RISH header
RISH header 2 events
ichiran

第45回定例オープンセミナー資料

2006年12月20日

題目

炭素材料のナノ構造制御

発表者

西澤節 (産業技術総合研究所 固体高分子形燃料電池先端基盤研究センター・招聘研究員)

要旨

炭素材料は化学的に非常に安定で、例えば、強酸・強アルカリにもほとんど侵されない、また不活性雰囲気下では 3 000 ℃以上の高温まで耐えうるといった優れた特徴を有する。しかしながら、製法の基本は不活性雰囲気下で有機物を高温で処理し、それにともなう重合・分解反応を利用するものであるため、反応の精密な制御は困難であり、従って得られる炭素の構造を設計できないと言う問題を抱えている。現在ナノテクノロジーの最先端として注目されているフラーレンやナノチューブもその例外ではない。その整った構造と相反して、主たる製法は煤を作りその中からフラーレンやナノチューブを拾い集めていると言っても過言ではなく、制御への道は遠いのが現状である。上記のように炭素は有機物を不活性雰囲気下で熱分解・熱重合させることにより得られるが、この際、もし有機物の構造を維持しながら、あるいは一定の法則に従って炭素に変換することが出来れば、炭素材料の構造制御が可能になるはずである。構造制御の重要性について考えてみると、例えば活性炭について考えてみると、現状の活性炭は一般に小さなポアから大きなポアまであらゆるサイズのポアが存在しているため、種々の物質を吸収することが出来るが逆にポアの利用度は非常に低いものとなっている。もし、単一のポアにすることが出来れば特定の物質のみを多量に吸着したり、分離したりできるようになる等のことが考えられ、その価値は極めて高いものとなる。

炭素材料の構造制御は困難であると記したが、今から振り返ってみると 30 年以上前からその萌芽が存在していたことに気づかされる。そして、構造を自在に制御するということからはまだまだほど遠いにしろ、ここ 10 年ほどの間に研究は急速に進歩してきている。例えば、ガラス状炭素は比較的揃った閉気孔構造を有しているが、この構造を利用し閉気孔になる直前で熱処理を止めることにより分子篩カーボン膜を作ることが出来る。また、アルマイト(電解酸化により作られる酸化アルミニウム膜)やゼオライトの空孔内にカーボン薄膜を形成させることによりナノチューブやゼオライトの周期性を有するカーボンを調整することが出来る(鋳型炭素化)。熱硬化性樹脂からなるエアロゲルを炭素化するとエアロゲルの構造を反映したメソ孔を有する炭素材料(カーボンエアロゲル)が得られる。そこで、エアロゲルのメソ孔サイズを制御することにより、サイズの異なったメソ孔を有する炭素を得ることが可能となる。他にもいくつかの方法が報告されておりそれらにも言及する予定である。