CPEAニュースレターNo.4    2003年12月  
newsletter no.4 December 2003


( 総 括 班 )


赤道大気上下結合
―――これまでの成果と今後の課題―――


深尾 昌一郎(京都大学宙空電波科学研究センター)

1.   はじめに

本特定領域研究『赤道大気上下結合 (Coupling Processes in the Equatorial Atmosphere: CPEA) は平成13年度から18年度迄の6ヵ年計画として平成139月に始動した.この平成15年度末でちょうど折り返し点に差し掛かることになる.当初計画どおり本領域研究の殆どの班は「機器開発フェーズ」を経て「個別研究フェーズ」に在る.この成果を踏まえて平成163月から5月に掛けて第一次国際観測キャンペーンを実施,「総合研究フェーズ」へと移行して行く予定になっている.いわば胸突き八丁を行くこの時期に当たって,これまでの成果と今後の課題について指摘しておきたい.


2.領域研究の目的と意義

本特定領域研究の目的と意義については繰返し強調しておかねばならない[深尾,2002].図1に示すように,赤道域では地球上で最も活発な積雲対流活動により各種の大気擾乱(大気振動や波動)が励起され,これにより赤道大気は地表付近から高度数百kmに至る全ての高度域で上下に強く結び付いているとされる.本領域研究は赤道上でも『赤道大気上下結合』が特に顕著に発現する海洋大陸・赤道インドネシア域でその過程の解明を目指すものである.


             図1:赤道大気上下結合概念図

赤道大気上下結合はエルニーニョ南方振動(ENSO)に代表される地球の気候・環境変動にも直接関わる過程でありながら,多くの重要な課題が観測上の制約から未解明のまま残されている.京都大学宙空電波科学研究センターは平成133月に大型の「赤道大気レーダー(Equatorial Atmosphere Radar: EAR)」をインドネシア共和国スマトラ島の赤道直下に完成させ同年7月より本格的な観測を開始した[Fukao et al., 2003].これを踏まえて本領域研究では,(1)EARを中核に各種の電波観測,光学観測,気象ゾンデ観測など従来各研究グループにより個別に展開されてきた赤道域観測拠点の整備を進め,(2)これらを広く有機的・組織的に運用することにより従来の観測的制約を克服し,(3)未解明の赤道大気の振動・波動など擾乱の実態と生成機構を明らかにすることを目的とする.

本特定領域研究は地球規模大気変動の根源域と想定される赤道域大気圏を,下層大気から超高層(熱圏・電離圏)大気まで縦に貫く上下結合という新しい視点で捉えようとするものである.その意味で本領域研究が,総合観測が少しばかり成功した,或いは幾ばくかの新データが得られた,ことだけで終わってはならない.我々にはもっと高いところ,すなわち「今後のグローバルな見地からの研究展開や新たな問題提起・新概念の提出」(科学研究費補助金審査部会理工系委員会による経過ヒアリング)が期待されている [深尾,2002]


3.領域研究の概要

本領域研究では,インドネシアのEARサイトとその周辺に各種の観測装置を整備し,総合的な観測キャンペーンを実施することにより赤道大気上下結合過程を観測的に解明することを目指している.研究組織は図2に示すA0106からなる6班構成となっており,各班がそれぞれ熟達した観測装置でそれぞれの大気圏観測を担当する.各班が万全の体制で観測に臨むのは勿論である.その上で,各班の連携を十二分に図ることが求められる.決して個別観測の成功でよしとされるものではないことに心すべきである.赤道域上下結合過程の究明を目指す本領域の6班の研究は本質的に互いに深く関わり合うべきものであり,各研究項目を如何に有機的に組織化できるかが本領域研究の最終的な成果を決定すると言って過言でない.従って総括班は各班の研究の進捗状況を把握し,それぞれの研究項目解明の方向性と妥当性を検討・評価し,バランスの取れた研究計画推進の舵取りを行うことに努めている.

図2:A01A06班の連携

4.領域研究のこれまでの成果

これまで各班の研究は当初計画に従い順調に進捗していると言ってよい.その一部を以下に紹介する.

(1) まずA01班は平成137月よりインドネシア・航空宇宙庁(LAPAN)と共同でEARの準定常観測を実施,既に2年半にわたってほぼ連続に,対流圏,成層圏並びに電離圏データを取得しつつある.特に,対流圏・成層圏大気交換過程(STE)に重要な役割を果たすと目される赤道ケルビン波の圏界面近傍での砕波過程をEARで直接捉えたことは特筆される [Fujiwara et al., 2003]

(2)  A03班はEARサイトにX帯気象レーダーを設置し,本格的な観測を始めている.これに加えて,新たにドップラー機能を備えたX帯レーダーの国内からの移設を目指して,その設置場所を調査・確定し,近々に現地へ搬入する準備を整えた.

(3)  同班はまた既に設置を済ませたEAR-RASS装置,水蒸気ラジオメータはじめ各種小型観測装置で引き続き観測を継続している.この他衛星観測データも取り入れて大規模スケールの現象との関連を調べる研究も進めている.

(4)  一方A04班は気象ゾンデ放球など既設設備による個別研究を引き続き推進し,大気重力波の生成過程に関する新知見を明らかにしつつある.

(5) さらに同班は昨年度,或いは今年度前半までに現地整備が完了した流星レーダーとMFレーダーを用いて本格的な観測を開始した.これにより中間圏・下部熱圏観測用レーダーの一辺数百kmの三角形配置が実現することになり,赤道大気上下結合の重要な担い手である大気重力波の運動量束の精緻な観測が初めて可能になると期待されている.

(6) またA06班は昨年度現地に設置された大気光イメージャとGPS受信機を用いた本格的な観測を始めた.特にA01班と協同で大気光イメージャとEARの同時観測を実施し,プラズマバブルの構造に関する新しい知見を得て注目されている.

(7) A02とA05班はそれぞれ整備予定のEAR受信システムと大型ライダーの開発を当初計画に沿って進める一方,数度にわたって現地調査を実施した.特に大型ライダーの開発は当初予定を上回るペースで進んでおり,その装置の一部は平成163月までに現地へ搬入される見込みとなっている.

これら各班の研究は互いに隣接する他班や国内関連研究者と密接に協議しながら進められている.またこれらの学術成果は国際誌に36編の論文として既に掲載或いは受理されている.さらに平成157月に札幌で開催された国際測地学・地球物理学連合総会 (IUGG)など国際学会及び国際ワークショップに計105編の関連論文が発表された.それらの詳細は本冊子の他稿を参照されたい.また総括班としては,引き続き本領域研究全体の最新の進捗状況を以下のホームページ上で逐次公開している:

http://www.kurasc.kyoto-u.ac.jp/cpea/

5.国際協力

階層構造をなす赤道域大気現象解明のため,A03及びA04班を中心に,EARを主拠点とした,100km1,000kmスケールの大気擾乱を把握できる観測ネットワークが構築された.これにはマレーシアやシンガポール気象局の協力を得る必要があるが既にその確約も取られた.さらにより大規模な数千キロに及ぶ総観規模現象の観測のために,以下の諸機関との国際協力が進められている(図3参照).

           協同機関                     対応する本領域研究班

(1)    インドNational MST radar Facility・・・・・・・・・・A01, A03, A04, A05, A06

(2)    インドVikram Sarabhai Space Center・・・・・・・・・A01, A03, A04

(3)    ペルー地球物理学研究所・・・・・・・・・・・・・・・ A01, A04, A06

(4)    ブラジルINPE・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ A04, A05, A06

(5)    オーストラリアアデレード大学・・・・・・・・・・・・ A01, A04

(6)    米国Stanford Research Institute International・・・・ A06

(7)    台湾National Central University・・・・・・・・・・ A01, A03, A06


一方,国際太陽地球系物理学・科学委員会(SCOSTEP)2004年より次期国際協同研究プログラム『CAWSES(太陽地球系の気候と天気)』を立ち上げる.そこでは、太陽地球系で生起する様々な現象の変動タイムスケールを指標として、比較的短い時間変動(Space Weather)と長い時間変動(Space Climate)の研究を行ない、太陽地球系全体の物理の理解を深化させることを目指している。昨夏,本領域研究はこのプログラムの一環として正式に認められ,より広い国際協力体制のもとでの研究推進が可能となった.これを受けて国際的な連携を一層深めて本領域研究をより意義のある形で展開したいと考えている.



