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第171回定例オープンセミナー資料

2013年10月16日

題目

建築分野における木材の利用 これまでとこれから
Promotion of timber-based materials in buildings —So far and from now on—

発表者

五十田博 (京都大学生存圏研究所・教授)

関連ミッション

  • ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

1. 環境的な側面からの木材の特徴

木材の計画的利用は森林を維持し、地球環境の保全をはかる上で重要である。木材の利用先に紙、建築利用などがある。紙パルプ原料としての木材の利用は 1442 万トンで、建築以外の素材利用は 312 万トン、そして建築資材としての利用は 1316 万トンであり、建築で紙パルプとほぼ同じ量が使われている。また、利用後の木材はリユースあるいはリサイクルが可能であり資源循環材料となる。建築構造材料の代表である鋼材もリユース、あるいは電炉鋼としてリサイクルが可能であるが、木材との決定的な違いは、木材は伐採した土地に再度植樹することにより、資材が無限に得られるところである。

2. 建築用材としての木材の特徴

このように環境面からは極めて優れた木材であるが、建築の構造材料としては短所がいくつかある。たとえば、節などの欠点を有し繊維方向によって強度が異なり均一な材料ではないこと、燃えること、そして腐ること、などである。強度をほかの代表的な建築材料である鋼材やコンクリートなどと比べると、一般に使われているものでは、木材 1、コンクリート 1、鉄 20 である。強度だけではなく、かたさも重要な因子であるが、木材 1 に対して、コンクリート 2、鉄 40 である。いかに鉄が優れた材料であるかがわかるが、木材の構造が鉄よりも弱いと位置づけるのは短絡的である。建築用材としての利用の際は、弱いものは断面を大きくし、耐力やかたさを同じになるように設計する。よって設計上の優劣はない。また、木材の利点として表 1 に示すように強度を比重で割った比強度が高いことがあげられる。つまり、片方を固定した状態でどこまで伸ばして壊れるかを競えば、木材がもっと伸ばせるということである。加えて、軽いということは加速度が作用する地震では F=ma を引き合いに出すまでもなく利点となる。ただし、質量が小さいということは風水害では不利になり、川の氾濫、高潮や津波に対しては脆弱である。

表 1 強度と比強度(強度/比重)の比較
五十田博: 第171回定例オープンセミナー資料(2013年10月16日) 表 1

3. これまでの利用

さて、このような木材を利用した木造建築は 1959 年に日本建築学会で禁止決議がなされている。日本建築学会は建築を代表する学会で現在 30,000 人を超える会員を有している。この禁止決議の直接的な引き金は伊勢湾台風とされるが、それ以前から耐火都市建設に向けて木造建築の排除が、耐火的な煉瓦造等の研究者を中心に進められており、決議としては「防火,耐風水害のための木造禁止」である。ただし、これ以降木造が禁止されたかかというとそんなことはない。たとえば、延べ床面積で比較すると木造は最近になって鉄骨造に抜かれたが、木造禁止とは無関係に 1959 年以降も延べ床面積、そして着工数を伸ばしてきた。この木造禁止の背景は、戦後の木材資源の枯渇といわれる。1951 年には「木材需給対策」閣議決定され(都市建築物等の耐火構造化、木材消費の抑制、未開発森林の開発)、同年に森林法制定も制定された。そして 1955 年には「木材資源利用合理化方策(抄)」などによって木材の利用抑制をはかられた。しかし、その後、外国から木材を買わなければならないなどの理由により、枠組壁工法のオープン化、集成材を用いた大規模木造の推進のための高さ制限の撤廃、延べ床面積、3階建て準耐火構造の新設などがなされてきている。これらは技術的に進歩にあわせ木造の範囲が拡大されたというより、政治的な判断によって木材の振興がはかられた結果である。

4. 現在、そして今後の利用

平成 22 年 10 月 1 日に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行された。この法律は国内林業の再生や森林の適正な整備、地球温暖化の防止に貢献することを目的として、低層の公共建築物について木質構造へ転換していく「木造化」、木造化が困難な場合でも内装などの木質化を促進する「木質化」の 2 つの施策により、木材の利用促進しようというものである。背景には戦後植林した木材の利用がある。また、これより 10 年ほどさかのぼるが、平成 12 年の建築基準法の改正で構造種別ごとに定められていたいくつかの規制、たとえば木造は 3 階建て以下とすることとか、が撤廃され、主要構造材料が木材であっても耐火部材にすれば、4 階建て以上の建築物を建ててもよいこととなった。いわゆる性能規定化である。それと前後して木材を用いた耐火部材の研究が建設省総合技術開発プロジェクト「木質複合建築構造技術の開発」で実施され、それ以降木造の耐火建築物がいくつか実現している(写真 1)。さらに CLT(クロスラミネッティドティンバー)など新しい材料も開発され、多くの木材の利用が今後も推進されていくことと思われる(写真 2)。現在は山にある木材はあまっている状態である。需要が多くなれば、利用が劇的に進めば、再度禁止決議がなされることもあるかもしれない。

五十田博: 第171回定例オープンセミナー資料(2013年10月16日) 写真 1
写真 1 5階建て耐火木造

五十田博: 第171回定例オープンセミナー資料(2013年10月16日) 写真 2
写真 2 CLTを用いた構造の振動台実験