生理・生態的特徴に基づくシロアリの総合防除法の開発

シロアリの採餌挙動の特徴に基づく低環境負荷型防除法

木造家屋の大敵であるシロアリに対する防御は、安心して暮らせる居住空間の確保に欠かせないものです。シロアリの採餌挙動や生活習性を利用して化学物質への依存を極力少なくできる防除法として、ベイト工法や回収型土壌処理ユニットの効果を研究しています。

シロアリ巣の空調機能を活かしたエネルギー自給型住環境の創成

木造住宅の持続的なエネルギー自給型住環境の創成は新たな研究トピックスです。自然界における生物の快適生活空間を学びながら、自然エネルギー利用と効率的断熱工法によるエネルギー自給型住宅とそれらからなる集落形成の可能性を探求します。


木質資源とシロアリのかかわりのフイールド調査

木質資源とシロアリのかかわり

シロアリは米国・日本・中国・オーストラリアなどでは木材や木質材料の大害虫として嫌われ者ですが、熱帯・亜熱帯地域では、枯木・枯枝・落葉などの植物遺体(リター)の分解者として大変重要な役割を持っています。

私たちは、こういったシロアリの生態学的重要性に注目し、今後地球上の木質資源の要になると考えられる熱帯大規模人工林における樹木とシロアリの関わりについて、種の多様性やエコシステムエンジニアとしての役割を中心に、国内外の研究者と共同研究を行っています。


インドネシア・パプア州における植林木のシロアリ被害

インドネシア天然林における行軍シロアリ

乾材害虫の生態学とその防除

乾材害虫の生態特性とその防除

ヒラタキクイムシは特定の広葉樹の辺材を食害する重要な乾燥木材の害虫である。成虫が産卵を行うのに適した直径の道管をもつ樹種で、かつデンプン量の多い辺材部を食害する特性がある。南洋材の輸入量の減少とともに、やや被害に対する関心が低下してきた状況にあったが、最近、住宅の高気密化と冬期暖房の普及、低ホルムアルデヒド放出の建材の一般化などの影響で再び発生が増加してきている。しかし、南洋材の輸入の減少からわが国におけるヒラタキクイムシの被害に関する研究はなおざりにされる傾向にある。われわれは、ヒラタキクイムシによる木材食害様式を明確化して新たな防除法の開発を目的として行っている。

この研究プロジェクトでは、木材中におけるヒラタキクイムシの幼虫、蛹、成虫期間の確定、ヒラタキクイムシのライフサイクルの環境温度による影響の検討、成虫の脱出位置の明確化、国産木材の被害特性の明確化、ホルムアルデヒド放出量による影響解析、等に取り組んでいる。


ヒラタキクイムシの人工飼育

ヒラタキクイムシの幼虫

新規の低毒性木材保存薬剤の開発

低毒性木材保存剤の開発

研究室では、環境負荷の低い低毒性木材保存剤の開発にも取り組んでいる。ここでは、2007年に学位を取得した黄 元重君の学位論文の内容を紹介してみたい。

論文のタイトル:

Potential of didecyldimethylammonium tetrafluoroborate (DBF) as a novel wood preservative
(ジデシルジメチルアンモニウムテトラフルオロボレイトの次世代木材保存剤としての検証)

論文の内容:

次世代木材保存剤として期待されるジデシルジメチルアンモニウムテトラフルオロボレイト(DBF)と現在汎用されているデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)との木材保存性能を比較した。DBF注入処理木材の生物劣化抵抗性は樹種によって異なったが、防腐・防蟻性はDDAC注入処理木材と同等以上であり、高い木材保存性能を確認できた。注入処理木材の保存性能持続性を左右する溶脱抵抗性を、耐候操作後の処理木材中のDBFあるいはDDAC残存量から比較したところ、DBF溶脱量はDDACよりも少なかった。木材抽出物とDBFあるいはDDACとの複合(相乗)効果が認められ、2種の木材保存剤間では差がなかった。また、複合(相乗)効果の程度は樹種によって異なった。したがって、供用期間中の保存性能を維持するには、樹種の自然耐久性を考慮して吸収量を決定すべきことを実証した。これらの結果から、次世代木材保存剤としてのDBFの性能を検証できた。


複合化処理などによる木材の高耐久化技術の開発

木材および木質材料の長期耐用化保存処理方法

木質系材料の保存処理は薬液による注入処理が一般的ですが、処理工場からの排水管理や処理廃材の処分・リサイクルなどを解決しなければなりません。超臨界二酸化炭素を利用して防腐・防虫に有効な成分を浸透させる方法として実用の可能性があることを実証して、21世紀型処理方法としての確立を目指しています。


