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第188回定例オープンセミナー資料

更新日: 2015/05/28

開催日時 2014/11/19(水曜日)
題目 木質感に関与する画像的特徴の探索 —精密測色による材色変化の評価—
Exploration of image characteristics related to wood-like feel: Assessment of color change in timber surface by minute color measurement
関連ミッション ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

発表者

仲村匡司 (京都大学大学院農学研究科・准教授)

要旨

はじめに

木質建材の開発や住宅内装の仕上げの担当者は,「木質感」を向上させることによって商品価値を訴求したいと口にする.ここでしばしば取り沙汰されるのが,そもそも「木質感」とは何かという問題である.「木質感」に関する漠然とした概念はどうやら共有されているのだが,「木質感」が木材の何からもたらされるのか,実はほとんど具体的に示されていない.

「木質感」の成因を見た目の「木らしさ」に求めたとき,注目すべきは材面の外観的特徴である.筆者はこれを「あたたかな木材色」「千変万化の木目模様」「まろやかな光沢」に大別し,それぞれを画像処理・解析法によって定量的に抽出することに取り組んでいる.本セミナーでは,乾燥および透明塗装によって,材色や木目の見え方がどのように変わったかについて,イメージング分光法による精密測色に基づいて定量的に評価した事例を紹介する.

点にも面にも対応した測色

リンゴを見たとき,「赤い」という概念は他者と共有できるが,明るさや濃さなどの赤色の詳細は観察者の主観に大きく依存する.これでは何かと都合が悪いので,測色計で実測して,赤色に限らず様々な色が客観的な数値で表されている.一般的な測色は直径数 mm~数 cm の測定孔を介したスポット測定である.木目模様や色むらなどが現れている木材の表面の色を測るとき,スポット測定では測定孔よりも細かいパターンやグラデーションの情報が得られず,また,材面全体の平均的な色彩値や材色分布の特徴を把握することも難しい.

ここで面的な測色を行えれば,これらの問題はいっきに解決する.そこで筆者が用いたのがイメージング分光装置である.この装置はいわゆるハイパースペクトラルイメージングを可視光域で行うもので,レンズを通過してきた光をプリズムで「赤燈黄緑青藍紫」に分光して CCD センサ上に展開し,色彩値を算出する.1 画素ごとに色彩値の付いた画像データが得られるので,点にも面にも対応した測色が可能となる.

乾燥条件によるスギの材色変化の違い1,2)

人工乾燥された木材は天然乾燥材よりも色が悪いとしばしば指摘される.しかし,どのように悪いのかを具体的に示した例はほとんど無い.そこで,スギ正角材を天然乾燥,中温乾燥,減圧乾燥,高周波乾燥,高温乾燥に供し,それらの材色を辺心材および早晩材を区別して精密に測色した.図 1 は結果の例で,上から下に乾燥条件が厳しくなるにつれて,①辺材部が選択的に暗化すること(心材部の明度は不変),②彩度が増加し材色が濃色化すること,③色相範囲が狭まって色のバリエーションが少なくなること,が示されている.これらの変化が材色のくすみや木理のコントラストの低下となり,人工乾燥材の色の悪さにつながるものと考えられる.

透明塗装による材色分布の変化3,4)

木材に透明塗装を施すと,いわゆる濡れ色になって材面が暗くなるが,一方で木目模様がくっきりと見えるようになる.この一見相反する変化を検証するために,木目模様がほぼ同一でアミノアルキド樹脂による透明塗装の有無だけが異なる化粧合板を調整し,イメージング分光装置による精密測色に供した.図 2 は 2 樹種の色彩値のヒストグラムの例で,透明塗装によって,①L* 値の分布は暗い側(左方)にシフトすること(濡れ色暗化),②C* 値の分布は鮮やかな側(右方)にシフトすること(材色の濃化),③L* 値および C* 値の分布は塗装によってピークが低くなり,裾野が左右に広がること(コントラストの拡大),④L* 値や C* 値の分布は塗装によって非対称に裾野が延びること(材色の選択的変化),がわかる.ヒストグラムの形は,色彩値の標準偏差や歪度などの統計量で評価できるので,供試した 6 樹種について塗装前後を比べたところ,明度のヒストグラムは広がり(標準偏差大),彩度のヒストグラムは低彩度側に裾野が延び(負の歪度),塗装により材面のコントラストが強調される傾向にあることを確認できた.

文献

1) 上田,仲村他 (2013) 木材学会誌 59: 339–345
2) 仲村,上田 (2013) 木材学会誌 59: 346–352
3) 田代,仲村 (2013) 材料 62: 248–253
4) 仲村 (2013) 検査技術 18 (12): 5–9

 

S0188_Nakamura1

 

 

 

 

 

 

 

図 1 乾燥条件による色彩値の遷移 (バーの中心線が平均値を,長さが標準偏差を表す)

 

S0188_Nakamura2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図 2 色彩値のヒストグラム

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