京都大学生存圏研究所 居住圏環境共生分野教授 今村祐嗣 研究トピックス

木材の風化 

 古い寺社仏閣の雨ざらしの場所にある木材は、彫刻刀で削ったように表面が粗くなっているのを目にすることがある。木材はその化学構造から非常によく太陽光を吸収する物質である。構成成分のうち、とくにリグニンやポリフェノール類からなる抽出成分は、紫外線を吸収しやすい構造をもつため、光分解作用を受けやすい。分解された成分の多くは水に溶けやすく、雨水により容易に木材表面から流れ出る。さらに溶出後に現れる内部の新鮮な部分も同様に光分解を受け、結果として木材表面は早材部を中心に劣化が進行する。これは風化と呼ばれる現象であり、針葉樹材の風化速度は100年で5〜6mmともいわれている。
 風化した表面には、その後、薄い灰色からカビなどの付着による斑点状の黒色のシミが発生し、これが進行して最終的には樹種に関係なく暗灰色化する。これらのカビなど変色菌は、いわゆる腐朽菌のように木材の強度を低下させることはないが、光分解で低分子化した木材成分を好む。また、カビ類はたとえ塗装してあっても微小なピンホールなどから塗膜を通過し、その下に繁殖することもある。


屋外で暴露した木材 細胞間層のリグニンの分解
屋外で暴露した木材 細胞間層のリグニンの分解