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同位体情報を活用した温帯・亜寒帯・熱帯の森林における群落スケールメタン交換量の変動要因の解明
A clarification of variable factors affecting ecosystem-scale methane exchange in temperate, boreal and tropical forests using isotope analysis

更新日: 2016/05/13

氏名 坂部綾香
共同研究者 髙橋けんし
採択年 2016(平成28) 年度

メタン(CH4)の地球温暖化への寄与率は、CO2の56 %に次ぐ32 %である(IPCC, 2013)。にもかかわらず、自然起源のCH4放出源、吸収源の推定はいまだ不確実性が高く、近年の大気中CH4濃度の変動要因は明らかになっていない。森林生態系は、CH4の吸収源と認識されているが、地上観測に基づく実態把握が進んでいない。林内では、酸化的な土壌でのCH4酸化(吸収)、還元的な土壌でのCH4生成(放出)、新たに議論されている葉、幹からのCH4放出など、多様なCH4放出源・吸収源が空間不均一に混在する。森林におけるCH4動態を理解するには、微気象学的手法によって、生態系スケールのCH4交換量を把握するとともに、チャンバー法によって、林内のどこでCH4が放出、吸収されているのかを把握する必要がある。

これまでの研究で、微気象学的手法である簡易渦集積(REA)法によって、森林生態系スケールのCH4交換量を高精度で測定するシステムを構築した。REA法による観測の結果、流域に湿地・渓流域を含む温帯林や、永久凍土上に生育する亜寒帯林が生態系スケールでCH4放出源となることを明らかにした。チャンバー法による観測の結果から、林内の湿潤な土壌からのCH4放出が、酸化的な土壌でのCH4吸収量を上回った結果、生態系スケールでCH4放出源となると考えられた。森林が必ずしもCH4の吸収源とはならないことが明らかになった。

今後は、さらに地上観測データが不足している熱帯林(マレーシアのフタバガキ林、インドネシアの泥炭湿地林)でもCH4交換量の観測を開始する。熱帯では、シロアリからのCH4放出を考慮する必要があり、生態系スケールと林内の構成要素ごとのCH4動態の理解がより一層重要となる。CH4交換量の変動プロセスを理解するために、CH4の炭素安定同位体、12Cと13Cの同位体比の情報を利用する。CH4の同位体比は、CH4生成の際の基質、酸化の程度により異なるため、林内の構成要素ごとに異なる同位体比を持つ(Stevens et al., 1988)。REA法によって生態系スケールのCH4交換量と同位体比の情報を得ると同時に、チャンバー法によって林内の各構成要素のCH4交換量と同位体比の情報を得る。両者を比較することで、生態系スケールのCH4交換量への各構成要素からの寄与を明らかにし、CH4交換量の変動プロセスを解明する。CH4交換量の定量評価と変動プロセスの理解によって、森林がCH4収支に果たす役割を明らかにできると考える。

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2016年5月13日掲載

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