概要
2018(平成30)年9月11日~13日に情報通信研究機構にて開催した中間圏・熱圏・電離圏(MTI)研究集会では、一部未完成となっているMTIハンドブックの最終完成を目指し、主に未完成項目に関連する基調講演者を招待して、基礎知識から最新の研究成果に関する知見を共有した。また、学会とは異なり、若手研究者(特に学生およびポスドク)の育成の観点から、彼らには最新の研究成果をポスター発表形式で行ってもらい、今後の研究指針等の議論ができる場を提供した。
目的と具体的な内容
中間圏・熱圏・電離圏(Mesosphere, Thermosphere and Ionosphere; MTI)研究集会は、宇宙空間と地球大気圏をつなぐMTI 領域の特徴を意識し、この領域で生ずる物理・化学過程の理解を深め、他の研究領域や社会への応用を俯瞰的に捉えることである。今回開催したMTI研究集会では、一部未完成となっているMTIハンドブックの最終完成を目指し、主に未完成項目に関連する基調講演者を招待して、基礎知識から最新の研究成果に関する知見を共有した。そして、講演者または聴講した若手研究者が、講演内容を初学者に役立つテキストとして整理し、来年度の4月末までにMTIハンドブックとしてweb上で公開することが決まった。また、学会とは異なり、若手研究者(特に学生およびポスドク)の育成の観点から、彼らには最新の研究成果をポスター発表形式で行ってもらい、今後の研究指針等の議論ができる場を提供した。本年度は、4つの「平成30年度第1回現象報告会」、「宇宙空間からの地球超高層大気観測に関する研究会」、「IUGONET研究集会」、「科学とデータ」との合同研究集会として9月10日から14日までの5日間にわたって開催した。その結果、太陽から中層大気にわたる幅広い分野の研究者、学生が集まり、MTI分野に特化した研究内容だけでなく、観測データベース構築とその利活用に関する有意義な議論が展開された。
生存圏科学の発展や関連コミュニティの形成への貢献
地球大気圏の中でも本研究集会が焦点を当てているMTI領域は、太陽放射と太陽風のエネルギー流入による宇宙空間からの影響に加え、下層大気から伝搬する大気波動などによって激しく変動するまさしく宇宙圏と地球大気圏をつなぐインターフェイス領域である。したがって、この領域で発生する諸現象の解明には、MTI分野のみならず、太陽から気象分野で活躍する研究者が連携した学際型の共同研究を進める必要がある。また、MTI領域で発生する擾乱現象は衛星測位に対する誤差要因になり、地球上で生活する人類の活動に必要なインフラに影響を及ぼすため、MTI領域の研究結果は社会応用的な側面を持つと考えられる。本合同研究集会の開催によって、太陽から中層大気、衛星観測技術、データベース利活用とオープンサイエンスにわたる幅広い分野の研究者、学生が集まり、研究分野の枠を超えた研究者コミュニティの形成につながった。そして、京都大学生存圏研究所が推進している研究ミッション、「環境診断・循環機能制御」(新ミッション1)と「宇宙生存環境」(新ミッション3)を将来支える若手研究者の育成に貢献した。一方、合同で開催した「IUGONET研究集会」にはデータ解析講習会が組み込まれており、その講習会を通じて学部・大学院生による京大生存研が保有する生存圏データベースの利用法の促進につながった。
合同研究集会プログラム
- 平成30年度・第1回STE(太陽地球環境)現象報告会
主催: 名古屋大学宇宙地球環境研究所
日程: 2018年9月10日(月)~11日(火) - 中間圏・熱圏・電離圏(MTI)研究集会
主催: 名古屋大学宇宙地球環境研究所/国立極地研究所/京都大学生存圏研究所/情報通信研究機構
第380回生存圏シンポジウム
日程: 2018年9月11日(火)~13日(木) - 宇宙空間からの地球超高層大気観測に関する研究会
主催: 名古屋大学宇宙地球環境研究所
日程: 2018年9月12日(水) - IUGONET研究集会 第5回太陽地球環境データ解析に基づく超高層大気の空間・時間変動の解明
主催: 名古屋大学宇宙地球環境研究所/国立極地研究所/京都大学生存圏研究所/情報通信研究機構
第381回生存圏シンポジウム
後援: 生存圏研究所男女共同参画推進委員会
日程: 2018年9月12日(水)~14日(金) - 科学とデータ研究集会 ~オープンサイエンスとデータ駆動型科学の将来像をさがす~
主催: 情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設
日程: 2018年9月12日(水)~14日(金)
2018年9月10日(月)
13:25–13:30 | 合同研究集会趣旨説明および連絡事項 横山竜宏(NICT:合同研究集会世話人) |
平成30年度・第1回STE(太陽地球環境)現象報告会 【座長:西谷望】 |
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13:30–13:50 | 期間概況報告 阿部修司 |
13:50–14:10 | 宇宙天気長期変化の概況報告 篠原学 |
14:10–14:30 | 宇宙線中性子データ報告 渡邊堯 |
14:30–14:50 | あらせ衛星による高エネルギー電子の観測 三谷烈史 |
