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2016(平成28) 年度 生存圏科学 ミッション研究 13

更新日: 2016/08/31

研究課題

イチジク乳液のオミックスと生化学の総合的解析 ~独自な二次代謝機能を中心に~

研究組織

 代表者 北島佐紀人(京都工芸繊維大学)
 共同研究者 今村大樹(京都工芸繊維大学)
矢崎一史(京都大学生存圏研究所)
棟方涼介(京都大学生存圏研究所)
関連ミッション
  • ミッション1 環境診断・循環機能制御

研究概要

背景

化石資源に依存しかつ生存圏を汚染する従来の化学農薬に代替可能な、新しい病原菌・害虫駆除技術が農業に求められている。

目的

本研究では、植物の乳管細胞と呼ばれる生体防御に特化した細胞に着目し、その細胞質成分(“乳液”)に含まれる未知の防御システムを理解し、抗病原菌・抗害虫GM植物等に応用可能な新規遺伝子ツールを提供する。

特色

モデル植物に乳液が存在しないことも理由となり、乳液の独自な防御システムはほとんど未解明である。乳液生理を解明することで、モデル植物の研究者が見落としてきた新規抗菌・抗昆虫システムの発見が期待できる。本研究が研究材料とするイチジク(クワ科)の乳液においては、毒性成分フラノクマリン類の生合成が、報告されたセリ科のフラノクマリン生合成系と異なるとの予備的知見を得たので、これを足掛かりにユニークな研究の展開が期待できる。

目標

研究期間においては、トランスクリプトーム・プロテオーム・メタボローム解析と組換え酵素による解析を通じて、イチジク乳液の防御システムの全容、特に防御物質フラノクマリン代謝の多様性を理解する。

生存圏科学とのかかわり:見出される新規防御関連遺伝子を活用して、化石資源由来の農薬に依存しない永続的な植物による物質生産の実現に貢献する。植物の乳液の主要成分は、植物種間あるいは器官間で極めて多様である。パラゴムノキの乳液のイソプレノイドは天然ゴムの工業原料であり、鎮痛剤のモルヒネはケシの乳液より抽出される。このように乳液は多様な有効成分の原料として、広く人間活動に役立っている。近年は、抗菌性・抗昆虫性タンパク質が乳液に多く含まれることも明らかになった。本研究が提供する乳液のオミックスデータは、イチジクだけでなく、他の植物の乳液における有用物質生産と永続的な農業の実現を実現する新規な遺伝子ツール発見のための基礎的データになる。

準備状況

国内で栽培が容易なイチジクを研究材料とする。イチジクの未熟果実より乳液を採取し、RNA-seqを実施し、de novo アセンブリによりRNA配列データベースを構築した。イチジクの3つの器官の乳液を用いてLC-MSによるメタボロームデータを取得した。小規模な2D-PAGE / 質量分析を行い、3つの器官の乳液間でタンパク質成分が異なることを見出した。

本年度の実施計画

(1)イチジクの3つの器官の乳液を用いてRNA-seq解析を実施し、トランスクリプトームの比較解析により各器官の乳液の生理機能の差異を明らかにする。フラノクマリン類代謝への関与が期待される遺伝子群をホモロジーサーチ等を通じて抽出するとともにそれぞれの乳液で活発な代謝経路を推定する。(京都工芸繊維大)
(2)イチジクの3つの器官の乳液を用いてLC-MSによる高精度のプロテオーム解析を実施し、上記(1)のRNA解析の結果も合わせて器官間における生理・二次代謝の差異を明らかにする。(京都工芸繊維大)
(3)上記(1)(2)の結果に基づき、フラノクマリン代謝関連のcDNA候補をRT-PCRクローニングして、その一次構造を明らかにする。(生存圏研究所)
(4)取得したcDNAを用いて組換えタンパク質を生産し、それらがフラノクマリン代謝に関与する可能性を生化学的に検証する。(生存圏研究所)
(5)昨年度までに取得したイチジク乳液のメタボロームデータを詳細に解析して、またLC-MSの再分析等も実施して、フラノクマリン関連代謝物の同定と定量を行い、器官間の乳液における差異の有無を検討する。(生存圏研究所)
(6)以上の結果を総合的に踏まえて、イチジク乳液におけるフラノクマリン類生合成経路の全容を解明し、セリ科との比較を通じて両植物における独自進化の可能性とその意義を検討する。イチジク乳液生理の器官間差異の理解を通じて防御システムの多様性を理解するとともに、GM植物等に応用可能な新たな遺伝子ツールを提案する。

北島佐紀人: 2016(平成28)年度生存圏ミッション研究 図

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2016年8月8日作成,2016年8月31日更新

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