  

図3:積雲対流組織化解明のための観測ネットワークと赤道ネットワーク



今般の赤道域観測キャンペーンはこれまで国際的にも余り類を見ない大規模なものである.これを本領域研究者一同あらゆる努力を傾注して何としても成功させねばならない.なお平成15年11月,第一次観測キャンペーンを広く周知するため本稿末尾に添付の英文パンフレット(カラー)を作成して関係者に配布した.

6.今後の領域研究の推進方策

繰り返し指摘するが,赤道大気上下結合の究明を目指す本領域研究の各班の研究は本質的に互いに深く関わり合うべきものであり,領域全体が一体となって研究を推進しなければならない.各研究を有機的に組織化し融合してはじめて当初計画どおりの成果が得られるものと言って過言でない.従って各班は一層他班と頻繁な協議を進め,共同研究を本当に実のあるものにする努力を尽くすことが肝要である.

いよいよ平成16年3〜4月に実施される第一次国際観測キャンペーンが間近となった.当然,班員がその準備や観測実施のため現地へ渡航する頻度は急増する.このためインドネシアの対応機関とは常に密接な連携を取り合い些かの危険もないよう慎重な取り組みを行わねばならない.

さらにそろそろ本領域研究で得られる成果や知見の社会への還元と教育への貢献の方法についても重要なこととして考えはじめねばならないだろう。なお,本領域研究の第3回公開シンポジウムは平成16年末に開催される予定である.


参考文献

深尾昌一郎,平成14年度科学研究費補助金特定領域研究に係る経過報告書 「赤道大気上下結合」,38pp,平成14年9月.

深尾昌一郎,赤道大気上下結合?現状と課題--,赤道大気上下結合平成14年度公開ワークショップ,1-4,2002.

Fukao, S., H. Hashiguchi, M. Yamamoto, T. Tsuda, T. Nakamura, M. K. Yamamoto, T. Sato, M. Hagio, and Y. Yabugaki (2003), The Equatorial Atmosphere Radar (EAR): System description and first results, Radio Sci., 38(3), 1053, doi:10.1029/ 2002RS002767.

Fujiwara, M., M. K. Yamamoto, H. Hashiguchi, T. Horinouchi, and S. Fukao (2003), Turbulence at the Tropopause due to Breaking Kelvin Waves Observed by the Equatorial Atmosphere Radar, Geophys. Res. Lett., 30(4), 1171, doi:10.1029/2002GL016278.



( A 01 班 )

赤道大気レーダー長期連続観測のこれまでとキャンペーン観測について

山本
(京都大学宙空電波研究センター)

1.    はじめに

計画研究項目A01の研究目的は、本研究領域の中心をなす赤道大気レーダー(Equatorial Atmosphere Radar; EAR)の長期連続観測を実施し、数メートル×数秒と微細な空間・時間スケールを持つ大気乱流から、地球規模の空間スケールと数年間の時間スケールを持つ赤道大気振動までの諸現象の因果関係と成因を明らかにすることである。そのため、全ての計画研究項目との協同観測を通じて、EARのみでは得られない大気パラメータの振舞いを含む、赤道大気力学構造の総合的な理解を深めて行くことを目指している。当初より下記の4つの課題を掲げて活動を続けてきた。


課題1. EARによる赤道大気の長期連続観測
課題2. EARの多機能性を活かした赤道大気の短周期波動と乱流の研究
課題3.他の計画研究項目との連携によるEAR観測の実施
課題4.太平洋レーダーネットワークとの協同による赤道大気変動の解明


本稿では、それぞれの課題に対する現在までの実施状況を報告すると共に、20043月〜5月に予定されているキャンペーン観測の準備状況について述べる。



2.     EAR長期連続観測

EARの観測状況を図1に示す。基本の観測モードは高度20km程度までの対流圏・下部成層圏の5ビーム観測であり、20016月から現在まで連続的に実施してきた。途中、200112月から20022月まで休止期間があるが、これは落雷からの故障によるものである。2002年度には追加の避雷措置を講じ、信号処理ボードなど重要部品の予備品を備えるようにした結果、その後は落雷による重大な故障は発生していない。これまでのところ、図1に示す期間に地球観測フロンティアが実施するラジオゾンデ観測との協同観測、計画研究項目A06との協同となる電離圏イレギュラリティ(FAI)観測を実施するなど、長期連続観測は順調に推移してきた。EAR観測データについては一次解析で得られる風速、スペクトル幅、エコー強度等の10分値を、ホームページhttp://www.kurasc.kyoto-u.ac.jp/ear/data/において公開している。現在までに取得されたデータ量は、450ギガバイトに達している。


また他の研究項目他との研究協力についても、表1に示すように経緯は順調である。上述のEARによる地球観測フロンティアとの協同観測(20018月から計7)A06との協同FAI観測(20018月から計7(キャンペーン観測を含む))を実施したほか、A03及びA04との協同となるEAR-RASS観測を20023月以降3回実施している。観測機器の開発に関しても、A02によるEAR外付けディジタル受信機やA06によるFAI観測用VHFレーダーの設計・開発に協力してきた。EARサイトにおける機器設置に関しても、A05によるライダー、通信総合研究所によるFM-CWレーダー等について協力している。


1赤道大気レーダー観測期間



表1他の計画研究項目等との協力状況

計画研究項目(組織)

研究内容

A02

ディジタル受信機開発に協力

A03及び A04

EAR-RASS観測 (20023月、20028月、200211)

A05

ライダー設置に協力

A06

FAI観測 (現在まで6回実施: 20018月、10-11月、20023-4月、10月、2003 3-4月、9)

VHFレーダー開発に協力

地球観測フロンティア

ラジオゾンデ観測(現在まで7回実施: 20018月、11月、

20023-4月、7-8月、11月、20037-8月、11)

通信総合研究所

アイオノゾンデ・テスト観測に協力 (20038)




















3.     
観測成果と今後の課題



EAR観測データから、赤道大気波動の砕波に伴う対流圏界面の変動を初めて明確に示し、赤道対流圏界面付近の大気不安定層を発見した[Fujiwara et al., 2003; Yamamoto, M.K. et al., 2003]。また低緯度電離圏イレギュラリティの時間・空間構造をEAR多ビーム観測から明らかにするなどの成果を挙げている[Fukao et al., 2003b, 2004]EARのシステム及び初期結果観測結果についても論文発表した[Fukao et al., 2003a]。また最近では周波数ドメイン干渉計(Frequency Domain Interferometry; FDI)観測も実施されている。図2に示すように、距離分解能75mで実施された通常の観測によるエコー強度の時間高度分布に沿って、FDI観測から薄い反射層の分布が求められている。上述の課題2にかかわる研究成果につながるものと期待している。


2004310日から510日の予定で、第1次国際協同キャンペーンが計画され、その実施に向けて準備が進められてきた。本研究項目においては、まず、EARサイトの隣にあるGAWステーションで1998年から観測を行ってきた境界層レーダーについて、20041月までに新型のレーダーにリプレースした。EAR本体についても、メーカーによるEAR本体の保守作業を1月に実施し、3月上旬にはキャンペーン直前のチェックと観測モードの変更・キャンペーン観測開始の確認を行っている。



2高度分解能75mによるエコ−強度の時間高度分布(コンター図)FDI観測から求められた反射層の分布(点線)




キャンペーン観測は3月中には中間圏から電離圏までの領域を対象として、レーダーや光学観測装置による観測を中心に実施している。4月上旬からは、計8ヶ所からのラジオゾンデ観測を含む対流圏から中間圏に重点を置いた後半部分が開始される。


本研究項目ではEARの長期連続観測を中心に研究を進めてきたが、現在までは比較的順調に推移してきたと考えている。課題の13の部分については計画からの大きな乖離はない。課題4については、第一次国際化観測キャンペーンが20042008年にSCOSTEPが実施中の国際計画CAWSES (Climate And Weather of the Sun-Earth System (太陽地球系の気候と天気))の観測キャンペーンの一環として位置付けられていることと、実際にインド、ペルー、ブラジル、オーストラリア、台湾、米国から参加を得ていることなどから、今後は進捗があると考える。EAR観測については、しかしながら、2003年度においても落雷による観測停止があった他、野ネズミによってアンテナケーブルが食害を受けるなどの問題がある。またA02班やA05班では更に増設される新しい観測装置もまだある。今後ともLAPANと協力してEAR観測・運用と研究の両面を着実に行っていきたい。



参考文献

Fujiwara, M., M. K. Yamamoto, H. Hashiguchi, T. Horinouchi, and S. Fukao, Turbulence at the Tropopause due to Breaking Kelvin Waves Observed by the Equatorial Atmosphere Radar, Geophys. Res. Lett., 30(4), 1171, doi:10.1029/2002GL016278, 2003.

