RISH header
RISH header 2 events
ichiran

第117回定例オープンセミナー資料

2010年7月21日

題目

審美性と施工性に優れた木質ラーメン構造の開発
Development of aesthetic and easy constructing joint system for timber portal frame

発表者

中谷誠 (京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)

関連ミッション

  • ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

はじめに

現在、一般住宅から中規模集合住宅や学校施設まで内部空間を大きく設けることのできる木質ラーメン構造が注目を浴びている。木質ラーメン構造は内部空間を自由にアレンジできることから使用用途の変化に柔軟に対応でき、長期間の使用に適した建築構造であると言える。ラグスクリューボルト(以下 LSB)は、施工性そして審美性に優れた木質ラーメン構造の接合具として開発された。LSB は大型のネジ型接合具で、木質材料に埋め込み使用することで、その引き抜き性能を期待する接合具である(図 1 及び写真 1 参照)。本研究では、LSB を用いたラーメン構造の開発研究とその構造体の解析方法の誘導を目的とした。

中谷誠: 第117回定例オープンセミナー(2010年7月21日) 図 1.
図 1 ラグスクリューボルトの概要

中谷誠: 第117回定例オープンセミナー(2010年7月21日) 写真 1.
写真 1 ラグスクリューボルトの全景

実験

実験は、LSB 単体の引き抜きおよび柱-梁接合部と柱脚接合部の性能評価について行った。LSB 単体の引き抜き実験は、集成材の繊維方向に対して平行方向もしくは直交方向の2方向について、埋め込み深さを段階的に変化させて行った(図 2,3 参照)。柱-梁接合部の性能評価実験は、3 条件の寸法の梁材を用いて、12 本ないしは 16 本のLSBで構成された接合部について行った。柱脚接合部は同寸法の柱材に、3 条件の LSB 配置(LSB: 4 本、5 本、8 本)について実験を行った。

中谷誠: 第117回定例オープンセミナー(2010年7月21日) 図 2.
図 2 LSB 引き抜き実験(繊維平行方向)

中谷誠: 第117回定例オープンセミナー(2010年7月21日) 図 3.
図 3 LSB 引き抜き実験(繊維直交方向)

中谷誠: 第117回定例オープンセミナー(2010年7月21日) 図 4.
図 4 柱-梁接合部の実験方法

中谷誠: 第117回定例オープンセミナー(2010年7月21日) 図 5.
図 5 柱-梁接合部の実験方法

実験結果と解析

LSB の引き抜き性能は、木質材料の繊維方向に対する埋め込み方向により異なり、繊維直交方向は繊維平行方向に比べて引き抜き強度は 2 割程度高いが、引き抜き剛性は 3 分の 1 程度でありことが分かった。また LSB 単体の引き抜き性能は、リベット接合のせん断理論であるフォルカーセン理論を応用することで推定可能であることが分かった。図 6 に繊維平行方向の引き抜き性能の実験値と理論値を示す。接合部の性能は、LSB 単体の推定引き抜き性能と木材の強度また接合部に組み込まれる接合金物の性能により推定可能であることを実証した(図 7 参照)。

中谷誠: 第117回定例オープンセミナー(2010年7月21日) 図 6.
図 6 LSB の引き抜き性能の実験値と推定値
補足 ◆: 実験値、-: 理論値

中谷誠: 第117回定例オープンセミナー(2010年7月21日) 図 7.
図 7 柱-梁接合部の実験値と理論値

今後の方針

従来の接合部では、LSB を繊維方向に対して平行方向もしくは直交方向に埋め込み使用していた。これにより柱-梁接合部では、柱材に埋め込まれる LSB(繊維直交方向)が埋め込み深さを柱材の幅に制限され、また引き抜き剛性が繊維平行方向に比べて約 3 分の 1 と低いことから、接合部全体の性能を低下させる原因となっていた。また、建築物が多層化もしくは大規模化することで、接合部の柱材において部材強度を超えるせん断力が発生することが予測される。そこで、LSB を部材に対して傾斜方向に埋め込みことで、柱側の LSB の引き抜き性能を改善し、接合部におけるせん断破壊の抑制効果を期待できる接合部の開発を行う。