DAWEX (Darwin Area Wave Experiment)

 

津田 敏隆(京都大学宙空電波科学研究センター)

 

1.       概要

オーストラリア、Northern Territory の中心都市である Darwinの沖に Tiwi Islands と呼ばれる、狭い海峡をはさんだ二つの島(Buthurst, Melville)があり、この上空に孤立型の巨大積乱雲が現れる(現地ではHectorと呼ばれている)。200110-12月に Darwin  周辺で、積乱雲による大気波動励起に関する国際協同観測キャンペーンが行われ、多くの観測装置が投入された。京大RASCは豪州気象庁(BOM; Bureau of Meteorology)Monash大、Adelaide大と共同で5日間のラジオゾンデ観測をDarwin周辺の3点で3回にわたって実施した。初期解析の結果、対流圏界面のすぐ上層(15-20km)で周期が約84時間の変動が認められた。また、鉛直スケールが3km以下の温度・風速変動の分散値から推定した大気重力波のエネルギーは、高度20-25kmでやや弱く、その上下の層(15-20km25-30km)で増大しており、背景の東西風の大きさと相関が見られた。これらの波動特性は3期間で共通して認められた。

 

2.       観測状況

DAWEXでは対流圏から中層大気さらに熱圏下部に至る広い高度領域で波動特性を観測するために、多くの観測装置が導入された。まず、対流圏ではDarwin郊外で定常的に運用されている50MHz Windprofiler 915MHz の境界層レーダーに加えて、新たにTiwi Island 50MHZ の小型境界層レーダーが設置された。C帯の2重偏波ドップラーレーダー(C-Pol)については、Darwin空港での定常観測に加えて、それから約20km北東に離れたGun Pointで、研究用のC-Pol レーダーが11月と12月のキャンペーン期間中に運用された。

成層圏観測のために5日間のラジオゾンデキャンペーンを乾季(Pre-Monsoon)に1回、Hector季からMonsoon-onset季に2回実施した(後述)。なお、Darwinでは定常観測が行われている(風速は1日に4回、そのうち2回は温湿度等も測定)。さらに、中間圏・下部熱ではMFレーダーおよび各種のCCDイメージャが稼動した。

 

 

図1 DAWEXの気球観測点。(A) Pirlangimpi (Garden Point) (緯度11.4S、経度130.3E、慣性周期61 hr)(B) Darwin 空港気象ステーション (12.4S, 130.9E, 56 hr, Aからの距離130 km)(C) Katherine 空港 (14.5S, 132.5E, 48 hr, 400km)

 

 

気球観測は、Hectorからの波動伝播を調べるために、Tiwi Islandから南東方向にほぼ直線的に並んだ3つの球観測点で行った。つまり、 (A)Tiwi Island上のPirlangimpi (Garden Point)(B) Darwin 測候所、および(C)Katherine空港の3点である。モンスーンオンセット(10月末)以降12月頃までの時期にHectorが現れると期待される。

Hectorの有無による大気波動励起の相違を比較することを目指し、乾季である10月中旬(1013-18日)に観測を行い、次いでHector季である11月後半(1115-20日)と12月中旬(1211-16日)に、5日間にわたり、3ケ所から3時間毎に40回、ラジオゾンデを放球した。なお、CCDイメージャ観測を考慮して、観測期間を新月前後にしている。

図2に気球到達高度の統計を示すが、3/4以上が高度25kmに達し、さらに約2/330kmを越えたことが分かる。BOMが定常観測に用いている350gの気球では20km程度しか上がらないため、800gの気球を用いた(TX-800)。しかし、11月の観測では一日周期で最高高度が変動している。熱帯域では、対流圏界面付近で大変低温になるため、太陽放射で暖められない夜間に、気球が割れやすくなることによる。10月にその傾向が見られなかったのは、対流圏界面温度がさほど低温でなかったことと、対流圏内が乾燥していたためと考えられる(水分の結露・凍結が重要らしい)。12月では観測開始の2日後から、通称「油漬け」と呼ばれる事前処理をしたために、この問題がある程度解決した。つまり、ケロシンで気球表面を1-2分洗い、その後15分間程度乾燥した後に放球した結果、夜間でも高度30km付近まで到達した。しかし、気球のゴムがふやけたようになり、充填するガス量は2割程度増加した。

 

DEC  all  <16 >20 >25  >30km

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GP   39   1   33   30  19

DW  36   0   32   31   31

KA   40   1   33   33   16

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     115   2   98   94   66

                    78%  63%

 