Fukao, S., H. Hashiguchi, M. Yamamoto, T. Tsuda, T. Nakamura, M.K. Yamamoto, T. Sato, M. Hagio, and Y. Yabugaki, The Equatorial Atmosphere Radar (EAR): System Description and Frist Results, Radio Sci., 38(4), 1053, doi:10.1029/2002RS002767, 2003a.

Fukao, S., Y. Ozawa, M. Yamamoto, and R. T. Tsunoda, Altitude-Extended Equatorial Spread F Observed near Sunrise Terminator over Indonesia. Geophys. Res. Lett., 30(22), 2137, doi:10.1029/2003GL018383, 2003b.

Fukao, S., Y. Ozawa, T. Yokoyama, M. Yamamoto, and R. T. Tsunoda, First Observations of Spatial Structure of 3-m-Scale Field-Aligned Irregularities with the Equatorial Atmosphere Radar in Indonesia. J. Geophys. Res., 109, A02304, doi:10.1029/2003JA010096, 2004.

Yamamoto, M. K., M. Fujiwara, T. Horinouchi, H. Hashiguchi, and S. Fukao, Kelvin-Helmholtz Instability around the Tropical Tropopause Observed with the Equatorial Atmosphere Radar, Geophys. Res. Lett., 30(9), 1476, doi:10.1029/2002GL016685, 2003.



( A 02 班 )

A02班:ディジタル受信機アレイによる赤道大気レーダーの機能拡張

京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻

佐藤 亨, 西村 耕司, 福尾 憲司

1. 背景と今年度の研究目的


A02班では赤道大気レーダー(EAR)の機能向上を主な目的としている。このため、EARにディジタル受信機アレイを付加することで、EAR本体には変更を加えずにマルチスタティック構成による3次元風速場の推定を可能とすることを計画している。これによりEARのビーム走査領域内の風速3次元構造が明らかになると期待される。また、同じシステムはアダプティブなグラウンドクラッタ除去にも利用可能であることが昨年度の研究により明らかになっている[1]。

ディジタル受信アレイの特徴は、RF(47MHz)を直接AD変換することにより回路構成を大幅に簡単化、かつ高精度化することが可能であること、アンテナ素子毎に独立な処理を行うことで受信後のビーム合成、アダプティブ信号処理が自由に行えること、LANによるデータ合成を行うため、物理的配置の自由度が高いこと、パラメータ選択が自由であるため、広い適用範囲を有することなどである。

今年度は、平成16年度に本格システムを構築するための準備として、ディジタル受信機ボードを用いて実際にデータ処理を行うシステムを構築し、現地での試験によりその特性を確認することである。



2. 実験システムの構築


図1に平成15年11月に信楽のMUレーダー周辺で、続いて12月にEAR観測所周辺で試験を行った際のシステム構成を示す。このシステムでは、本システムで利用するのと同一の八木アンテナと受信プリアンプ、フィルターを介してMUレーダーおよび赤道レーダーの信号をそれぞれのレーダーより数百mないし千数百mの場所で受信し、ECHOTEK社のDSPボードで処理してPCに転送し、ハードディスクに格納する構成をとる。これらの実験データの初期解析により、地表にそって伝搬し受信される直接波が受信機を飽和させないレベルに収まること、またこれを用いて受信システムを送信システムに遠隔同期させることが可能であることが確認されている。今後、低高度のいくつかのレンジについて、大気エコーの抽出を試みる予定である。

図2は、平成16年度に構築を予定している本受信システムの構成を示す。 このシステムでは、1台のPCに2枚のDSPボードを実装し、そのそれぞれで
2本の八木アンテナからの受信信号を処理することを想定している。従って、5台の信号処理PCと1台の制御PCにより20本の八木アンテナからなる受信アレイの信号処理を行うことができる。平成16年度には20本のアンテナを10本づつの2組の受信アレイとして試用し、トライスタティック構成での観測も試みる予定である。


図1:平成15年12月に現地テストを行った試験システムの構成




図2:平成16年度に計画している本受信システムの構成




3. 風速推定誤差の評価


EARなど従来のモノスタティックレーダでは風速が水平方向に一様であると仮定して観測しているが、風速の変化の激しい場所では大きな誤差が生じる。
それを解決するために、EARの周りに受信専用アンテナを設置し、風速の3次元同時観測が可能なトライスタティックレーダシステムが提案されている。マルチスタティックシステムにより、これまで風速を一様としていたことに起因する誤差が解消されると期待できる。本節ではこのシステムによる3次元風速推定のシミュレーションを行い、風速推定誤差を評価することを目的とする。

EAR 周辺の調査により、EAR から南 1300m、西に 800m ないし1300m の位置に受信機アレイを設置することを予定している。この構成でシミュレーションを行い、これまでの研究により、水平風に関しては高度 5 km 程度まで誤差 1 m/s 程度の精度で、鉛直風に関しては、ベースライン上空の範囲で 10 km 程度まで誤差 0.5 m/s 程度の精度で観測できることがわかった[2]。また鉛直風の水平方向の変化がある場合についても検討し、0.3 m/s/km 以上のシアがある場合にバイスタティックレーダの方が精度良く水平風を推定できることがわかった[3]。この程度のシアは赤道域で頻繁に存在すると思われる。

今回は更に現実に近いモデルとして、散乱体が層状に存在していた場合のシミュレーションを行う。また現地での運用や気候条件等の理由から受信機アレイを長期間配置しておくことができないので、観測データを用いたアレイ素子間の相対位置の決定法について検討した。



4. 局在散乱層の影響


対流圏での散乱は等方散乱が支配的であり、これまで散乱は全て等方散乱として風速推定誤差を計算してきた。しかし対流圏でも大気が安定である場合には、散乱体が薄い層を成して存在する場合もある。その層の厚さがビームの高度分解能以下であった場合、水平風が一定であったとしても、水平風の観測結果に誤差が生じてしまうということが知られている[4, 5]。図3は薄い散乱層の影響の模式図である。斜めビームの上の方に散乱層がある場合と下の方に散乱層がある場合とでは、違う視線方向成分が観測され、水平風推定に誤差が生じる。




図3:薄い散乱層による誤差の原因




バイスタティックレーダでも同様の問題が起きるかを以下のシミュレーションで検討する。高度分解能 150 m、ビーム半値幅 3.4 度、ベースライン長 1300 m、高度 5 km、ビーム天頂角 10 度、散乱層の厚さ 30 m、水平風速 40 mとして、散乱層の中心の高度を変化させる。その時の水平風速と鉛直風速の推定誤差を図4に示す。比較対象として、EAR だけのモノスタティックシステムで観測した場合も合わせて示す。モノスタティックシステムでは天頂方向のビームから鉛直風を推定し、10 度方向ビームから水平風を推定する。この結果、水平風に関してはモノスタティック構成よりも精度良く、誤差1.0 m/s 程度で推定できることがわかった。また鉛直風に関しては誤差 0.5 m/s程度で推定できた。

散乱体の中心高度をレンジ中心から離していくと推定精度が下がる事もわかるが、この場合隣のレンジで 10 dB 以上強いエコーが受かっているはずなので、エコーパワーを比較することで誤推定と判断でき、問題にならない。以上より高度分解能より薄い散乱層が存在していた場合についても、モノスタティックレーダよりも高精度で風速推定が行える。






図4:薄い散乱層の中心高度と風速推定誤差の関係




5. アレイ素子の自動位置較正アルゴリズム


EAR周辺に設置する受信機アレイは10〜20本の八木アンテナを3m 〜 5m 間隔で配置する予定である。また現在では、観測のたびにアレイを設置、撤去する計画である。しかしビーム方向を正確に揃えて観測するためには、アレイ内の素子間の位置関係を 30cm 程度以内の精度で知る必要がある。

この状況で位置関係を正確に把握するために以下の方法を提案する。まずGPSで受信アレイの概略を把握しておき、ビームを天頂方向と東西南北 4 方向の計 5 方向振りながら、数時間から一日の観測を行う。その観測データからエコーパワーが大きくドップラーシフトのはっきりわかっている部分を比較して、リファレンスアンテナと各素子間の位相差を検出する。その位相差と観測点への方向から、最小二乗法によって位置を決定する。こうすることで、リファレンスアンテナに対する正確な相対位置が求まると期待される。その摸式図を図5に示す。



図5:アンテナ位置のキャリブレーション方法



あるレンジの散乱体のドップラーシフトと、アレイから散乱体を見た時の方向と、2アンテナ間の観測データの位相差が分かっているとして、それらを用いて位置決定できるかを数値計算により確認する。観測値から求めた位相差は、理論値にある分散をもった正規分布に従う誤差を加えたものとして与え、その各位相差からアンテナ位置の3成分を推定する。また位置の初期値はそれぞれ 3m の誤差を与える。その結果を図6に示す。これから素子間の位置を 0.05 波長(約 30cm)以下で推定するには位相差を 0.09 ラジアン以下で検出すればよいとわかる。この精度で検出するのは十分可能であると予想される。




図6:キャリブレーション精度の推定結果




6. まとめ


来年度の受信機アレイの本格設置に向けて、今年度はディジタル受信機を試作し、その特性確認を行った。
また、従来より現実的なシミュレーションにより、期待される風速推定精度の評価を行った。モノスタティックレーダの場合に問題になっていた薄い散乱層の影響は、バイスタティックレーダではそれほど影響が無いことがわかった。さらに、アレイアンテナの位置決定に関しては、観測データを用いて高精度に自動的に補正できる可能性が高いことが示された。




参考文献


[1] 神尾 和憲, 佐藤 亨, 高利得アレー用アダプティブサイドローブ抑圧法, 電子情報通信学会論文誌, Vol.J86-B, No.5, pp.790-797, 2003.

