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2015(平成27) 年度 生存圏科学 ミッション研究 8

更新日: 2016/01/05

研究課題

3周波GNSS受信機を用いた電離圏観測及び衛星測位への影響に関する研究

研究組織

 代表者 大塚雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所)
 共同研究者 Prayitno Abadi(名古屋大学太陽地球環境研究所)
衛(京都大学生存圏研究所)
享(電子航法研究所)
横山竜宏(情報通信研究機構)
西岡未知(情報通信研究機構)
関連ミッション
  • ミッション 1 (環境計測・地球再生)
  • ミッション 3 (宇宙環境・利用)

研究概要

1. 背景

人類は、文明の発達とともに、その活動の場を地球周辺の宇宙空間に拡げつつある。GPSをはじめとする衛星測位(GNSS)も、人類による宇宙利用の一つであり、カーナビや船舶、航空機の支援システムなど様々な分野においてアプリケーションが生まれており、今後もますます発展していくと考えられる。この発展のためには測位精度の向上が重要な課題であるが、電離圏は誤差の原因となる。このため、電離圏の環境を理解すること、また、電離圏及びそこに生起する擾乱現象が電離圏を透過する電波に対してどのような影響を及ぼすかを正しく理解することは重要である。

2. 目的

GNSSは、地球を周回する人工衛星から送信された電波を受信することによって測位を行っている。測位誤差の原因となる電離圏の影響を除去するため、これまでは2周波数の電波が用いられてきた。しかし、一方の周波数の電波には制限があるため、第3の周波数(L5; 1176.45 MHz)の準備が近年進められている。

一方、2周波のデータから電波の伝搬経路中にあるプラズマの積分量(Total Electron Content; TEC)が求められることから、GNSS受信機の普及とともにTECを用いた電離圏研究が盛んに行われるようになってきた。しかし、GNSSデータから求められたTECには、送受信機のハードウェアに起因するバイアスが含まれており、TECの絶対値推定に10 %程度の誤差をもたらしている。この誤差は、電離圏構造の詳細な観測の妨げになっている。本研究では、3周波の電波を用いることにより、絶対値TECを誤差なく推定できることを実観測データを用いて証明し、さらに、電離圏によるGNSSに対する影響が大きな赤道域においてL5信号に対する電離圏擾乱の影響を調べることを目的とする。

3. 方法

  1. 電子航法研究所が国内(石垣と調布)に設置している3周波GNSS受信機のデータに、Spits and Warnant[2008]で述べられている、3周波の信号から周波数間バイアスを推定する方法を適応し、TECの絶対値を求める。
  2. 上記の1. で求められたTECの絶対値を従来の方法で求めたものと比較し、それぞれの方法の推定精度を明らかにする。
  3. 3周波GNSS受信機を赤道域に位置するインドネシア・スマトラ島の京都大学・赤道大気レーダーサイトに設置し、観測を行う。赤道域における観測データを用い、以下の2項目の研究を行う。

(1)TECの空間勾配が従来のTEC絶対値の推定方法に与える影響の調査

従来のTEC絶対値推定方法では、ある水平方向の範囲(数100 kmから千km)においてTECの空間変化がない、と仮定する必要がある。この仮定は、中緯度においては比較的成立するが、赤道域においては、赤道異常(磁気赤道よりもその±15度程度高緯度側において電離圏プラズマ密度が高くなる現象)やプラズマバブル(東西方向に100 km程度の幅で局所的に電離圏プラズマ密度が減少する現象)などTECの空間変化が大きくなり、仮定が成り立たないことが多い。従って、従来の方法では、TECの推定精度が悪いと考えられるが、これまで評価する方法が無かった。3周波のデータを用いて得られたTECの絶対値と比較することにより、どの程度の誤差があるかを明らかにすることができる。3周波に対応した受信機・衛星が普及するにはまだ年月がかかることから、2周波データで求めたTECの推定精度を明らかにすることは価値がある。

(2)L5信号の電離圏シンチレーションに対する影響の調査

L2信号は、送信電波の強度が弱いこと、またPコードが軍事機密であるため完全にPコードを復調せずに用いていることから、シンチレーションによる信号の欠測が起こりやすい。この弱点を解決するため、L5信号が導入されたが、L2信号よりも周波数が若干低いため、周波数の観点からはシンチレーションの影響を受けやすい。本研究では、実観測データを用い、L1, L2及びL5信号に対する電離圏シンチレーションの影響を調べる。赤道域において、シンチレーションはプラズマバブルが原因で発生する。GNSS電波がプラズマバブルを透過しているかどうかを確認するため、赤道大気レーダーによるFAI(Field-Aligned Irregularity)の観測を行う。

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2015年7月29日作成

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