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第108回定例オープンセミナー資料

更新日: 2015/08/07

開催日時 2009/12/16(水曜日)
題目 白色腐朽菌におけるリグニン分解系発現調節遺伝子の解析:高リグニン分解菌育種ターゲットの発見を目指して
Analysis of regulatory genes of ligninolytic system in white-rot fungi: Toward finding novel targets for breeding of high ligninolytic fungi
発表者 入江俊一 (滋賀県立大学環境科学部・助教)
関連ミッション ミッション 1 (環境計測・地球再生)
ミッション 2 (太陽エネルギー変換・利用)

要旨

太陽エネルギーを有効に利用するため、また、森林維持にインセンティブを与えるためには、地球上において最大のバイオマス量を占める木質資源の積極的利用が必要である。そのボトルネックとなるのは、セルロース・ヘミセルロースを被覆しているリグニンの除去である。白色腐朽菌は木質リグニンを完全に無機化するが、分解開始の条件や分解経路の詳細については未解明の点が数多く、そのことが産業的なバイオリアクターの開発を妨げている。これを解決するためには、従来のようにリグニン分解に関与する個々の酵素遺伝子を取り出して個別に解析するのではなく、木質リグニン分解に関する白色腐朽菌の環境応答の全貌を明らかとする必要がある。その情報を得ることが出来れば、白色腐朽菌利用条件の改良、リグニン分解系全体を制御するマスター遺伝子をターゲットとした育種が可能となる。さらに、白色腐朽菌が持つ難分解性有機汚染物質の分解能を拡げることで、ダイオキシンや多環芳香族炭化水素によって汚染された環境の迅速な修復を可能にし、地球環境の再生にも貢献することができる。

最近、Phanerochaete chrysosporium に続いて、Pleurotus ostreatus (ヒラタケ)のゲノム解析結果が米国エネルギー省傘下の JGI から公表された。これらの白色腐朽菌が生産するマンガンペルオキシダーゼ(MnP)やリグニンペルオキシダーゼ(LiP)などのリグニン分解酵素はリグニン分解系において重要な役割を示すと考えられている。我々は、上記 2 種の菌を供試菌として用い、LiP、MnP を指標としたトランスクリプトーム解析を行った。その結果、LiP、MnP 生産を制御する可能性のある転写関連遺伝子、シグナル伝達関連遺伝子を多数同定した。現在、個々の遺伝子についての解析を進めているところである。特に、P. chrysosporium において検出されたカルモデュリン遺伝子についての解析では、カルモデュリン阻害剤 W-7 により P. chrysosporium にコードされている全ての LiP、MnP アイソザイム遺伝子の転写が抑制されることが判明した。また、従来より P. chrysosporium の LiP、MnP 発現には細胞内 cAMP 濃度の上昇が伴うことが示唆されているが、このカルモデュリン遺伝子転写は cAMP 阻害剤により抑制されることが我々の解析から明らかとなり、カルモデュリン・シグナリングと cAMP シグナリングのクロストークが LiP、MnP 発現制御系に存在することが示唆される。

今後は、ヒラタケや他の P. chrysosporium 遺伝子についても詳細な解析を並行して進めていき、LiP、MnP 発現制御の概要を解明する。また、それら調節遺伝子の遺伝子破壊、発現抑制、過剰発現を行い、LiP、MnP 生産や木質リグニン分解能にどの様な影響が生じるかについて解析する予定である。必要に応じて、作成した組換え株のトランスクリプトーム解析なども行い、リグニン分解系発現制御における基本パスウェイの正確な解析、育種ターゲットとして有望なリグニン分解を制御するマスター遺伝子の同定に挑んでいく。

S0108_Irie

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