[2] 福尾憲司, 佐藤 亨, バイスタティック大気レーダによる風速推定誤差の検討,電子情報通信学会2003年総合大会, B-2-68, 2003.

[3] 福尾憲司, 佐藤 亨, バイスタティック大気レーダによる風速推定誤差の検討(2)--風速シア及び局在散乱層の影響--,電子情報通信学会2003年ソサイエティ大会, B-2-30, 2003.

[4] S. Fukao, T. Sato, P. T. May, T. Tsuda, S. Kato, M. Inaba and I. Kimura, A systematic error in MST/ST radar wind measurement induced by a finite range volume effect 1. Observational results,Radio Sci. , Vol.23, No.1, pp.59-73, 1988.

[5] S. Fukao, M. Inaba, I. Kimura, P. T. May, T. Sato, T, Tsuda and S. Kato, A systematic error in MST/ST radar wind measurement induced by a finite range volume effect 2. Numerical considerations, Radio Sci. , Vol.23, No.1, pp.74-82, 1988.




( A 03 班 )

Study of equatorial convective clouds: Evolution and their coupling with meso
- to large-scale precipitation systems 
-Outline of A03 project-


赤道域における対流雲発生機構と降水システムの研究「概要」


Toshiaki Kozu1, Toyoshi Shimomai1Yasumasa Kodama2, Yukari Takayabu3, Yasushi Fujiyoshi4, Hiroyuki Hashiguchi5,
Jun’ichi Furumoto5, Yoshiaki Shibagaki6, in collaboration with LAPAN, Indonesia, and CPEA A03-related scientists in Japan7



1 Shimane University, 2 Hirosaki University, 3 University of Tokyo, 4Hokkaido University,
5 Kyoto University, 6Osaka Electro-Communication University, 7Refer to Acknowledgment


1. Objective and outline

The goal of this project (CPEA sequential number A03) isto understand the behavior and mechanisms of convection-origin atmospheric waves as well as the hierarchical structure of equatorial convective activities and couplings between them as shown in Fig.1, through comprehensive observations of equatorial atmosphere at Koto Tabang, west Sumatra. To achieve this goal, studies are divided into four categories; (1) Evolution and structure of each convective cloud, (2) Hierarchical structure and coupling among meso-scale, synoptic scale and super cluster activities, (3) rainfall properties in Maritime Continent (MC) and its relation to global scale phenomena such as MJO and ENSO, and finally (4) Gravity wave and other coupling mechanisms from convective activities to upper atmospheres.

To provide necessary information to the project, a set of comprehensive observation systems have been developed at Koto Tabang, west Sumatra.

This system consists of the following instruments; (1) Equatorial Atmosphere Radar (EAR) (vertical profiles of wind and precipitation), (2) X-band rain radar (X-radar) (2D structure of rain field, and 3D structure in part), (3) Microwave radiometer (vertical profile of water vapor), (4) Radio Acoustic Sounding System (RASS) (vertical profiles of temperature and water vapor in combination with the EAR), (5) 2D Video Disdrometer (2DVD; raindrop size distribution), (6) Optical Rain Gauge (ORG), (7) Micro-Rain Radar (MRR, low altitude precipitation).




In addition, two international observation campaigns are scheduled in March-April, 2004, and November 2005 to obtain more information on horizontal structure of atmosphere.
The campaign observation that combines both regional and wide area sounding networks will be invaluable to strengthen the ability to accomplish this goal. Fig.2 shows overall project schedule from 2001 to 2006 Japanese fiscal year. Table 1 summarizes major instruments employed for this project. Figs.3 to 5 show outdoor units of instruments nearby the EAR observatory building, X-band rain radar and radiometer, respectively.





Fig.2. Overall project plan.


Table 1. Summary of major instruments

Observation item          Instruments

Wind (VD)                       EAR

Temp.(VD)                      EAR/RASS

Water vapor (VD)            Radiometer

Rain (VD)                       EAR, Micro-rain radar

Rain (2D)                       X-band rain radar

Rain (ground)                 Optical rain gage

Raindrop size                 Video disdrometer

distribution (ground)

Pressure field (ground)    Micro barograph (3)

Rain & Doppler (3D)       X-band Doppler radar*1

VD, 2D & 3D: Vertical, 2D & 3D distribution.
*1 Used only for the special campaign period.












2. Status of instrument installation and operation

A03 related instruments listed in Table 1 have been installed and basically in operation except the XDR, which will be installed in February 2004. As for the RASS, combination of 10 speakers with the EAR, have been developed step-by-step; the first experiment was conducted with 2 speakers, the second experiment with 6 speakers, etc. A “full system”, namely 10 speakers, experiment was conducted in November 2002 and final integration to install many surge protectors is scheduled in March 2004 (Furumoto et al. 2003). Fig.6 shows a installation and operation status of the instruments.

The data acquired at Koto Tabang are first stored on data collection computers in the EAR observatory, and periodically transferred to RASC and/or Shimane University for archive, level-1 processing, scientific researches in Japan and Indonesia, and for public-release (for wider data release). To make the data search more convenient, ORG, RM and X-radar browse images are available on-line at the RASC and Shimane University Web site.






Fig.7. Location and conceptual diagram of radiosonde launches in the campain





3. International observation campaign

During the overall international observation campaign of CPEA (March and April 2004), A03 (tropospheric convection) and A04 (atmospheric waves and energy transport) related activities are planned in the latter half of the campaign period, 10th April to 9th May. Strategies of the A03 campaign are categorized into two programs:

(1) Triple-scale upper-sounding network centered at Koto Tabang (KT) is constructed to understand characteristics of local circulation (horizontal scale ~50 km), meso-scale convective systems (horizontal scale ~300 km), and MJO and gravity wave structures (horizontal scale ~1,000 km). Main objectives of radiosonde observations is to obtain profiles of temperature, pressure and horizontal wind velocity up to 30-35 km, as well as a humidity profile in the troposphere. This is a joint effort with the CPEA subproject A04, the CPEA Indonesian partner, LAPAN, and conducted in collaboration with FORSGC, Japan, with supports from BPPT and BMG, Indonesia. Malaysian Meteorological Service (MSS) and Meteorological Services Division, National Environment Agency (MSD/NEA), Singapore, will also collaborate with this campaign and will conduct special activities of their upper air sounding. Radiosondes will be launched every six hours during the period of 30 days (ITM30). During this period we choose a more intensive period of five days (ITM5) to catch heavy rain events, and will launch radiosondes every three hours. The launches will be from Koto Tabang(0.20S, 100.32E), Bandung (6.9S, 107.6E), Jambi (1.60S103.65E), Padang airport (1.0S, 100.4E), Kuala Lumpur (3.2 N, 101.7E), Kuching (1.5N, 110.3E) and Singapore (1.3N, 103.8E). See Fig.7 for the location of launch sites and concept of the observation.

(2) Comprehensive rain and atmospheric observations at KT are conducted using various instruments such as the EAR, X-band Doppler radar, RASS, water vapor radiometer, X-band rain radar, and ground-based instruments, which make it possible to connect horizontal and vertical-scale characteristics in/around convective activities.




