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第150回定例オープンセミナー資料

2012年7月18日

題目

においの心理生理学的な効果と木材利用
Psychophysiological effects of aroma and wood utilization

発表者

松原恵理 (京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)

関連ミッション

  • ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

植物の花や葉、木材、果皮、果実といった部位には多くの揮発性有機化合物を含む。特有のにおいを構成するそれらの化合物は比較的低沸点の香気成分であり、植物にとって様々な有益な作用を及ぼすことが良く知られている。例えば、鳥や昆虫に受粉や種子の運搬を託す誘因作用、あるいは害虫や有害な菌から植物を守るといった忌避作用を担う主要な成分であり、植物が環境に適応して生きるために重要な化合物である。

人間もまた、芳香植物や精油(水蒸気蒸留等によって得られる植物由来の揮発性有機化合物)を種々な儀式や治療に利用してきた歴史は長い。治療に関しては、近代医学が発達する以前には人間の健康管理を担ってきたとも言われるほどである。部屋や空間を、花の芳香で充満させるという風習も古くからあった。さらに、現在よく知られているアロマセラピーは、生理心理学的、薬理学的効能の膨大な蓄積に基づいて成立していると言われる。つまり、植物由来の揮発性有機化合物は人間にとっても非常に有用であり、近年の研究で嗅覚を介した刺激が意欲や情動行動に深く関係することが推測されていることから、ますますその有効性に注目が集まっている。

再生産可能で生産量の多い木質資源は多くの優れた特性を持ち、循環型社会の実現に必要な生物資源である。特有の揮発性有機化合物は、抗菌や防虫に有用であるばかりではなく、樹種を特徴付け識別するための手掛かりとしても重要である。ヒトは木質資源由来の様々な揮発性有機化合物を認識できる感受性を持っており、木質資源由来の様々な揮発性有機化合物の機能性を明らかにすることによって、新たな付加価値を有した木材製品や木質材料を提案できるのではないかと考えている。

木の香りを嗅ぐことによって、落ち着く、心地良い感じがするといった心理学的な変化のみならず、心拍数の低下など生理学的にも鎮静の効果があることが報告されている。有効成分や濃度など、ヒトの心理生理応答との関係についてはまだ分かっていないことも多い。そこで、植物の香りの効果について研究してきた自身の研究結果を紹介しながら、香り成分を活かす新たな木材利用法について議論したい。