NOV  all <16  >20 >25 >30

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GP   39   1  34  32  27

DW  39   0   29  29  28

KA   40   3  27  26  25

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     118   4  90  87  80

                 74%  68%

 

OCT  all  <16 >20 >25 >30

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GP   38   2   32   28  23

DW  38   0   35   33  27

KA   40   2   35   30  25

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    116   4   102   91  75

                  78%  65%

 

図2 DAWEXキャンペーン期間中の気球到達高度。(1) 1013-18日、(2)1115-20日、(3)1211-16日の結果であり、横軸は120時間に対応する。下表の統計は気球破裂高度が16km以下、高度20, 25, 30kmを越えた数を各キャンペーン期間毎に示す。

 

3.       解析結果

観測データを整理したばかりであり、詳細なデータ解析を進めている段階であるが、以下に背景の大気状態、長周期の変動および短周期変動(大気重力波)の特性について、クイックルックを紹介する。

3.1        背景の大気状態

 図3に10月のキャンペーン時に観測された5日間平均のプロファイルを示す。モンスーン開始前なので、湿度は比較的低く、対流圏中層・上層は乾燥している。温度構造も熱帯域の特徴的な高度プロファイルを示し、対流圏界面付近の温度は−80C以下になっている。大気安定度は、15-17kmでほぼ高度に線形に上昇しており、その上下の層でほぼ一定の値を示している。東西風には高度2025km付近にQBOの影響による東風が見られる。一方、南北風は全高度でほぼ0であった。11月と12月の平均プロファイルは、基本的にはでは図3と同様であるが、モンスーンの進行に伴い湿度が急増している。また、QBOIによる東風の中心高度が若干降下していた。

 

図3 10月のDAWEXキャンペーン期間中の平均プロファイル。左から、相対湿度、温度、東向き風、来た向き風、およびブラントバイサラ周波数の自乗であり、Garden Point(黒)、Darwin(緑)ならびにKatherine(赤)の結果を、横軸をずらして描いている。

 

図4 Darwin10月に得られた東向き風(左)と北向き風(右)。各パネルとも、左端に全プロファイルの重ねがきを、その左に個別の結果を横軸をずらして表示している。

 

 

3.2        長周期変動

 図4に10月に観測された風速プロファイルを示す。平均風に重畳して多くの風速振動が認められる。特に、対流圏界面のすぐ上部にあたる高度15-20km付近(図4で枠でかこった高度層)では、東西・南北風ともに、大きな振動が認められる。一定の高度における風速の時間変動について、周期を適宜調節してサイン関数を最小自乗近似する、ピリオドグラム解析により、高度15-20kmの風速振動の卓越周期が84時間であることが明らかになった。3つの観測点の間でほとんど位相差がないことから、空間スケールが大きな波動であろうと推測される。同様の長周期変動は11月および12月にも認められた。

 

3.3        短周期変動(大気重力波)

 図4の左端の重ね描きプロファイルでは、線の広がり幅が変動成分の大きさに関係している。高度15-20kmでは上記の長周期変動により幅が大きく広がっている(なお、後述するように、長周期成分を除いても変動分は大きい)。そして、高度20-25km付近で変動幅が一旦減少し、高度25-30kmで増大している。

 この特性をより詳しく調べるために、個々の風速・温度プロファイルから背景場を差し引き、さらに高度方向にカットオフが3.1kmのハイパスフィルターを施して、小さな高度スケールの変動成分のみを抽出した。これの自乗値(分散)から求めた波動エネルギーを図5に示す。明らかに、高度20-25kmで重力波エネルギーが減少しており、しかも平均東西風と良く相関していることが分かる。この大気重力波が東西方向に伝搬しているならば、Critical level における相互作用、あるいは背景風によるドップラー効果の影響が考えられるが、ホドグラフを調べたところ、多くの波動が南北方向に伝播していた。 今後、さらに詳細なデータ解析を継続する必要がある。

 

DAWEX実験の遂行にあたり、オーストラリア気象庁、Monash大学、Adelaide大学をはじめ多くの方々からの有形無形の支援を得た。ここに厚くお礼を申し上げるとともに、この貴重なデータを十分に活用して、今後、良い研究成果を挙げるべく努力する。

 

 

 

図5 10月の観測から得られた平均場と重力波エネルギーの高度プロファイル。

  左から、南北風、温度、東西風、さらに高度スケールが3.1km以下の南北風・東西風擾乱の分散、ならびに温度分散から推定したPotential Energy