4. Scientific research activities

During fiscal year 2001 to 2002, studies have been focused to preparatory ones in which we have tried to characterize precipitation properties in Maritime Continent in comparison with other equatorial regions. These include (i) statistical properties of convective and stratiform precipitations in terms of rainfall amount, echo-top height, diurnal variation, and lightning activities, and (ii) characteristics of raindrop size distributions (DSD). These studies have been performed mainly using satellite data such as TRMM PR, and disdrometer data obtained at various tropical locations. Fig.8 illustrates a conceptual diagram of studies on-going in the framework of our project. Through the studies on (i) it was found that precipitation in Maritime Continent generally has ocean-land “mixed” characteristics, and influenced also by large scale precipitation systems such as MJO (Takayabu et al., 2002; Takayabu et al., 2003). From the studies on DSD, it was found that there are distinct differences between oceanic and land DSDs, especially in convective rains. Moreover, Koto Tabang DSDs appear to have clearer diurnal variations than those in Singapore suggesting more influence of local convective activities than in Singapore (Kozu et al., 2002).

We have also been studying basic precipitation properties around Koto Tabang (Mori et al., 2002), and hierarchical structures of cloud systems having a wide range of horizontal scales (several kilometers to several thousands of kilometers). From the analyses of GMS OLR, X-band rain radar and EAR-derived wind field, it was clarified that there are systematic hierarchical structures and couplings between Inter-Seasonal Variation (ISV), Super Cloud Cluster (SCC), Meso-a,Meso-b, and Meso-g Cloud Systems, influenced by Kalimantan and Sumatra Islands (Shibagaki et al., 2002; Shibagaki et al., 2003).

In addition to the above studies on precipitation properties, remote sensing techniques utilizing the EAR and other instruments have been studied. These include humidity profile estimation from the EAR-RASS (Furumoto et al., 2002; Furumoto et al., 2003), and EAR-based estimation of vertical DSD profiles in order to obtain more insight into vertical structure of precipitation microphysics (Kozu et al., 2003; Shimomai et al., 2003).

Based on studies of precipitation characteristics of various scales mentioned above, we will study kinematical structures of equatorial convection related to atmospheric wave generation and momentum transport to upper atmosphere (Kodama, 2002).




Fig. 8. Conceptual framework of scientific studies on-going




5. Summary

The major tasks of this project during the first 2 or 3 years have been to construct the comprehensive observation system at the EAR observatory, Koto Tabang, and to conduct preparatory studies to understand basic properties of precipitation in Maritime Continent. All instruments have been installed and basically in operation except the XDR, an important tool in the campaign, which will be installed in February 2004. For wider utilization of the data obtained, X-band rain radar, ORG and Radiometer browse images are available online; data are also available for scientific researches by contacting Shimane University and RASC. It should be noted that periodical instrument maintenance and calibration efforts are essential to keep the quality of the data.

We have found several interesting characteristics of precipitation in Maritime Continent, especially around Koto Tabang, ranging from cloud microphysics to large-scale cloud systems as summarized in Section 4. Hierarchical structures of cloud systems from Meso-g cloud system to SCC have been elucidated through detailed data analyses. One of the next step would be to study correlations between small-scale precipitation properties (e.g. microphysical properties) and large-scale precipitation and other atmospheric environment. From such overall picture of the cloud systems in Maritime Continent, it would be possible to get more insight into the coupling of tropospheric convection and upper atmospheres.





Acknowledgment

This project is conducted under the Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas funded by MEXT, Japan, Project No. 13136206. We would like to thank LAPAN, Indonesia, and RASC/Kyoto University for their effort in overall CPEA project management. The system development and scientific activities are supported by many people; Mr. M. Ohi and Dr. M. Kawashima, Hokkaido University; Prof. A. Watanabe, Fukushima University; Prof. H. Uyeda, Nagoya University; Profs. S. Fukao, T. Tsuda, Mamoru Yamamoto, and Dr. T. Horinouchi, RASC/Kyoto University; Prof. M. D. Yamanaka, Kobe University/FORSGC; Drs. S. Mori and J. Hamada, FORSGC.




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[Shibagaki, Y. et al.]柴垣佳明,古津年章,下舞豊志,森修一,藤吉康志,橋口浩之,山本真之,深尾昌一郎,山中大学, 2003:季節内変動に伴う赤道域対流システムの階層構造,科研費特定領域研究「赤道大気上下結合」平成15年度公開ワークショップ, Dec. 4.

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[Takayabu, Y. N et al.]高薮縁,古津年章,片山勝之,森田純太郎, 2003:衛星降雨レーダーによるインドネシア降雨特性の解析,科研費特定領域研究「赤道大気上下結合」平成15年度公開ワークショップ, Dec. 4.



( A 04 班 )

課題A04「赤道域の大気波動の4次元構造とエネルギー輸送の研究」
研究活動と2004年のキャンペーンの準備状況

津田 敏隆、中村 卓司
(京都大学宙空電波科学研究センター)


1.はじめに


課題A04は赤道大気中に普遍的に現れる各種の大気波動(赤道波、大気潮汐波、プラネタリ波、大気重力波など)の励起・伝搬・減衰過程、ならびに波動・波動、波動・平均流相互作用を、対流圏から成層圏さらに中間圏・下部熱圏(MLT)に至る広い高度領域で精密観測することが目的である。今年度は高度60-110kmで風速・温度の時間高度変化を連続観測するために、流星・MFレーダーのリージョナルネットワークをインドネシア国内に完成させ、2004年3-5月に予定されているキャンペーン観測に備える。


キャンペーン期間中にはラジオゾンデにより地表から高度約30kmまでの温度、湿度、気圧および水平風速のプロファイルを測定し、特に他に有効な観測手段がない高度15-30kmの高度領域の力学過程を調べる。この気球強化観測の準備をA03と協力して進めており、インドネシアをはじめマレーシア・シンガポールの研究機関・気象庁と調整を行っている。


これらの多点観測により大気波動の時間・高度構造を知るのに加え、グローバルな緯度・経度変化を解明するために国際的MLTレーダー観測ネットワーク、およびTIMED衛星の観測データ、およびCHAMP、SAC-C衛星のGPS掩蔽観測も活用している。さらに、観測される3次元構造よび時間変動を補完・検証するために、数値モデルを用いる。



2.インドネシアのMLTレーダーネットワーク


我々はインドネシアのジャワ島、ボルネオ島の西カリマンタン州、西スマトラ州の3ヶ所にMLTレーダーを設置し、水平距離が約1000km離れた三角形状に配置されたレーダー観測網を今年度中に完成させる。図1にレーダー観測所の配置を示す。


昨年度の2002年11月に流星レーダーをEARのあるKoto Tabang(0.12S, 100.19E)に建設し、観測を約1年間継続した。(中村他による講演参照)


また、オーストラリアのアデレイド大学およびLAPANの共同で、1995年以来西カリマンタン州の Pontianak (0°N, 109°E) でMFレーダー(SAD型)による風速観測を行ってきたが、2002年10月に延長約 1km x 1km の直交十字型アンテナを建設し、現在、試験運用中である。新システムでは天頂角約11度で方位が90度異なる4方向にペンシルビームを形成することができる。これを活用してMLT領域での波動運動量フラックスの測定を近く開始する。


一方、西ジャワのジャカルタ郊外の Serpong (スルポン0°N, 109°E)1992年以来流星レーダーによる連続観測を継続してきたが、老朽化が進んだためこの流星レーダーの運用を停止した。替わりに西ジャワの南岸のPameungpeuk (パムンプク、7.5S, 107.5E)MFレーダーを建設した。これはSAD型システムで、高度60-100kmの水平風速を測定できる。


これらのレーダーのうち、Koto Tabang と Pontianak は赤道上で東西に約1000km離れており、大気波動の東西伝搬特性を解明するのに有利である。また、緯度が異なるPameungpeuk での結果とあわせて、赤道付近での大気波動の緯度構造を調べる。インドネシアのレーダーは、日本とオーストラリア間の赤道共役点(信楽−インドネシア−アデレイド)、および赤道ベルト(インド−インドネシア−クリスマス島−ハワイ−ララトンガ−南米)に広がるMLTレーダー国際協同観測網の交差点となる重要な位置を占めている。


図1 インドネシア国内の3ヶ所のMLTレーダーおよび国際協同観測ネットワーク




3.2004年4-5月のラジオゾンデキャンペーンの実施計画


我々はラジオゾンデ集中観測を2004410日から30日間にわたって実施する。観測候補地を図2に示す。EARでの各種の電波・光学観測を主体に、いくつかの水平スケールでの気球観測ネットワークを構成した。


まず、EARがある Koto Tabang (0.12S, 100.19E)を観測拠点とするのは当然である。EARから300-400km離れた観測点としてJambi (1.6S, 103.6E)Kuala Lumpur (2.44N, 101.42E)およびSingapore (1.22N, 103.59E)を選び、これらで1つの観測網を構成する。


