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第14回(2005年度第6回)定例オープンセミナー資料

2005年9月21日

題目

遺伝子発現を指標としたスギの材質特性の解明

発表者

小島陽一 (京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)

共同研究者

  • 小松幸平 (京都大学生存圏研究所)

関連ミッション

  • ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

スギ (Cryptomeria japonica D. Don) は日本固有の種であり,重要な造林樹種の一つである.しかし,近年では外国材の輸入によりその需要が大きく減少しているというのが現状である.スギは一般的にヤング係数が低く,変形しやすいという性質があるため,用途が限られているのも一因であろう.このようなスギを高度利用できないかということを前提として本プロジェクトではスギの材質特性を遺伝子レベルで解明することを最大目標とした. スギを扱った遺伝子レベルでの研究は花粉を作らないスギの開発などが行われているだけで,他の材質や物理特性に関する研究はほとんど行われていない.本研究で用いたヤマグニスギは古くから京都府を代表する優良品種であり,本研究で得られる成果はスギ育種の高度化,失われつつある森林資源の効果的な遺伝的管理手法の構築を可能とし,地場産業としての林業さらには我が国全体における林業の活性化に貢献するものと期待できる.

ところでヤマグニスギを提供していただいた(有)中西至誠園の中西信市郎氏から苗木の段階での針葉の角度と将来の樹幹の通直性に関する興味深い情報を得た.それは『苗木の段階での針葉の角度が外向き(開いている)である個体は成長過程で曲がってしまうのに対して,針葉の角度が内巻き(閉じている)である個体は将来的に優れた材を得ることのできる真っすぐな樹幹を形成する』というものである(下図).このことは長年苗木事業に携わっている業者の方々の経験によるものであり,科学的な裏づけはなされていない.そこで本研究では 3 年生ヤマグニスギ苗木を用いて,上述の経験則を遺伝子発現の観点から明らかにすることを目的とした.

小島陽一: 第14回(2005年度第6回)定例オープンセミナー(2005年9月21日)
図: ヤマグニスギの針葉の様子

実験内容および経過

形状の異なる針葉を持つ 2 種類のヤマグニスギの若葉からキットを使って RNA を抽出した.オリゴ dT プライマーを用いて逆転写した cDNA を鋳型にし,12 mer のランダムプライマーを用いて PCR を行っている.電気泳動を行ってバンドパターンを観察しているが,PCR の条件設定(温度設定や用いる酵素)によってバンドパターンに差が生じてしまう.現段が確実にとれる PCR の条件を模索しているところである.また,針葉の角度の違いが植物ホルモン(オーキシン)によるものであるかどうかを検討する実験を行っている.ラノリンとナフタレン酢酸の混合物を用意し,若葉を切り取った枝の先端に塗布し,アルミホイルで覆った.10 日ごとに針葉の角度に変化が見られるかどうか確認している.

今後の実験計画

PCR 条件の確立を目指し,2 つの形質間における特異的なバンドパターンを得る.また苗木の段階での針葉の角度と物理的特性(例えば弾性率)に相関が見られるかどうか検討する予定である.