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2006(平成18)年度萌芽ミッションプロジェクト 1

研究課題

ベクトル磁場勾配簡易測定装置の開発と生存圏変動研究への応用

研究組織

代表

家森俊彦 (理学研究科)

共同研究者

研究概要

地球の磁場は常に変動しており、数百年の考古学的な時間スケールでは数度から場所によっては数十度地磁気の方向、すなわち偏角が変動する。このことは、ある遺跡が作られた当時の偏角の情報がそこから求めることができれば、逆にその年代を推定できる可能性を示す。タイ国内に多数存在するクメール時代の寺院遺跡の方位もコンパスが用いられたことを示唆する。しかし、これはあくまでも憶測であり、証拠づける文献などは今のところ見つかっていない。しかし、それを証拠づけるためには、文献がおそらく残されていない以上、何らかの科学的手段を用いる必要がある。その一つとして、窯跡の残留磁化測定がある。

タイ北部に位置するシ・サッチャナライは、12~13 世紀頃のクメール時代、中国から伝わった焼き物(青磁)の一大産地として栄えた窯跡が 200 ヶ所以上存在する。これらの窯で焼き物を作る際に、窯の内部の温度が 1000 度以上になり、それが冷えるときに地球の磁場により窯の内壁は磁化すると考えられ、その磁化の方向を調べれば、当時の地球磁場の方向を推定できると考えられる。しかし、窯の内壁に残された残留磁気を測定するためには、窯の内壁をはがし、サンプルを実験室に持ち帰って調べる必要があり、貴重な文化遺産に傷を付けることになる。そこで、古代窯跡等の残留磁化を、その場で簡易に測定する装置の製作と現地での予備調査および測定を行った。

調査は、窯跡の寸法と形状の測定、プロトン磁力計による磁場絶対値分布の測定、フラックスゲート磁力計による壁面からの距離と絶対値の関係、試作装置によるベクトルの測定からなる。測定の結果、壁面付近では数 10~数 100 ナノテスラ (nT) の磁気異常が存在し、磁場ベクトル分布を測定するのに十分な大きさであることがわかった。ただし今回現地に持ち込んで使用した装置のセンサー支持部分は使用中、可動部などの構造に問題のあることが判明し、十分な測定ができなかったので、今後改良版を製作し、再度測定する予定である。