インド洋を東進する積雲クラスターは、洋上とスマトラ島上陸後では特性が変化すると考えられる。EARがスマトラ島西部の山岳部に位置するため、山岳の影響を検討するために、スマトラ島西岸のPadang (0.88S, 100.35E)でも積雲対流の活発な時期に気球観測することが重要である。さらに1000kmスケールの水平構造を調べるために、Bandung (6.9S, 107.6E)およびKuching (1.48N, 110.33E)の観測結果を用いる。

 
図2 キャンペーン期間のラジオゾンデ観測






以上が図2に示す観測点を選定した経緯である。実際の観測はCPEA(A03A04)による独自観測、観測フロンティア(FORSGC)との協力、およびマレーシアとシンガポールの気象庁の定常観測の強化で対応する。具体的には、CPEA-A04Koto Tabang BandungLAPANとの協力のもと6時間毎に独自にラジオゾンデ観測を行う。30日間のキャンペーン期間の中で、特に積雲活動が活発な5日間を特別観測期間として選定し、3時間毎に1日に8回ラジオゾンデを放球する。この特別観測期間には、Padangでも3時間毎に40回の実験を繰り返す。なお、FORSGCJambiにおいて、EARでの実験と同一のスケジュールで気球観測を行う。また、CPEA-A04Bandungでも6時間毎の放球を実施するが、特別観測時でも1日に4回の繰り返し間隔のままとする。


ここで、特別観測期間の選定・決断が要となるが、衛星画像などを随時モニターしながら、日本からGOの判断を下す予定である。


Kuala LumpurKuchinではマレーシア気象庁が行う12時間毎の定常観測を基本に、その間の6時間毎に追加観測を依頼している。さらに、Kuala Lumpurでは特別観測にも参加を要請しており、その5日間について3時間毎に観測が繰り返されることになっている。一方、Singaporeでは朝夕の12時間毎の定常観測に加えて、日中に1回の追加観測を依頼しており、都合3/日の気球観測が30日間行われる見込みである。(ワークショップ後になるが、津田と古津が1222日と23日にそれぞれシンガポールとマレーシア気象庁を訪問し、具体的な観測方法ならびに経費負担について相談した。




4.従来のラジオゾンデ・MLTレーダー観測による研究成果


熱帯の積雲活動にともなって励起される各種の大気波動が対流圏、中層大気さらに熱圏の力学過程に大きな影響を与えていることが知られており、既に様々な観測およびモデル研究が行われてきた。

図3 199211月から19934月に実施した6時間ごとのラジオゾンデ集中観測(左下)とジャカルタ流星レーダー(左上)で得られた東西風の時間高度変動、おおび高度90kmにおける東西風(実線)と南北風(破線)の周波数スペクトル。




19902-3月に東ジャワのWatukosekにおいて、インドネシアで初めての本格的なラジオゾンデ集中観測が行われた(Tsuda et al. 1992)。ケルビン波が対流圏界面付近で急激に振幅を大きくし、温度構造に顕著な影響を与えること(Tsuda et al. 1994a)、積雲で励起された大気重力波が背景風と相互作用し、東西伝搬特性に偏りが生じること(1994b)が報告された。このパイオニア的気球実験の成功を受けて、インドネシアで大気波動のラジオゾンデ観測が盛んに行われるようになった。


199211月から19934月にかけて、バンドンのLAPAN研究所で6時間毎に400回を越えるラジオゾンデ実験が行われた(Tsuda et al. 1995)。図3にこの観測結果と流星レーダーの同時観測データを用いて、高度0-40kmおよび70-110kmでの東西風の時間高度変動を示した。なお、図3にはMLT高度における風速変動の周波数スペクトルも示したが、多様な大気波動が混在していることが示唆される(Tsuda et al. 1999a)


この良質のラジオゾンデデータを解析することで、成層圏下部でのケルビン波の振舞い、ならびに大気重力波の水平・鉛直伝搬特性が明らかにされた(Shimizu and Tsuda, 1997)。また、一日周期の風速・温度変動が対流圏では比較的振幅が大きくかつ非伝搬性であるが、対流圏以高では伝搬性となり、成層圏・MLT領域では高度とともに振幅が増大していることがわかった(Tsuda et al. 1997)。さらに流星・MFレーダー観測の結果も含めて赤道付近で一日周期大気潮汐の振舞いを検討した結果、南北非対称性や季節変化が明らかになり、特にnon-migrating成分の影響が認められた(Tsuda et al. 1999b)


インドネシアの気象機関による定常観測が不十分であったため、独自にBandungで一日に1回のラジオゾンデ定常観測を199310月から19963月までの30ヶ月間に、900回繰り返し、長期間にわたるデータを蓄積した。このデータを用いて、対流圏界面の温度構造の時間変動が周波数スペクトル解析し、ケルビン波などの影響による最低温度・対流圏界面高度の変動を確認した(Shimizu and Tsuda, 2000)。同時に、成層圏の大気重力波の活動度が対流圏の積雲活動、対流圏の水蒸気量、対流圏上部の大気安定度あるいは成層圏QBOと深く関係していることが分った(Shimizu and Tsuda, 2001)


一方、MLT領域ではジャカルタ流星レーダー、PontianakMFレーダー、さらにAdelaide大学が運用する Christmas IslandMFレーダーの観測結果を合わせて、様々な大気波動の特性が研究されている。一日周期の大気潮汐波の季節変動、長期変化の解析からは半年、1年および約2年の周期性が明らかにされた(Tsuda et al. 1997b)。特筆すべきは1997年に波動エネルギーが極端に弱くなったことであるが、その理由は未解明である(Tsuda et al. 2002)


赤道ケルビン波は成層圏および中間圏で顕著に現れる波動で、その周期や鉛直スケールは高度によって異なる。成層圏下部では周期10-20日で、成層圏上部では高速(Fast)ケルビン波が、さらに中間圏では周期3-4日のUltra-Fastケルビン波が卓越する。これらが背景風と相互作用することで、例えば中間圏の半年周期振動が駆動されているとされている(Yoshida et al. 1999)。また、MLT高度でのケルビン波の経度方向の伝搬特性が複数のレーダーの同時観測から明らかにされている(Kovalam et al. 1999)。さらに、5日波、15日波などのプラネタリー波について、赤道域での特性もMLTレーダー観測網による長期間データにより解明された(Isoda et al. 2002)


地上観測では点における時間高度変動の情報しか得られないため、グローバルな特性を解明するのに難がある。しかし、最近進展している小型低軌道衛星を用いたGPS掩蔽ではラジオゾンデと同等の高度分解能で高度1-35kmの温度プロファイルを得ることができ、対流圏界面の温度構造や成層圏の大気重力波のエネルギー分布などが解析されている。(Nishida et al. 2001; Tsuda et al. 2000)




5.まとめ


2004年に計画しているキャンペーンは、これまで行ってきたラジオゾンデ観測やMLTレーダーネットワーク観測に加えて、対流圏の観測機器が充実すること、さらに電離圏・熱圏の同時観測が行われることが特徴である。是非とも良質の観測データを収集して、赤道大気の新たな視点を開拓したいと期待している。


EARや流星・MFレーダー等は基本的に自動観測を行うのでキャンペーン時期に限らず連続してデータ蓄積が可能であるが、マンパワーと多量の観測用消耗品を必要とするラジオゾンデ観測には時間をかけて準備を重ね、用意周到である必要がある。特に、CPEAの班員ではマンパワーが決定的に不足しているため、インドネシアの研究機関(LAPANBPPTBMG)の助力が不可欠である。また、広域観測を図るため、マレーシアおよびシンガポール気象庁との折衝を行ってきたが、幸い、全面的な協力を確認できた。


我々が想定している大気現象の解明にはほぼ十分な観測機器配置ができたと考えられるが、予想外の現象を見つけるには精密な観測を地道に実行することが基本である。1990年に単身、東ジャワのWatukosekで寝食を忘れて6時間毎に4週間バルーンをあげ続けた初心に戻るべきと思っている。




(A04の研究活動に特に関係する参考文献)


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Isoda, F., T. Tsuda, T. Nakamura, Y. Murayama, K. Igarashi, R. A. Vincent, I. M. Reid, A. Nuryanto and S.L. Manurung, Long-peiord wind oscillations in the mesosphere and lower thermosphere at Yamagawa (32N, 131E), Pontianak (0N, 109E) and Christmas Island (2N, 157W), J. Atmos. Solar Terr. Phys., 64, 1055-1068, 2002.

