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第42回定例オープンセミナー資料

2006年11月22日

題目

生存圏科学における放射性炭素14利用の可能性

発表者

陀安一郎 (京都大学生態学研究センター・助教授)

共同研究者

  • 角田邦夫 (京都大学生存圏研究所・助教授)
  • 吉村剛 (京都大学生存圏研究所・助教授)
  • 武田博清 (京都大学大学院農学研究科・教授)
  • 柴田康行 ((独)国立環境研究所・化学環境研究領域長)
  • 米田穣 (東京大学大学院新領域創成科学研究科・助教授)
  • 兵藤不二夫 (総合地球環境学研究所・プロジェクト研究員)

関連ミッション

  • ミッション 1 (環境計測・地球再生)
  • ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

生態系の炭素循環の起点は植物の光合成であるが、ある時点で固定された炭素は、ある部分は食物連鎖(食物網)を通じて伝って直ちに流れ、ある部分は木の幹のように長期に存在し生態系の構造を作る。また、土壌中の炭素のように非常に長い滞留時間を持っている炭素もある。このように、生態系の中には滞留時間の異なる炭素が存在するという時間的多様性がある。ところが、近年における化石燃料の使用や森林伐採などの人為的炭素循環の改変がこの自然界の循環をみだしていると考えられる。

放射性炭素 14 (14C) は、宇宙線起源の 14C の崩壊速度を利用して「歴史年代」の解明に用いられてきたが、本研究では大気中での核実験で生成された 14C をトレーサーとする。大気中の 14CO2 は、その年の光合成により固定された有機炭素(植物体)の 14C 値に保存される。この有機炭素を利用した消費者の体は、この 14C 値 (Δ14C) を持つため、利用した有機炭素が何年前の光合成由来のものかが分かる。この核実験由来の 14C は大気核実験の停止以降単調に減少しており、いわば地球規模のトレーサー実験になっている。これを利用して、炭素循環の改変に対し、陸域生態系および水域生態系がどのような時間スケールで応答するのかを実証的に検証することが可能になる。

近年食物網解析の標準的手法になった炭素・窒素安定同位体解析 (δ13C、δ15N) に加え Δ14C を用いることにより、食物網構造の中に「時間軸」を導入し、食物網構造の時間軸依存性を検証することができる。本発表では、Tayasu et al. (2002) や Hyodo et al. (2006) の研究を紹介し、集水域をターゲットにした今後の研究の発展性について議論したい。

文献

Tayasu, I. , Nakamura, T, Oda, K., Hyodo, F., Takematsu, Y. and Abe, T.   Termite ecology in a dry evergreen forest in Thailand in terms of stable- (δ13C and δ15N) and radio- (14C, 137Cs and 210Pb) isotopes. Ecological Research 17: 195–206 (2002)

Hyodo, F., Tayasu, I. and Wada, E.   Estimation of the longevity of C in terrestrial detrital food webs using radiocarbon (14C): how old are diets in termites? Functional Ecology 20: 385–393 (2006)