効率的な木材の保存処理法の開発

腐朽材のフラクトグラフィー

木材腐朽菌は褐色腐朽菌と白色腐朽菌に大別される。このうち褐色腐朽菌は針葉樹材を特に劣化させ、セルロースを選択的に分解し大きな強度低下を引き起こすことから建築物等の主要な劣化微生物である。白色腐朽菌はセルロースとリグニンとを同時に分解するため強度低下に与える影響は褐色腐朽菌よりも小さいが、広葉樹材をより好み、樹木の腐れなどでは一般的に認められる菌類である。

われわれは、木材の腐朽による強度への影響を、褐色腐朽菌と白色腐朽菌の木材成分の分解様式と関連させ、腐朽した木材の組織構造の観察から明らかにしている。


木材および木質構造体の劣化診断法と合理的なメンテナンス法の開発

シロアリを匂いで検出

フランスやイタリアの人にはトリュフが究極の香りをもつキノコとして珍重されている。見つけるのが困難な地下生菌類であるトリュフを探すのには牝のブタが活躍するが、キノコの香りが牝ブタを性的に誘引するらしい。ブタだけでなく犬やハエも有力な発見者であるようだ。これはよく似た事例で犬が地中に巣をつくり生活するシロアリを見つけるという。この犬はビーグル犬であるが土の中に生息するシロアリの発見に役立っている。

われわれは、ピーグル犬にならい、匂いによるシロアリ探査を試みている。確かにシロアリを飼育している部屋に入ると、いわゆる“シロアリ臭”がするので、何とかこれを利用してシロアリ集団を発見できないかと思いついたわけである。

そこで、シロアリに由来する代謝ガスに注目し、実際に実験を行った結果、シロアリが活動することによって水素、二酸化炭素、メタンの濃度が上昇することを明らかになった。住宅の床下などの構造上主要で、かつ腐れやシロアリ被害などが発生しやすい箇所に『マルチにおい検出センサ』を取り付け、そこから発信する劣化情報を集中管理して、きわめて早期に、かつ信頼度の高い劣化診断を判定するシステムを構築することを描いている。

この研究は、京都大学農学研究科森林科学専攻林産加工学分野との共同研究である。

木造建築物の非破壊的は劣化診断法の開発

住宅の耐久性向上の手法としては、低毒性保存薬剤の使用や薬剤の使用量の削減、シロアリの生理・生態の特性を利用した物理的防除法の模索など、ますますレスケミカルの方向に向かっている。一方で、木材の低い環境負荷性や高いアメニティ感覚からエクステリアとして用いていこうとする動きも強い。そこでは、腐朽や虫害などの劣化が発生しているのか、あるいはその進行がどの程度であるかを的確に知ることが、重要になってきている。信頼性が高い劣化診断法の確立は、効率的な保守管理にも役立つ。

われわれは、アコースティック・エミッション(AE)を利用したシロアリ被害の非破壊的な検出方法に取り組んできた。AEは固体材料の微小な変形や破壊によって発生する超音波のことで、シロアリ職蟻が木材を齧ることによって発する超音波をモニタリングしようというわけである。このシロアリ聴診器は、圧電型センサ、ろ波、増幅、弁別、データ処理部から構成されているが、もしシロアリが木材を齧ればAE波が検出され、食害活動が激しいほど発生するAE事象数も増加してくる。実際の住宅や文化財建築物の蟻害診断を行う上で有力な診断武器になっているが、また、リモートセンシングで測定できることから、木材加害昆虫の食餌活動の変動や環境条件の影響解析など、行動生態を明らかにする上にも役立っている。

この研究は、京都大学農学研究科森林科学専攻林産加工学分野との共同研究である。


木材の耐候性の解析と向上技術の開発

木材の化学修飾による機能性向上

木材の細胞壁の非晶部分には活性な水酸基が数多く存在しており、外からの水分がここに吸着して木材の寸法変化を引き起こす。もしこの水酸基をほかの安定な官能基で置き換えると、水分子がくっつく余地が無くなって吸水や吸湿による寸法変化が抑えられ、また、腐朽菌の分泌する酵素の攻撃に対しても、その作用を受けない分子構造になる。

木材を無水酢酸と高温で反応させるアセチル化処理では、どの腐朽菌に対してもほぼアセチル化率が20%を越えると、劣化による質量減少が認められなくなる。しかし、シロアリに対する抵抗性は加害するシロアリの種類によって異なり、ヤマトシロアリはほとんどこれを食害しないが、イエシロアリは無処理木材に比べると少ないものの、これを食害する。しかし、アセチル化木材だけを食餌とした場合は、イエシロアリといえども日を経るにしたがい死亡する。特に興味深いのは、スターベーション(食餌を与えない)の場合と同様な生存個体の減少傾向を示すことである。

