第161回定例オープンセミナー資料2012年12月19日題目
植物由来の揮発性物質テルペンの気液界面反応 発表者江波進一 (京都大学白眉センター・特定准教授) 関連ミッション
要旨地球の気候変動を正しく理解・予測するためには大気圏と生物圏の複雑な相互作用を解明する必要がある。生物圏から年間数百 Tg という膨大な量が放出されているテルペンはその反応性の高さから容易に大気エアロゾルを生成し、また大気の HOx 濃度に重要な影響を与えている。しかしその大気寿命に関しては未知のファクターが多い。近年フィールド観測によって相当量のテルペンが植物表面に乾性沈着している可能性が示唆されている[Bamberger et al., 2011]。この場合、現在見積もられているテルペンの放出量は過大評価されていることになる。筆者は新規気液界面反応測定装置を用いて気体の α-ピネン、β-ピネン、リモネンがどのように酸性表面に吸着・変質するかを調べた。その結果、これらのテルペンは pH 4 以下の水の表面に吸着し、気液界面でオリゴマー化することが明らかになった(図 1)。pH 4 以下の弱酸性表面は実際の森林において十分に存在する条件であり、この反応が気体テルペン類の未知のシンクになっている可能性がある(図 2)[Enami et al., 2012a; Enami et al., 2012b]。本研究で得られた取り込み係数 から推測される実際の森林大気における影響度について議論する。 参考文献
Bamberger, I., et al. (2011), Deposition fluxes of terpenes over grassland, J. Geophys. Res., 116, 10.1029/2010jd015457. |
図 1 Positive ion mass spectra of pH 2.6 water microjets exposed to various [α-pinene] (A) or [β-pinene] (B).
図 2 Possible uptake of biogenic VOC on the surfaces of leaves.