒸発量は、湖底での火山ガス噴出に支配されるので(Terada et al., in press)、阿蘇火山では湖面蒸発量を測定することが重要である。しかし、険しい地形、高濃度の亜硫酸ガスが充満する火口において、これまで蒸発量計測は不可能と思われてきた。

本研究では、生存研で培われてきた最先端のライダーの技術(Nakamura et al., submitted)を、火山に適用する。同時に湖水温度の直接観測を行なうことで、湖面蒸発量を安全な場所から正確に見積もる新手法を開発する。具体的には、以下の各項目を実施する。

(1) ラマンライダーによる蒸発量観測

ライダーを火口縁に設置して、複数の方向について水蒸気濃度分布を測定する(写真)。これに、噴煙の上昇速度を乗じることで、湖面全体からの蒸発量の測定が可能である。本観測は、異なる気象条件下で複数回実施する。

(2) 無線温度計の設置

無線温度計を特殊な発泡スチロール箱に収め、湖面に複数台浮かべることで水温を面的に直接測定する。ここで、pH が 1 を下回る強酸性湖水への対策として、軽量で分厚い発泡スチロール板で作成した箱を、ウレタンなどの樹脂で被覆する。さらに厳しい環境におかれるアンカー部は、あらゆる酸に不活性なテフロン樹脂を用いる。

(3) 経験的関係の見積もり

湖面蒸発量は、次元解析および経験的関係から得られたモデルから計算できる。ただし、モデルには経験的定数を与える必要があり、それは一般の湖沼における値が知られているのみである。本研究では、ライダーと水温を同時観測することで、経験的定数の不確定を評価し、水温の高い火口湖における経験的定数を求めることを目指す。

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