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2009(平成21) 年度 生存圏科学 萌芽研究 2

更新日: 2017/09/22

研究課題

環境応答システムに関するポストゲノム解析を利用した新規なリグニン分解菌の育種

研究組織

 代表者 入江俊一 (滋賀県立大学環境科学部)
 共同研究者 本田与一 (京都大学・生存圏研究所)

研究概要

太陽エネルギーを有効に利用するため、また、森林維持にインセンティブを与えるためには、地球上において最大のバイオマス量を占める木質資源の積極的利用が必要である。そのためには木質資源を多様な形態の資源へ変換する必要があるが、ボトルネックとなるのは、セルロース・ヘミセルロースを被覆している難分解性物質、リグニンの除去である。リグニンの除去については、従来の物理・化学的方法よりも低コストで環境負荷が少ない生物的発酵法の開発が望まれている。白色腐朽菌と呼ばれる一群の担子菌は木質リグニンを完全に無機化するが、分解開始の条件や分解経路の詳細については未解明の点が数多く、そのことが産業的なバイオリアクターの開発を妨げている。これを解決するためには、従来のようにリグニン分解に関与する個々の酵素遺伝子を取り出して個別に解析するのではなく、菌としてどの様な機構で応答してどの様な遺伝子群を発現するのか、つまり木質リグニン分解に関する白色腐朽菌の環境応答の全貌を明らかとする必要がある。その情報を得ることが出来れば、白色腐朽菌利用条件の改良、リグニン分解機構全体を制御するマスター遺伝子をターゲットとした育種が可能となる。さらに、白色腐朽菌が持つ難分解性有機汚染物質の分解能を拡げることで、ダイオキシンや多環芳香族炭化水素によって汚染された環境の迅速な修復を可能にし、地球環境の再生にも貢献することができる。

最近米国エネルギー省傘下の JGI は、白色腐朽菌で初めてゲノム解析が行われた Phanerochaete chrysosporium に続いて、Pleurotus ostreatus (ヒラタケ)のゲノム解析結果を公表した。このことはポストゲノム解析を用いて、リグニン分解系の制御メカニズムの比較・解明が可能となったことを意味する。すなわち木質リグニン分解の初発反応に重要な鍵酵素として働くマンガンペルオキシダーゼ(MnP)やリグニンペルオキシダーゼ(LiP)などのリグニン分解酵素を指標として、網羅的解析と個別遺伝子発現解析を併せた制御ヒエラルキーの解明を行うための技術基盤が整備されたことを意味している。

本研究では、上記の代表的な 2 種の白色腐朽菌におけるポストゲノム解析を組み合わせて、リグニン分解系制御メカニズムの解明を試みる。現在、ヒラタケについては各種金属イオンに対する MnP 発現の応答を詳細に調べ、それに関与する全遺伝子を検出するトランスクリプトーム解析を試みているところである。P. chrysosporium については、LiP および MnP 発現時におけるトランスクリプトーム解析を既に行っている。これら 2 つの環境応答システムの制御下にある白色腐朽菌リグニン分解系についての網羅的発現解析データを比較解析する。また、P. chrysosporium のトランスクリプトーム解析結果より、Ca2+ シグナルの二次メッセンジャーであるカルモデュリン(CaM)が LiP および MnP の生産に関与していることが示唆されているのだが、CaM 阻害剤とリアルタイム RT-PCR による転写物量測定を用いた解析により、CaM の役割について更に検討を進める。ヒラタケにおいても、金属イオンに対する応答様式について更に知見を集める予定である。このように、単にトランスクリプトーム解析情報の比較のみならず、推定的制御因子等についての生理学的解析情報も統合し、リグニン分解系発現制御における基本パスウェイの正確な解析に挑んでいく。最終的には、効率的な形質転換系が既に開発されているヒラタケを宿主とした組換えによる新規なリグニン分解菌の育種を目指す。

入江俊一 2009

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2009年10月13日作成

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