14:50–15:10 | 地磁気現象概況報告2018年3月~2018年8月 長町信吾 |
【座長:久保勇樹】 | |
15:25–15:45 | 現象報告期間(2018.3–2018.9)における北海道-陸別第一・第二レーダーを中心としたSuperDARN観測報告 西谷望 |
15:45–16:05 | EE-indexに基づく赤道地磁気活動の概況報告 阿部修司 |
16:05–16:25 | NICT電離圏観測報告 津川卓也 |
16:25–17:25 | Space Weather Policy Seth Jonas |
2018年9月11日(火)
【座長:阿部修司】 | |
09:30–09:50 | データ駆動による太陽地球系の未知現象解明へのアプローチ 梅村宜生 |
09:50–10:10 | 広範囲で観測される太陽高エネルギー粒子現象 久保勇樹 |
10:10–10:30 | 流星ELF/VLF電波放射観測における最近の動向 渡邊堯 |
【座長:篠原学】 | |
10:45–11:05 | 全球GNSS-TECとあらせ衛星観測に基づく磁気嵐時の中緯度電離圏卜ラフの時間・空間変動特性について 新堀淳樹 |
11:05–11:25 | SAPS発生における太陽天頂角の効果について 張玉テイ、西谷望、堀智昭 |
【座長:阿部修司】 | |
11:25–11:55 | 討論(現象が少ないこの時期の現象報告会のあり方について) |
中間圏・熱圏・電離圏(MTI)研究集会 MTIハンドブックpart 1 | |
13:35–13:40 | 趣旨説明 横山竜宏(NICT) |
【座長:横山竜宏(NICT)】 | |
13:40–14:40 | 基調講演:電離圏シミュレーション 品川裕之(NICT) |
15:00–15:40 | 中層大気中の物質輸送についての一レビュー 村山泰啓(NICT)、坂野井和代(駒澤大学) |
15:40–16:20 | GPSを用いた電離圏電子密度トモグラフィ 齊藤昭則(京大理)、山本衛(京大RISH)、齋藤享(ENRI) |
2018年9月12日(水)
MTIハンドブックpart 2 【座長:冨川(NIPR)】 |
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09:30–10:30 | 基調講演:中層大気における鉛直結合および南北両半球間結合 佐藤薫(東大理) |
宇宙空間からの地球超高層大気観測に関する研究会 | |
10:35–10:50 | 宇宙空間からの地球超高層大気観測の現状 齊藤昭則(京大理) |
10:50–11:10 | 全大気圏衛星観測計画 —超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES-2) 塩谷雅人(京大RISH)、○齊藤昭則(京大理)、SMILES-2ワーキンググループ |
11:10–11:30 | 宇宙地球結合系探査衛星計画「FACTORS」の現状と予定 ○平原聖文(名大ISEE)、齋藤義文、小嶋浩嗣、浅村和史、FACTORS計画準備グループ |
11:30–11:50 | 希薄大気観測に向けた中性粒子分析器の開発 ○笠原慧(東大理)、沖津由尚、平原聖文、齋藤義文、横田勝一郎 |
11:50–12:10 | SLATSとの共同研究による中性大気密度の推定について ○三好勉信、藤原均、東尾奈々、歌島昌由、Huixin Liu |
13:10–13:30 | 国際宇宙ステーション(ISS)からの超高層大気観測の可能性 齊藤昭則(京大理) |
13:30–13:50 | 火星における宇宙天気・宇宙気候探査計画 関華奈子(東大理)、山崎敦、○寺田直樹(東北大理)、松岡彩子、中川広務、横田勝一郎、笠原慧、斎藤義文、坂野井健、今村剛、笠羽康正、塩谷圭吾、二穴喜文、熊本篤志、臼井寛裕、前澤裕之、笠井康子、佐川英夫、田口真、三好由純、原拓也、黒田剛史、堺正太朗、藤田和央、佐々木晶、火星宇宙天気・宇宙気候探査検討チーム |
13:50–14:45 | 議論:今後のMTI分野の衛星観測の方向 |
15:00–17:30 | 合同ポスターセッション (ポスターボードサイズ 横90cm × 縦210cm)
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18:00–20:00 | 合同懇親会(NICT研究交流センター) |
2018年9月13日(木)
データ解析講習会 【講師:梅村宜生(名大)、IUGONET開発員】 |
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09:30–09:45 | イントロダクションとセットアップ |
09:45–10:15 | SPEDAS基礎講習(全員) |
10:25–11:45 | SPEDAS応用編(以下の2つを並列開催)
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11:45–12:00 | 質疑応答 |
中間圏・熱圏・電離圏(MTI)研究集会 MTIハンドブックpart 3 【座長:横山竜宏(NICT)】 |