Tsuda, T, S. Yoshida, F. Isoda, T. Nakamura, A. Nuryanto, S. Manurung, O. Sobari, R. A. Vincent and I. M. Reid, Long term variations of atmospheric wave activity in the mesosphere and lower thermosphere region over the equatorial Pacific, J. Atmos. Solar Terr. Phys., 64, 1123-1129, 2002.


( A 05 班 )

大型高機能ライダーの準備状況と試験観測結果

長澤親生、阿保 真、柴田泰邦
東京都立大学大学院・工学研究科

1.はじめに

我々は赤道直下のインドネシア・コトタバンに地表から中間圏界面高度までの広い領域をカバーする大型高機能ライダーを設置し赤道領域の定常大気観測を計画している。本ライダーは、赤道域での成層圏上部から下部熱圏までの垂直温度構造と中間圏界面近傍の金属原子層の観測に加え、熱帯積雲対流活動などに重要な役割を担うエアロゾルや水蒸気の鉛直分布の観測を統一的に行う世界初のライダー観測となる予定である。得られたデータは、EAR、流星レーダや気象レーダなど、同所で同時に観測される他の観測データと比較することにより、対流圏から熱圏下部までの大気上下結合や中間圏界面付近の複雑な力学・化学反応過程の理解に資することを目的とする。

近年中緯度領域においては、大型レイリーライダーや高機能共鳴散乱ライダーにより、従来ロケット観測などを除いて、観測が困難な領域であった成層圏上部から熱圏下部(高度30kmから120km)までの領域において、高分解能で鉛直温度構造の観測が可能となり、気温の中間圏逆転層(MIL)などの興味深い新しい現象が観測されている。また、共鳴散乱ライダーの高出力化により、中間圏界面付近に成層するナトリウム、カリウム、鉄やカルシウムイオンなど微量気体の高精度の観測が可能となり、この領域の気体・イオン化学反応過程や力学的構造に関する貴重な情報が得られるようになった。しかしながら、赤道下層大気は、上層大気へのエネルギーや運動量の励起源であり、全地球の大気循環に多大な影響を及ぼすものでありながら、この種のライダー観測の空白域となっている。

これまで、成層圏から中間圏下部にかけての気温は、赤道域で大型レイリーライダーにより各地で観測されている。地上からの中間圏界面高度の金属原子層を利用した共鳴散乱ライダーでの低緯度域の気温観測は、Arecibo(18.5N,67.8W)とHaleakala(20.8N,1562W)において、それぞれ鉄とナトリウムの共鳴散乱ライダー観測が行われているのみである。


2.コトタバンにおける観測計画と準備状況

我々は、インドネシアコトタバンに、レイリーライダーと中間圏界面気温と金属原子層および対流圏水蒸気、エアロゾルを観測する大型高機能ライダーの建設を計画している。中緯度の中間圏界面温度観測には、She et a1.(1990)が開発した狭帯域ナトリウムライダーが用いられ、詳細な中間圏界面付近の温度構造が観測されるようになった。この狭帯域ナトリウムライダーは、メンテナンスが容易でないリング色素レーザがキーデバイスであるため、遠隔地での自動観測には不向きであることから、新たな温度観測用共鳴散乱ライダーの開発が必要である。そのため、自動観測に適合した固体レーザーを用いたライダーを開発中である。レーザー及び遠隔制御システムについては別稿を参照されたい。

2003年11月現在で、図1のようなコンクリート製の小屋が完成し、小型YAGレーザを用いた対流圏の雲及びエアロゾルの連続観測を始めている。図2に観測例を示す。
















 







図1 ライダー観測小屋の図面及び写真




図2 コトタバンでの小型ライダーによる観測例(フォトンカウントモード)




3.バンドンでのナトリウム層の観測

本研究の重要な柱である中間圏圏界面の気温の観測を行うためには、赤道領域の金属原子層の分布状況を把握しておくことが重要である。そのため、2002年9月にバンドンのLAPAN観測所に、LAPAN、通信総合研究所(CRL)、気象研究所(MRI)の協力を得て、ナトリウム共鳴散乱ライダー(589nm)を設置した。ナトリウム共鳴散乱ライダーは、CRL並びにMRIが設置しているライダーに対して、ナトリウム層を観測するために必要なシステム改装を行った。色素レーザーの線幅(10pm)が広いため観測効率はあまり良くないがナトリウム層の観測が可能となった。バンドンのLAPANに設置した色素ライダーにより、2002年11月、2003年3月、2003年8月にナトリウム層の試験観測を行った。図3に8月の観測例を示す


図3 バンドンでのナトリウム層の観測例



今までのバンドンでの観測結果からナトリウム層のパラメータを求め解析した。図4にナトリウム総量、図5にナトリウム層重心高度の、それぞれ1晩平均値の季節変化をバンドンと東京で比較した結果を示す。バンドンのナトリウム総量は東京に比べて多く、重心高度は低いことがわかる。


図4 ナトリウム総量の季節変化(バンドンと東京の比較)


図5 ナトリウム層重心高度の季節変化(バンドンと東京の比較)



図6に ナトリウム総量の夜間変化の1晩での最大値と最小値の差(夜間変化の振幅)の季節変化のバンドンと東京の比較結果を示す。バンドンでの3月の振幅が非常に大きいことがわかる。これは赤道大気活動の特徴を表していると考えられる。


図6 ナトリウム総量の夜間変化の振幅の季節変化(バンドンと東京の比較)



4.まとめ及び今後の計画

インドネシア・コトタバンのEARサイト内に、対流圏から熱圏下部までの赤道大気観測用大型高機能ライダーを建設中である。中間圏界面領域の金属元素密度および温度構造を測定するための、遠隔制御可能でメンテナンスの容易なレーザーを開発し、日本において、Fe温度の観測、K密度の連続観測に成功し、コトタバンで小型ミーライダーによる遠隔制御実験および対流圏の自動観測を開始した。

2002/11,2003/3,2003/8には赤道域インドネシア・バンドンにおいてナトリウム層のライダー試験観測を行った。バンドンにおいて2003/3と2003/8には6時間以上のナトリウム層の連続観測に成功した。主な観測成果として、(1)夜半過ぎに非常に大きなスポラディックナトリウム層が観測された。(2)バンドンのナトリウム総量は3月に大きい。(3)バンドンのナトリウム層重心高度は東京に比べて低い。(4)バンドンのナトリウム総量の一晩での変動量は3月に非常に大きい。

2004年春のキャンペーン観測の計画としては、対流圏小型ミーライダーにより高度2-20kmの範囲の対流圏エアロゾル、雲高度を昼夜連続(太陽が天頂付近に来る10:30-13:30を除く)で観測する。更に、ライダーの準備が整い次第、ラマンライダーによる対流圏水蒸気混合比及び、レイリーライダーによる成層圏?中間圏の気温の観測を開始する予定である。本格観測開始は2004年夏を目指している。


表1 スケジュール




( A 06 班 )

赤道域熱圏・電離圏の観測研究 −A06班の進捗状況−
小川忠彦、塩川和夫、大塚雄一(名大STE研)


1.はじめに

特定領域研究「赤道大気上下結合の研究班の一つであるA06班の課題名は「赤道大気エネルギーによる熱圏変動の研究」である。本研究項目の目的は、インドネシア域の高度90-500 kmの熱圏・電離圏を探査する独自の装置(光・電波観測装置、磁力計、VHFレーダー)を赤道大気レーダー(EAR)サイトに設置して観測を実施し、EAR及び周辺観測装置からなるリージョナルネットワークで捉えられた赤道域対流圏起源の大気波動のエネルギーや運動量が熱圏高度に輸送されて散逸する過程、及び散逸エネルギーが誘起する熱圏大気の変動と電離圏プラズマの応答過程を研究し、大気活動が世界で最も活発なインドネシア域特有の赤道大気上下結合を解明することである。具体的な研究内容は以下の通りである。


・インドネシア上空の上部中間圏・電離圏・熱圏の基本構造と、特に下層大気からのフォーシングによる構造の変動

・赤道中間圏/下部熱圏における短周期(≦数時間)大気重力波の挙動

・大気重力波と電離圏プラズマとの結合/相互作用、特に、プラズマバブルの励起・成長・移動、E-F層プラズマの変調と不規則構造の生成

・リージョナル/広域ネットワークの活用による、磁力線を介した赤道電離圏と低緯度電離圏との結合過程

ここでは、前回のCPEAワークショップ(2002年12月)以降の進捗状況を報告する。


2.観測機器の整備状況


本研究項目の推進にとって、EARサイトに幾つかの電波・光学測器を新たに設置し、連続観測を実施することが極めて重要である。このために、今までに以下のような装置の開発を行ってきた。

