研究課題
放射性セシウム(137Cs)/安定セシウム(133Cs)比を用いた土壌や作物の特性評価
研究組織
代表者 | 二瓶直登(東京大学大学院農学生命科学研究科) |
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共同研究者 | 杉山暁史(京都大学生存圏研究所) 上田義勝(京都大学生存圏研究所) 伊藤嘉昭(京都大学化学研究所) |
関連ミッション |
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研究概要
東京電力福島第一原発事故により、森林、居住地域とともに、食糧生産の場である広大な農耕地も放射性物により汚染した。表土剥ぎなどの除染後、このような地域でも農業が再開されるが、その際に必要なことは、農家や消費者に対し見えない放射線の不安を払拭する科学的な手段である。そのためには、放射性セシウムの作物の吸収特性や、土壌中での挙動を把握することが重要である。
福島県が原発事故後行っている農産物のモニタリング結果によると、放射性セシウムの移行係数は作物の種類によって異なり、作物が吸収できる土壌中のセシウム形態の違いが起因していると考えられる。つまり、鉱物や有機物表面に吸着している弱い吸着のセシウムのみしか吸収できない作物や、鉱物の層間に入り込み土壌と強い吸着をしているセシウムまで吸収できる作物が存在すると考えられる。
また、原発事故で降下したセシウムは放射性セシウム(134Cs、135Cs、137Cs)であるが、土壌中には鉱物由来の安定セシウム(133Cs)も存在している。放射性セシウムも安定セシウムも化学的挙動は同じであり本来同じ挙動を示すはずであるが、福島県の一部の土壌では、酢酸アンモニウムで抽出する割合は放射性セシウムが安定セシウムより高いことが示されている。これは、5年前に降下した放射性セシウムが土壌(おもに粘土鉱物)に固定されずに有機物や鉱物表面に存在している割合が多いことを示している。
このように、福島県を土壌用いて、土壌型別の放射性セシウムと安定化の違いや、作物体の放射性セシウム/安定セシウム比を比較し作物種別の吸収特性(土壌中のどの分画のセシウムまで吸収できるか)を明らかにする。
1)土壌型別のセシウム吸着状況の把握
福島県にて土壌型(灰色低地土、沖積土等)の違う圃場から土壌の採取を行い、pH7・1N酢酸アンモニウム溶液の抽出液(交換性陽イオンの抽出に用いられる抽出)、および全分解液の土壌中放射性セシウム(137Cs)と安定セシウム(133Cs)を測定し、土壌型ごとの放射性セシウムと安定セシウムの抽出率を比較検討する。これにより土壌への放射性セシウムの固定化状況を把握する。また、乾湿の繰り返しや水分条件を検討することにより、土壌風化を促進し、放射性セシウム/安定セシウム比の変化を、土壌型別に 検討する。風化促進により、どのような要因(有機物含量、粘土組成)が固定化を促進、阻害するかを明らかにする。
2)作物のセシウム吸収特性
1)の結果より固定化が進んでいない土壌にて、異なる複数の作物を栽培し、作物体中の放射性セシウム/安定セシウム比を比較する。作物ごとのセシウム吸収特性(吸収しやすいセシウムのみ利用しているのか、土壌に固定されている利用しにくいセシウムも吸収できるのか)を明らかにする。作物種別の吸収特性を明らかにすることで、将来の高濃度汚染地域での作付けの可能性や評価体制などの検討にもつなげる。
本課題は大学間連携による研究の相乗効果を発揮させるべく、東京大学、京都大学それぞれの長所を活かした試験を行い、データ比較をしながら原理解明を行う予定である。営農再開や安全な農産物生産に向けた対策を講じる本課題は、震災復興に向けた研究だけでなく生存圏全体の問題として、世界の食料問題や物質循環へも波及する重要な研究課題の一つである。
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2016年8月5日作成