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13:40–14:40 | 基調講演:電離圏イレギュラリティと大気圏-電離圏結合過程 山本衛(京大RISH) |
15:00–15:40 | ニューラルネットワークの関数近似能力と応用 丸山隆(NICT) |
15:40–16:20 | 磁気圏-電離圏結合の基本原理と未解明問題について 新堀淳樹(名大ISEE) |
2018年9月14日(金)
IUGONET研究集会・科学とデータ研究集会 開会、チュートリアル講演 |
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09:30–09:35 | 趣旨説明 村山泰啓(NICT) |
09:35–10:05 | 地球惑星科学に関するオープンデータの研究と教育への利用 齊藤昭則(京大) |
セッション1 オープンサイエンス・データサイエンスの現状と将来像(1) 【座長: 田中良昌(極地研)】 |
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10:05–10:25 | オープンサイエンスとデータ駆動型科学:データのサイエンスが目指すものは何か 村山泰啓(NICT) |
10:25–10:45 | データからアクションへ ~専門的オープンデータに関するユーザとアプリケーションのモデル 北本朝展(ROIS-DS-CODH/情報研) |
10:45–11:05 | データ駆動型シミュレーションと今後の展開 中野慎也(統数研) |
セッション2 新しい太陽惑星研究成果を生み出す手法 【座長: 梅村宜生(名大)】 |
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11:20–11:40 | 深層学習と数値計算を用いたナノフレアの検出およびエネルギー導出手法の開発 河合敏輝、今田晋亮(名大) |
11:40–12:00 | 木星磁気圏の光学観測データに対するLassoを利用した変動周期のスパース推定 鈴木文晴、吉岡和夫、吉川一朗(東大) |
13:00–13:20 | グローバルMHDシミュレーションによる電離圏対流構造の再現性についての検証 才田聡子(北九州高専)、藤田茂(気象大)、門倉昭(ROIS-DS-PEDSC/極地研)、田中高史(九州大学)、田中良昌(ROIS-DS-PEDSC/極地研) |
セッション3 高度な科学成果を目指す取り組みと計画 【座長: 新堀淳樹(名大)】 |
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13:20–13:40 | 大型研究計画「太陽地球系結合過程の研究基盤形成」マスタープラン2020への提案に向けて 山本衛、橋口浩之(京大)、宮岡宏、小川泰信(極地研)、塩川和夫、野澤悟徳(名大)、吉川顕正(九大)、津田敏隆(ROIS) |
13:40–14:00 | 超高層大気分野のデータ利活用促進、成果創出のための取り組み 田中良昌(ROIS-DS-PEDSC/極地研)、梅村宜生(名大)、阿部修司(九大)、新堀淳樹(名大)、上野悟(京大)、能勢正仁(名大) |
14:00–14:20 | 京大RISHにおける大気レーダー観測データベースの公開 橋口浩之、津田敏隆、塩谷雅人、山本衛(京大)、新堀淳樹(名大) |
セッション4 データサイエンスを推進するためのデータ整備・保存、公開方法 【座長: 阿部修司(九大)】 |
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14:40–15:00 | 再現と共有を可能とするデータ可視化方法について 今井弘二、村山泰啓(NICT) |
15:00–15:20 | データ保存の信頼性向上について 南山泰之(極地研) |
セッション5 オープンサイエンス・データサイエンスの現状と将来像(2) 【座長: 阿部修司(九大)】 |
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15:20–15:40 | ERG サイエンスセンターでのデータアーカイブ・公開およびデータ引用に関する取り組み 堀智昭、三好由純、寺本万里子、津川靖基、T. F. Chang、瀬川知紀、梅村宜生、小路真史、栗田 怜、松田昇也(名大)、桂華邦裕(東大)、宮下幸長(韓国天文研究院)、関華奈子(東大)、田中良昌(ROIS-DS-PEDSC/極地研)、西谷望(名大)、浅村和史、高島健、篠原育(宇宙研) |
15:40–16:00 | データセンターにおけるオープンサイエンス活動の現状と将来像 ~AE indexの算出と公開を例として~ 田口聡、竹田雅彦(京大) |
16:00–16:20 | Webブラウザにおけるオープンサイエンスデータのインタラクティブな可視化ツールの開発 柏田元輝、才田聡子(北九州高専) |
総合討論、閉会 | |
16:20–16:40 | 総合討論 【座長: 田中良昌(ROIS-DS-PEDSC/極地研)】 |
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2018年7月10日作成,2018年10月16日更新