2.1 全天 CCD イメージャー

557.7nm[OI]、630.0nm[OI]、777.4nm[OI]、OH[近赤外]及び572.5nm[背景光]の波長において夜間大気光強度の2次元分布をCCDカメラで測定する。2001年度に製作終了し、国内試験観測を経て2002年10月末からEARサイトにて連続観測に入った。

2.2 GPS 受信装置


GPS衛星の2周波(1.5754 GHzと1.2276 GHz)を地上で受信し、電離圏全電子数と水蒸気を30秒毎に連続測定するための「2周波GPS受信装置」を2001年度に製作終了し、国内試験観測を経て2002年10月末からスマトラ島パダンのアンダラス大学にて連続観測に入った。また、GPS電波の電離圏シンチレーション観測からプラズマ不規則構造の運動を知るために、3台の1周波受信装置(1.5754 GHz)を製作した。これらは2003年1月からEARサイトにて稼働している(図1)。各々を適当な間隔(100m程度)で離すことにより、不規則構造の2次元的な運動が分かる。


図1 EARレーダーのフェンスに設置された3台のGPSシンチレーション受信機とデータ収集システム。

2.3 磁力計

EARサイトにおける地球磁場変動を知るために2003年1月に磁力計を設置した。しかし、6月の信号ケーブルに不具合が発生したため、日本持ち帰り修理した。2004年2月に再設置する予定である。


2.4 高感度分光フォトメータ

2002年度に製作した高感度分光フォトメータは、557.7nm[O]、630.0nm[O]、427.8nm[N2+]、486.1nm[Hβ]、777.4nm[O]、 589.3nm[Na]、OH、O2の波長において、天頂付近を中心とした観測視野14度内の夜間大気光の強度を測定する。また、OHとO2の発光を用いて中間圏界面付近の温度も測定する。本装置は国内外での試験・校正観測を終えた後、2004年2月からEARサイトにて連続観測に入る予定である。詳しくは、塩川他の稿を参照のこと。


2.5 VHF電離圏レーダー

EAR(47MHz, 100kW)は、電離圏高度においてビームを地球磁力線に直交させることにより、電子密度不規則構造からのコヒーレント散乱エコーが受信できる。しかし、このような目的でEARを専有することはできないので、我々は独自の電離圏コヒーレントエコー観測用のVHFレーダーを開発した。2004年2月にEARサイトに設置し、連続観測に入る予定である。これにより、電離圏の連続観測が可能になるだけでなく、EARや全天大気光りイメージャーとの同時観測を行えば、”プラズマバブル”不規則構造などに関する新しい物理過程が解明できるものと期待している。レーダー仕様の概要を表1に示す。周波数は30MHz付近で、18基のアンテナから成るアンテナアレイにより、9方向のビーム走査が可能である。

表1 VHF電離圏レーダーの仕様概要

3.プラズマバブルの観測

本研究では赤道プラズマバブルも重要なターゲットである。図2の左は2003年3月3日1610UTにEARの630nm全天カメラが捉えたプラズマバブルである。この時、たまたまGPS衛星がEAR上空を北から南向けに通過し、GPS電波は1605-1615UTの間にバブルによるシンチレーションを被った(図2の右)。この事実は、バブル内に200m程度の空間スケールを持つ電子密度の不規則構造(irregularities)が存在することを示唆する。


2 (左)2003年3月3日1610 UTに630nm全天カメラで観測されたプラズマバブル。(右)同日に受信されたGPS衛星の信号強度変化。衛星パスがバブル内を通過した1605-1615UTにおいて電離圏シンチレーションが発生している。


全天カメラによるプラズマバブルは春秋期にしばしば観測された。カメラによるバブル観測を行うには晴天であること、新月に近いことなどの制約がある。これに対して、GPS電波を用いたバブル性シンチレーションの観測にはこのような制約はない。図3に、2003年2月から9月にわたって観測されたGPSシンチレーション発生率の日・時間変化を示す。図から、発生率は2-5月の秋期と9月の春期の日没から真夜中前にかけて高くなることと、数日〜10日の周期で変化することが分かる。これらの性質はバブルの発生特性と極めてよく一致している。従って、シンチレーションの原因はバブルにあると結論できる。



3 2003年2月-9月におけるGPSシンチレーション発生率の日・時間変化。



地上の一点の全天カメラが観測できる空間範囲は、高度250kmにおいて高々1800km×1800kmである。日没後にプラズマバブルが発生して発達し、東向きに移動していく様子を捉えるためには、この観測視野は不十分である。一方、IMAGE衛星に搭載されているEUV(OI 135.6nm)撮像装置を用いると、赤道電離圏F層の電子密度分布が非常に広範囲にわたって測定できることが最近明らかになった(Sagawa et al., 2003)。Sagawa et al.は、磁気赤道を挟んで南北対象に存在する赤道異常域において波長が1000kmオーダーの大規模な電子密度波状構造が100m/sで東進することを見いだした。

我々は、IMAGE衛星の画像データが取得された日(2002年4月7日)にオーストラリア・ダーウィン(地理緯度12.4oS)に設置された名古屋大学の630nm全天カメラで得られたデータを調べた結果、電子密度の大規模波動構造の内部にプラズマバブルが存在することを見いだした。IMAGEデータと全天カメラデータの比較を図4に掲げる。これは、ダーウィンの緯度における、経度に沿った大気光強度の時間変化であり、”ケオグラム”と呼ばれるものである。図の上半分が630nm全天カメラデータから、下半分がIMAGEデータから作成されケオグラムである。全天カメラで捉えられている通り、日没後の1100UT(1900LT)付近で発生した幾つかのバブル(大気光強度が周囲よりも低い部分)は最初200m/sで東進するが、すぐに100m/sに減速する。これらのバブルに対応する現象はIMAGEのケオグラムにおいても135.6nm大気光の減光として明瞭に観測されている。以上の結果は、IMAGEで観測された1000kmの大規模な電子密度波状構造の内部に、数100km以下のスケールを持つバブルが含まれていることを示している。1000kmや数100kmの構造が作られる原因は不明であるが、大気波動が関与していることが予想される。

今回のデータ解析から想像される大規模構造とバブルの関係を図5に示す。両者の間接的成因は下層大気からの大気重力波(AGW)であると考えられるが、詳しい因果関係の解明は今後の研究に期待したい。なお、高々度に達するバブルは地磁気共役がよいことが



4  (上半分)ダーウィン全天カメラデータから作成されたケオグラムと、(下半分)IMAGE衛星データから作成されたケオグラム。観測は2002年4月7日。


5 全天カメラとIMAGE衛星の観測から予想される大規模電子密度構造(1000kmスケール)とプラズマバブルの関係。

知られているが(Otsuka et al., 2002)、ダーウィンで図4に示すバブルが観測された時に、地磁気共役に近い信楽OMTIでも630nmバブルが観測されており、バブルの最高高度が1800kmにも達したことが分かる。最後に、図5に示す想像図は図6に示すレーダー観測結果とよく一致することを付言する。


6  磁気赤道直下のペルー・ヒカマルカレーダー(50MHz)で観測されたプラズマバブルとF層からのコヒーレントエコー。高度方向に上下振動するF層からプラズマバブルが発生し、高々度に上昇している(Kelley et al., JGR, 1981より)。

4.まとめ

本研究課題を推進するために2001-2002年度に観測機器の製作、校正、国内試験観測を行い、2002年10月に「全天カメラ」と「GPS全電子数装置」を、また2003年1月に「GPSシンチレーション観測装置」と「磁力計」をEARサイトとその近郊に設置し、観測を開始した。2004年2月に「高感度分光フォトメータ」と「電離圏用VHFレーダー」をEARサイトに設置して連続観測に入る予定である。

最近の研究成果として、赤道電離圏の特異現象である”プラズマバブル”の光学・電波手法による研究が進展したことがあげられる。今後は、対流圏から上部中間圏をカバーするEAR、流星レーダー、ライダーなどの観測とも連携し、下層大気からのフォーシングによる熱圏・電離圏変動を調べる。また、インドネシア域でのリージョナルネットワークに加えて、他研究機関とも共同して広域ネットワークを構築し、赤道域から低緯度域にわたる一連の熱圏・電離圏現象の研究を行う。


参考文献

Otsuka et al., Geophys. Res. Lett., 29, doi:10.1029/2002GL015347, 2002.

Sagawa et al., Geophys. Res. Lett., 30, doi:10.1029/2003GL017140, 2003.


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