イエシロアリの腸内には3種類の原生動物が共生しており、セルロースの分解にはこれらの原生動物が関与しているといわれている。しかし、スターベーションの場合もアセチル化木材を食害した場合も、腸内に原生動物が全く認められない状態になった。シロアリは当初アセチル化木材を食餌として錯覚して食害するが、原生動物がこれを分解代謝できないため、原生動物の消失→食物補給の遮断→餓死へと至るのであろう。

こういった木材の化学修飾による機能性向上とその発現メカニズムの研究を、低分子フェノール樹脂処理、熱処理木材等について行っている。


木質系文化財の劣化調査と保存対策

木材の風化と耐候性の向上

古い寺社仏閣の雨ざらしの場所にある木材は、彫刻刀で削ったように表面が粗くなっているのを目にすることがある。木材はその化学構造から非常によく太陽光を吸収する物質である。構成成分のうち、とくにリグニンやポリフェノール類からなる抽出成分は、紫外線を吸収しやすい構造をもつため、光分解作用を受けやすい。分解された成分の多くは水に溶けやすく、雨水により容易に木材表面から流れ出る。さらに溶出後に現れる内部の新鮮な部分も同様に光分解を受け、結果として木材表面は早材部を中心に劣化が進行する。これは風化と呼ばれる現象であり、針葉樹材の風化速度は100年で5〜6mmともいわれている。

風化した表面には、その後、薄い灰色からカビなどの付着による斑点状の黒色のシミが発生し、これが進行して最終的には樹種に関係なく暗灰色化する。これらのカビなど変色菌は、いわゆる腐朽菌のように木材の強度を低下させることはないが、光分解で低分子化した木材成分を好む。また、カビ類はたとえ塗装してあっても微小なピンホールなどから塗膜を通過し、その下に繁殖することもある。

われわれは、木材の風化機構の解明と耐候性向上の研究に取り組んでいる。


木材劣化微生物を利用した環境修復システムの開発

木材劣化微生物を利用した環境修復システムの開発

生物が木材を消化・吸収するためには、微生物の助けが不可欠です。つまり、自分でセルラーゼやリグニン分解酵素を分泌する木材腐朽菌類とは異なり、木材劣化生物のもう一方の雄であるシロアリは、原生動物やバクテリアとの消化共生系を築くこと(シロアリの腸内にこれらを住まわせること)によって、木材を栄養源とすることに成功しました。

私たちは、こういった菌類、原生動物、バクテリアなどの能力を学び、その力を人間社会に生かすための研究を行っています。

具体的には、シロアリが生成する水素・メタンなどバイオガスの効率的利用や環境汚染物質の木材劣化生物によるバイオ・プロセッシングについて成果を挙げつつあります。


イエシロアリの消化管に共生する原生動物

イエシロアリ消化管より単離した水素生成バクテリア

保存処理廃材の環境保全型リユース・リサイクルシステムの開発

保存処理廃材の環境保全型リユース・リサイクルシステムの開発

木材は古くから主要な部材として利用されてきました。ところが現在、建造物の耐用年数が満期を迎えるに従って、防腐処理された木材が大量に発生しつつあります。保存処理廃材を効率的に無害化するためのミニマム・エミッション技術開発は、循環型社会構築のためにきわめて重要です。


熱変換による先端的高機能木質系炭素材料の開発

熱変換による先端的高機能木質系炭素材料の開発

通常、カーボンナノチューブは、石油や石炭などの化石資源から生成しています。しかし、木材をある条件下で木炭にし表面を観察したところ、多層のカーボンナノチューブの生成が認められました。木材からカーボンを経て、黒鉛やダイヤモンド、カーボンナノチューブなどをつくり、そのメカニズムを明らかにすることを目標としています。


ウッドカーボンのナノ構造解析

ウッドカーボンナノ構造解析

電子顕微鏡を用いた微細構造の解析から、700℃で炭化したスギ木炭中にナノダイヤモンドやオニオン状フラーレン構造が混在していることがわかりました。これらの構造のメカニズムを明らかにすることは、木炭の持つ様々な特性を説明するだけでなく、新しい機能を付与する上で重要と考えています。


木質複合材料の難燃性/防火性能の向上

木質複合材料の難燃性/防火性能の向上

生活安全性を高めるために木材の難燃性向上は必要不可欠です。新しい処理技術の開発や他大学の研究者との共同研究によって木質複合材料の難燃性の向上を図っています。


宇宙空間における木材の利用

宇宙空間における木材の利用

これまで電波応用や宇宙用途にはほとんどかえりみられなかった新しい軽量素材として木材に注目し、宇宙電波応用のための基礎技術開発を行うとともに、純粋に木質から作成する非常に導電率の高い材料を宇宙用として開発する共同研究を行っています。