Research Institute for Sustainable Humanosphere

第192回定例オープンセミナー資料

開催日時 2015/01/28(水)
題目 スギ材が人の心理及び生理面に及ぼす作用
Effects of Japanese cedar on Psychological and Physiological Responses
関連ミッション ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

発表者

高橋良香 (京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)

要旨

はじめに

スギ材にスリット加工を施し、表面に木口面を露出させたスギスリット材に、空気浄化と調湿作用があることが報告されている。そして、今日では、実大空間を使い、心理、生理への影響が調べられている1)。本報告では、スギスリット材を実大空間に適用する方法として、壁面ではなく、個室ブースに適用した場合について検討した。また、スギ材がヒトの心理、生理に影響を及ぼす時、各種感覚で受け取った刺激がどのような影響を与え、どのように統合されるかを検討した。

実験方法

実験は、実験ブース内を被験者が観察した時の心理量及び生理量を計測することで行った。実験ブースは、灰色のアクリルマット板(コントロール)、スギスリット材、スギ材の 3 種類だった。アクリルマット板とスギ材の実験ブースは、正面と左右、机上面の4面が同じ材料でできており、スギスリット材の実験ブースは、正面と左右がスギスリット材で、机上面はスギ材だった。実験条件は、「視覚のみでスギスリット材を観察」、「視覚のみでスギ材を観察」、「触覚のみでスギ材を観察」、「視覚と触覚のみでスギ材を観察」の計 4 条件だった。被験者は実験中、活性炭入りマスクを装着し、嗅覚情報を遮断した。また、「触覚のみでスギ材を観察」の時には、実験ブースに移動後、アイマスクを装着し、視覚情報を遮断した。「触覚のみでスギ材を観察」、「視覚と触覚のみでスギ材を観察」では、実験ブース内を自由に触らせた。ほとんどの被験者が、利き手でブース内を撫でるように触っていた。

被験者は、健康な男子大学生・大学院生 10 名(19–24 歳)だった。一回の実験時間は約 60 分だった。実験室の室温は 20 ℃、湿度は 50 % に設定した。被験者は、実験室に入室後、各種生理量を計測するため各種センサを装着した。その後、灰色のアクリルマット板(コントロール)の実験ブース内で、5 分間の安静をとり、スギスリット材もしくはスギ材の実験ブースに移動し、3 分間観察し、これを 4 回繰り返した。4 条件の順番は、被験者間でカウンターバランスをとった。

計測指標

心理指標では、SD 法を用いて、印象を答えさせた。形容詞対は、視覚と触覚によって材料の評価を行った既往研究2–6) を参考に、以下の6種類(冷たい-温かい、落ち着きのない-落ち着きのある、人工的な-自然な、暗い-明るい、下品な-上品な、かたい-やわらかい)を選定し、7 段階(−3~+3)の評定した。

生理指標は、心電図、血圧、脳波を連続的に計測した。心電図は、胸部にセンサ付ベルトを装着して、心拍変動性 HRV を計測し、交感神経系指標と副交感神経系指標の値を得た。血圧は、非利き手の中指にカフを装着し、収縮期血圧、平均動脈圧、拡張期血圧を計測した。脳波は、前額部に脳波センサを装着し、α 波と β 波のパワー値を算出して、α 波帯域率 α/(α+β) を算出した。

スギスリット材とスギ材の比較

スリット加工の有無を比較した結果、心理指標のうち「落ち着きのない-落ち着きのある」で、有意差があり(図 1)、生理指標ではいずれも有意差がなかった。また、「人工的な-自然な」「暗い-明るい」「かたい-やわらかい」においては有意傾向があった。

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図 1. 落ち着きの評価結果

以上より、スリット加工の有無は、生理量に影響を及ぼさなかったとはいえ、「落ち着きのない-落ち着きのある」の結果から、スギスリット材を用いることで、スギ材と比べて、より活動的な心理作用を作り出すことができると考えられる。

各種感覚間の相互作用

各種感覚間の効果を比較した結果、心理指標では「暗い-明るい」で有意傾向があり、生理指標では、心電図から得た心拍変動性 HRV で有意差がなく、血圧では、収縮期血圧で条件に有意傾向があり、脳波では、条件間に有意差が合った。

ただ、心理指標の「暗い-明るい」と、脳波で条件間に有意差が合ったのは、触覚条件のときに実験ブースに移動後、アイマスクをしたことによる変化が原因と考えられるため、この結果から各種感覚間の反応について言及することはできない。そのため、言及できる結果が出たのは、収縮期血圧のみと考えられる。多重比較検定をした結果、触覚条件が視覚+触覚条件よりも収縮期血圧が高くなる傾向があった(図 2)。触覚条件と視覚+触覚条件はいずれも実験ブース内を触るという動作があるため、この収縮期血圧の変化は体動によるものとは考えづらい。視覚情報を遮断して、触覚情報のみを与えると、活動的にさせる作用があるのかもしれない。また、視覚+触覚の時、触覚のみのときにあった収縮期血圧の上昇作用がほとんど見られなくなったことから、視覚情報と触覚情報が統合される時、視覚情報による影響が大きく、触覚情報による影響はかなり弱くなるのかもしれない。

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図 2. 収縮期血圧の評価結果

参考文献

1) 川井秀一ら、生存圏研究、8、55–68、2012.
2) 吉田正昭ら、中央大学理工学部紀要、23、327–350、1980.
3) 吉田正昭ら、心理学評論、25、48–71、1982.
4) 吉田正昭ら、中央大学理工学部紀要、25、283–311、1982.
5) 吉田正昭ら、中央大学理工学部紀要、26、163–187、1983.
6) 吉田正昭、木材工業、48・11、524–531、1993.

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